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12 伯爵のヘッドハンティング、うまくいくといいな

 その時、『コンコン』と、ドアがノックされました。

 私は「どうぞ」と声を掛けます。


「失礼いたします」


 入って来たのは店員さんでした、丁度、注文したものが来たようですね。

 お茶とお菓子が私とアナベラの前に並べられ、店員さんは、一礼して扉の向こうに退出していきます。

 うわー、良い感じにふわふわしててとっても美味しそう!


「いっただきまーす」


 と言ってから私はフォークで切り分けたケーキを口に運びます。

 ぱくっ。


「うん、美味しい~」


 甘くて、それでいてしつこくない味が口の中一杯に広がります。

 これだけで学院を訪れてよかった――そう思えるほどの味です。

 本当にこのお店、ウチの領地で支店を出さないかしら……。

 いざとなったら全額費用負担はウチ持ちで支店を出させて――。

 などと本気で検討しそうになってしまいます。

 危ないあぶない。

 まだウチの領地は財政改革中であり、そのような事に回せるお金は残念ながら無いのです……。


 アナベラもクッキーをぱくぱくと口に放り込んでいますね。

 王国に帰る前に、私もあのクッキーをお土産に買って帰るのを忘れない様にしないといけませんね。

 と思いつつも、私はアナベラに問いかけます。


「それで?私が王国に帰ってから何があったの?」


「さっきも言ったでしょ?彼はこの国の高位の貴族の血縁で理事会にも影響を及ぼす事が出来たって」


「うん、聞いたよ、それで?」


「……アルシア、貴女は実にタイミングよく学院を離れたわよ。あのままだったらいずれ放校処分になっていたでしょうね。伯爵を継ぐための自主退学と放校処分では外聞的にも大きな差ですもの」


「放校処分?」


「えぇ、学院では決闘は強く禁止されてるでしょ?勿論もちろん普通は両者ともに同じ罰則のはずなんだけどね。……どうも自分から決闘を申し込んだくせに、衆目の面前でアルシアにボコボコにされ恥をさらしたのがよほど腹に据えかねたみたいね。その高位貴族が理事会を動かそうとしてたらしいの。教授からそう聞いたわ」


「へぇ……」


「……『へぇ』ってアルシア、随分と軽いわね」


「まぁ、過ぎた事はしかたがないしね。それで?それだけ?」


「……それだけじゃないわよ。アルシアの立ち合い人になったばっかりに、私まで眼を付けられてしまって……どうしてあそこまでやらせたんだって、早く止めるべきだったって」


「どうしても何もアナベラは全然悪くないのにね。向こうが負けを認めないんだからしょうがないじゃない」


「……彼は魔法で強引に治したせいで骨が正常に戻らなくなったみたいで、手足に後遺症が残ったって聞いたわ。自業自得だと思うけどさすがにね……」


「あらそうなの?私に任せてくれればちゃんと元通りに直してあげたのになぁ」


「……あそこまでする必要あったの?」


「だって、頭部や腹部を狙うと命に係わるかも知れないでしょう?だから手足を痛めつけるしかなかったのよ」


 いくら彼のしつこさに参っていたとはいえ、さすがに殺す気はなかったので、生命には影響しない手足を重点的に狙ったのです。

 手足に後遺症が残ったのは意外でしたね。あまり重傷者に慣れていない回復魔法の使い手だったのでしょうか?

 きっと彼のことだから、私にしたように、回復のお金もケチったのかもしれませんね。


「じゃアナベラ、今学院で居場所が無い感じなの?」


 私がそう言うと、アナベラは不自然に視線をそらします。

 だからさっきも一人だったんだ。

 ふーん。

 でも私にはいろいろと好都合かもしれませんね。

 そこで私は学院を訪ねた、一番の理由を話す事にしました。


「アナベラ……良かったらだけど、ぜひウチの領地に来てくれないかしら。歓迎しますよ?」


 するとアナベラは『は?』というかおをします。


「ちょっと……アルシアどういう事よ?」


「ウチの領地でね。いろいろな事をする事業計画があるのよ。でもね、それを行うべき錬金術師がいないの。だからアナベラが来てくれないかなって」


「事業計画?」


「うん。私錬金術が得意じゃない?だからね、それを領地経営に生かせないか、いろいろな事を考えたんだけど……。錬金術が使えるの私だけだし、王国では錬金術師の立場がこの国より低いのよ。だから伯爵自らそういった作業をするのはまずいって言うのよ」


「まずいって……だれがそんな事を?」


「ウチの領地管理人ランド・スチュワードとその補佐役よ。だから私以外に錬金術を使える人が必要なの


「……具体的には私にどんな事をやらせるつもりなの?」


「とりあえずポーション作成を考えているのよ。薬草栽培については先行で行っているわ」


「あぁ、ポーションね」


 ポーションと聞いてアナベラは納得したようでした。

 ポーションの需要は何処でも高いのです。

 なんて言っても回復魔法の使い手は多くなく、そのうちの多数を教会が囲っており、利用する為には高額の喜捨が求められるのですからね。

 そして、その魔法も使い手の体調などによっては効果量も変動するのですから。

 その点、ポーションであれば魔力を持ってさえいれば回復魔法を使えずとも調合できますし、それなりの量を纏めて作成する方法も確立されております。

 また、一度作成に成功してしまえば、どのポーションを使っても効果量は一定ですからね。

 はっきりいえば、これさえ作っていれば錬金術師は一生くいっぱぐれる事は無いのです。


「普通の錬金術師じゃダメなの、腕が一流じゃ無いとね。その点、アナベラならピッタリだと思うんだけど……ダメかな?」


 そう言って、私はアナベラに向かってニコリとほほ笑んだのでした。

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