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別行動

 あれ?今日のご飯は美味しいや。


 数時間でジンと陽炎は見張りを交代。朝方に陽炎が起きる前にジンは朝食を用意していた。騎士は毎日朝からハードな訓練があるため、朝ごはんは精のつくパンに肉や野菜を挟んだもの、それに野菜スープだ。昨日の食事の事があったからだろう。陽炎は一口め、恐る恐るといった感じで食事を口にしていたのが、ジンにはなんだか可笑しくてくつくつ笑ってしまった。


 次の食事はオイラがつくるよ。こう見えて料理は得意なんだ。


 陽炎の言葉に、なら頼むとしようかの、とジンは答えた。昇る朝日を眺めながら、揺れる草草の中二人で食事をとる。陽炎は恐らく20代前半。なんだか孫と食事をとっている様で、ジンは少し胸の辺りが暖かい気がした。


 魔物を見つけると、ジンは素早く馬車から飛び降り駆けた。その度に陽炎は荷台に乗りぴょうんぴょんと跳ねながらジンの戦う姿を見ようと飛び上がっていた。魔物とジンが接近すると、気が付けば魔物の首は斬り落とされている。まさに瞬殺という言葉がぴったりの光景だった。常人の眼には何が起きたかなど分からないだろう。それでもジンが馬車に戻ると、陽炎は手を叩き喜び褒めてくれた。その喜びようにジンはなんだか気恥ずかしかったが、悪い気はしなかった。


 ジンさんは本当に凄いや!流石だよね!!こう、ヒュヒュって二回振ったただけで、四匹のワーウルフが切れてるんだもん!あれって魔力を飛ばして斬っているんだよね?オイラそういう器用な真似できないから羨ましいや。


 なんと!ジンは驚いた。陽炎にはあれが見えていたという。物事は何事にも慣れというものがいる。眼だってそうだ。速い物を見続ければ、人間案外慣れて、その動きが見えるようになる。普段から神速の剣を振るい続けてきたジンには勿論己の剣筋が見えているが、それを普段から目にしていない陽炎があれを見えるとは。天性の物か。小さいころから鍛え上げていれば、彼は中々いい剣士になれたかもしれないな。そんな事を思い荷台に戻ると、陽炎は再び馬の手綱を取り馬車は走り出した。


 のぉ、良ければ此度の一件が終わった後、剣でも学んでみるか?


 思いがけないジンの提案に、陽炎は驚き振り返る。これまでの道中で分かったが、陽炎は戦闘はからっきしだめだ。だがその運動神経は良かった。魔物と戦えるかと問うた時、陽炎は戦えはしないが、どんな魔物が来ようが逃げ切れると笑っていた。


 初めはそんな馬鹿なと思ったが、実際に陽炎が魔物と相対したときは驚いた。ワーウルフは弱いが、複数でいた時その速度と連携には目を見張るものがある。だが陽炎は、そんなワーウルフ相手にまるで子供と遊んでいる大人のように笑いながら攻撃を躱し続けた。更に先ほどの眼の良さ。ジンは陽炎に戦闘の才能があるのではないかと考えたのだ。


 んー、嬉しいけど、オイラ剣の方はからっきしなんだ。でも、それでもよかったら護身用に少し教えて欲しいかな。


 陽炎にしては、恐る恐るという感じでジンに聞いてきた。勿論じゃ。ジンは微笑み答えると、陽炎は今にも踊りだしそうな勢いで喜び、そして再び手綱を引いた。手綱から陽炎の気持ちが伝わったのだろう。馬は少し速度を上げ、まるで楽しんでいるかのようにスキップしながら進んでいた。

 

 それじゃ、オイラは行くよ。好きな所を旅してていいからね。どこにいても見つけられるから。


 伯爵邸のあるスタンリー街へはここから馬車で4日走ったところにある。だが陽炎は此処で馬車を売り払い、徒歩で行くという。彼からすれば、馬で行っては目立ってしまうため、そして足で走った方が速いからだという。

 

 へへ。オイラはこの自慢の足があるから大丈夫だよ。馬はジンさんにあげる。


 陽炎はそう言うと、路地裏に一人入り、暫くすると若い駆け出しの冒険者の様な格好をして出てきた。これには再び目を見開きジンは驚いた。全く凄い才能じゃ。ここまで見事な変装だと、そういった魔法があるのではないかと疑ってしまう。それじゃ、またね。陽炎がそう言い足を動かそうとしたとき、ジンが声をかける。

