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14 伯爵はホテルへと戻ります

 結論からいうとアナベラは私と共に王国へ行くことを了承しました。

『嫌になったらスグ帰るわよ!』と連呼していましたが、一度連れ帰る事が出来ればこっちのものなのです。

 まぁアルジーたちに押し付ける事になってしまうと思いますが何とかなるでしょう。


 そしてその日は喫茶店の入り口でアナベラと別れました。

 話し込んでいたせいかすっかりと遅くなってしまいましたね。

 もぅすでに、日はわずかにのぞかせる程度になってしまいました。

 しばらくしたら夜の帳が降りてしまうでしょうね。

 あたりに行き交う人々も、足早に自宅へと急いでいるようにみえます。

 私もホテルへと急ぎましょう。






§ § §





「お帰りなさいませ、お嬢――伯爵様」


 ホテルの部屋に戻った私を、侍女レディス・メイドのアンナが出迎えてくれます。

 アンナはいまだに私の事をお嬢様と言いかけるのよね、まぁ昔から私の侍女レディス・メイドだったから仕方ないかもしれないけど。


「ただいま、アンナ」


「ご学友と、お話しは弾みましたか?」


「うん、とても有意義な時間が過ごせたわよ」


 アンナに着替えを手伝ってもらい、イブニングドレスに着替えた私は、部屋に備え付けのダイニングベンチに腰かけて体躯からだを伸ばしていました。


「それはようございましたね。先方も喜ばれたでしょう」


 そう言いながら、アンナはこれまた備え付けのテーブルに、この国で最近はやっているという濃いめのコーヒーをそっと置いてくれました。

 これ、香りは良いのだけれど、真っ黒な見た目とドロリとしたまるでスープのような舌触りがなんか好きになれないのよね。

 私は「ありがとう」と言ってカップを手に取ると、口を付けて唇を湿らせます。


「えぇ、とっても喜んでくれたわ。それで王国に戻る時はもう一人、同行者が増えてるはずだから、そちらの世話もお願いね?」


 それを耳にしたアンナは一旦手を止め、私の方を振り返ります。


「同行者でございますか?それは……」


「えぇ、アナベラ・ダルラン――今日遭いに行った元学友よ」


「ダルラン様でございますか、畏まりました」


「うまく機嫌をとってウチで働かせる予定だから、失礼のないように宜しく頼むわよ」


 そう言って私はニコリとアンナに微笑みます。


「その様子ですと、完全に説得できたわけではなさそうですね」


「そうかも知れないわね。でもどうしてそう思うの?」


「それぐらいわかります、おじょ――伯爵様に長年仕えているのですからね」


 そう言ってアンナもニコリとほほ笑み返してきました。


「そうなのよねぇ。最初は検討してみるって言われたんだけど、そこをなんとか一度ウチの領地を見てから決めてもらうように説得したのよ」


「一度シュルーズベリーを見てからでございますか?……都会暮らしが長いかたですと逆効果にならなければ良いのですが……」


 言わんとする事はわかります。

 ウチは田舎だから、都会暮らしが長い人だと合わないかも知れないと言っているのでしょう。


「……ま、まぁ、ソコはアレよ!一度ウチに連れ帰ってしまえば何とかなるわ、大丈夫よ。……大丈夫よね?」


「さぁ?私には存じかねます」


 と、アンナはそっけなく言ってくれます。


「えぇ~。アナベラがウチに来ないと私が楽できなくなっちゃうんだけど?」


「あら?伯爵様が楽をするためにダルラン様を呼ばれるのですか?」


「そりゃそうよ、ウェズを雇って以前よりマシになったとはいえまだまだやる事は山積みなんだから。伯爵を継いでからと言うもの、全然錬金術の実験も出来てないんだよ?」


「そういう事でしたらダルラン様のお機嫌を損ねて、帰ってもらった方が良いのかも知れませんね」


「ちょ、アンナ!」


 その言葉にびっくりして私がアンナのかおをじっとみつめると、アンナは妖しく笑いました。


「ふふふふ、冗談でございますよ。驚かれましたか?」


「……もぅ、そう言った冗談は心臓に悪いからやめて。びっくりしたじゃない」


 もう、アンナはいぢわるな所があるんだから。

 元々私が錬金術をやるのに否定的だったし、冗談かどうかわかりずらいのよね。


「それはそうと、そう言ったご事情でしたら、お手紙で先にご領地へお知らせた方が良いのではないでしょうか」


「あら。……それもそうね。そうする事にするわ。ありがとう、アンナ」


「よろしければ私の方でお手紙をしたためましょうか?後で内容のご確認とご署名を頂戴いたしますが」


「そうね、良ければ頼めるかしら?」


「承知いたしました」


 アンナはこういった細やかな事に気が利くので助かっています。


「それで、これからのご予定はどうなさいますか?」


「今日はもう用事は無いわよ」


「左様ですか、明日はどうでしょう?」


「明日は恩師に会いに行くけど……その後は未定ね」


 恩師は恩師でめんどくさい人だけど、折角来たからには挨拶しないわけにもいかないのよねぇ。

 特に何も起きなければいいけど……。


「了解いたしました」


 その時、部屋のドアがコンコンとノックされると、アンナはドアに駆け寄りました。

 そしてドアの外の者と二言三言話すと、


「伯爵様、食事の用意が出来たようです」


「わかったわ、スグ行くと伝えて」


「はい」


 私はダイニングベンチから立ち上がると、食事へと出かけるのでした。

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