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09 伯爵は廃鉱山に出かけます

 その日の事。

 私は、伯爵領にある廃された鉱山跡地に来ていました。

 シュルーズベリー鉱山跡と呼ばれる場所ですね。

 廃されてから百年以上たったこの場所にわざわざ赴いた理由は、採算性の再確認と、あとは領民の一部から要望が上がっていた、魔物の駆除についてです。

 どうも人が滅多に入らなくなったせいで、一部の魔物が住み着いたみたいですね。

 一緒に居るのはウェズともに領地から腕の立つ者を引き連れて来たのだけれど……。

 なぜかお姉様の姿も見えますね……。

 なぜでしょう?危ないですよ?

 ウェズは元王国陸軍士官だけあり、それなりに腕は立つようですね。

 私は臆病者なので、錬金術で付与された数々の魔法具を身に付けています。

 この来ている外套の裏には防御の刻印がしてありますし、身に付けているフランネルのシャツには魔術の抵抗力が上がる魔銀の糸を織り込んであります。

 それだけじゃないですよ?移動速度が上がるブーツに、体躯からだに魔力での簡易障壁を張り巡らすイヤリングや指輪、首飾りなどなど。

 これだけでもし売却したらちょっとしたひと財産なのです。

 ……勿論もちろん売りませんけどね!


 これ留学していた学院時代にいろいろ伝手を駆使して材料を集め、私自ら作り上げた装飾です。

 ふふふ、これでも自慢じゃないですが学院では錬金術でトップの成績だったのですよ。

 正直、今まで出会った人々で私より明確に上にいるのは、学院で私を指導してくれた恩師以外にいないという自信があります。

 ……く、あのまま学院に在籍していれば、いずれは恩師と肩を並べる存在になり、もしかすれば後継者に選ばれたかも知れないのに……。

 ……まぁ、今はその事は置いておきましょう。


「しかし、お姉様は本当にこんな所まで来ても良かったのですか?あぶないですよ?」


「あら、そのために、私の修道服に付与をしてくれたのでしょう?」


 そうです、お姉様が一緒に行くと言ってきかないので、その服に防御の付与をしてあげたのです。

 具体的には魔法耐性、衝撃耐性、防刃耐性、自動回復オートリジェネレーションですね。

 あとはおまけに汚れにくくなる効果も付けてあげました。


「そりゃ……まぁ、してあげたけどさ。万が一と言う事もあるかもだし」


 そう言いながらも私は、積み上げられた廃鉱石をいくつか手に取り魔法陣中央の上に乗せると、


<錬金!>


 と、魔力を注ぎ錬金の術式を起動させます。

 すると金属にならないクズとキラキラと光る砂粒に分かれました。

 うん、やっぱりね。


「アルシア……これって、まさか……」


「うん、銀と金だよ。やっぱり混じっていたのね」


「ま、まさか!?廃鉱石の中に銀や金が?」


「えぇ、と言ってもまぁ微量だけど、今の貴金属相場なら利益にはなりそうね」


 これは畑でやった有機物と土を混ぜ合わせるのとは逆の方法です。

 不純物から特定の金属を取り出したのです。

 と言っても銀が大半で金はホンの微量なんですけどね。

 金はともかくとして、銀は大抵の銅鉱石に含まれる事が多いのです。

 この事実はあるレベル以上の錬金術師なら知っている事実なのですよ。

 何と言っても貴金属を作り出すのが、錬金術師の真の目標ですからね。

 ですが、この方法で廃鉱石から銀や金を取り出している錬金術師は少ないでしょう。

 理由は魔力の消費量のわりに、得られる金銀が少ないからです。

 わりに合わない、そう思っている方が多いのです。

 こんな事をするぐらいならポーションなどを作っていた方が利益になりますからね。


 そこで私が編み出したのが、この魔法陣です。

 この魔法陣さえあれば、錬金術を学んでない者でも、魔力を流すだけで銀や金を取り出す事が出来るという優れモノなのです。

 優れモノなのですが……。


「す、すごいじゃないアルシア!」


 お姉様は無邪気に喜んでいますがこれにはこれで欠点があります。

 まずは魔力を持った者が必要な事。

 次がこの魔法陣を作らなければならない事です。

 誰が作るのでしょう?勿論もちろん私です。

 この魔法陣は消耗品で有り、数回使えば使用に耐えなくなってしまうのですよ。


「は、伯爵様。この方法は廃鉱石以外にも使えるのでしょうか?」


「うん、大丈夫だよ。この方法はむしろ、銅などの鉱石から不純物を取り除くのが主で、銀や金を取り出すのはおまけだからね」


「……そうなると、鉱脈の採算性が上がりますね。再調査する必要があるようです」


「そうね、そのうち財政の余裕が出来たら鉱脈の再調査の計画を立ててちょうだい」


「先ほどの伯爵様の錬金術を見る限り、新たな鉱脈を探さずとも、廃鉱石の山からでもそれなりの利益が見込まれるかもしれません」


「うーん、だけどあの魔法陣を創るのも割と手間なのよね。やっぱり錬金術師が私しかいないのは不便だなぁ……」


「……左様でございますか。このように画期的な方法が、人材不足で思うように活用が出来ないのが残念でございますね」


「本当にそうね。と言っても鉱山の再開発は鉱毒とかいろいろ考え無きゃいけない事もあるから、今の段階ではスグには手を付けられないけどね」


「その通りでございますね。現時点の財政状況ですと、おいそれと鉱山へ投資する余裕も無いですから丁度良かったのかもしれません」


「……本当に残念ねぇ。金銀を眼にしながらしばらく手を付けられないというのは」


「でもアルシアならスグにどうにかしちゃうんでしょ?」


 と、お姉様が口を挟んでとんでもない事を言います。

 いや、無理ですから。


「……本当にお姉様はそう思っていらっしゃるんですか?」


「えぇ、本当にそう思っていますよ」


 そう言って、お姉様はニコリとほほ笑んだのでした。

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