 

 陽炎。無茶だけはするな。儂は元剣聖じゃ。何かあればすぐに助けを呼びにこい。大抵のものは解決できるじゃろう。お主一人の未来くらい斬り開いてやる。安心しろ。


 何も根拠はないが、それでも陽炎にとってジンの言葉は心にしみた。へへっ。じゃあ行ってくるね。陽炎はそう言うと、街の外に向かって歩き出した。ジンはその背中を見えなくなるまで見守り、そして踵を返した。


 馬を宿に預け、ジンはまずは情報収集へ出かける。孤児院は基本的に少し大きめな街にはどこにでもある。孤児院は教会が運営し、教会の近くには大抵ある。ならばとジンはまずこの街の教会を目指す事し似た。


 街の外れ、周りには建物が少なく開けた場所に教会があった。教会には、祭日などには人が集まるため、周りの建物のに住む人たちに迷惑が掛からないよう、少し開けた場所などに出来るのが通例だ。どうやらこの街も例外ではないようだ。広い庭を有するでかい敷地の中に、こじんまりと白く建っている教会。後ろに見える少し大きめな一軒家が、恐らく孤児院となっているのだろう。


こんにちは!お祈りですか?シスター狙いですか?


こんにちは!旅の人ですか?シスター狙いですか?


 敷地内に入ると、小さな男の子二人が駆け寄ってきてそう尋ねてきた。その両手には、しっかりと雑草が握られている為、恐らく草むしりをしている最中だったのだろう。膝にも頬にも体中に砂が付いている。どうやったら草むしりでそこまで汚れるの聞きたいが、まぁそれが子供だろう。ジンは優しく子供の質問に答えることにした。


 そうじゃのぉ。儂はお祈りで来たのじゃが、いいかのぉ?


 ジンのその柔らかい物腰と表情に、子供たちは安心したのか、うん!なら案内してあげる!と元気に答え教会の方に走り出してしまった。これ、そんな恰好で教会に入っては敷地内が汚れてしまうぞ!ジンがそう言うと、子供たちは教会の入り口に入る寸前でぴらりと止まり、そして慌てて振り返った。


 危ない!またシスターに教会に草をばらまくなって怒られる所だった!


 危ない!またシスターに雑草を持って入るなって怒られる所だった!

 

 男の子二人は教会の入り口横に草を丁寧に置くと、じゃあいこっか!と教会の中に入ってしまった。違う、そうじゃない。ジンは呆れて子供達を止めらるのを忘れて見送ってしまった。確かに草を持ち込むのは良くないが、それよりも二人の格好が砂だらけで汚いんじゃ。ジンは深くため息をつき、仕方ないと足を進めようとした時、中から先ほどの二人が泣きながら出てきた。


 ほら、何度言わせるのです!教会の中に入る時は、体の砂を落としてからと言っているでしょう!


 その様子は見てないが、恐らく二人は拳骨でも食らったのだろう。泣きながら頭を押さえふらふら出てきた二人の後ろから、シスターが腰に手を当てて出てきた。そしてそこでジンは先ほどの子供の言葉の意味が分かった。


 うわーん!またシスターにぶたれた!このおっぱいお化け!


 うわーん!シスターの拳はすごく痛いんだよ!おっぱいはふわふわなのに!!


 腰に手を当てて胸を張るシスターのその胸は、まさに神がかっているといっても過言ではなかった。腰の括れとは正反対に、服がはち切れそうなほど豊満な服。顔も可愛らしく、恐らく街では人気のシスターなのだろう。


 儂、お祈りじゃなくて、シスター狙いだったかもしれん。

 

 ジンはそう思い直したが、決して言葉にはせず表情も変えないままその様子を見守っていた。だが儂は元剣聖、そこらのスケベ老人と一緒にされては困る。聖人たれ儂。そう自分に言い聞かせて。そんなジンに気が付いたのか、シスターは慌てて腰から手を離し、そしてジンに声をかけてきた。


 あ、すみません!変な所をお見せしてしまって。何か御用でしょか?


 うむ。ちとおっぱ……お祈りをしに来たのじゃが、はいってよいかの?


 ジンの言葉に、シスターは勿論です!と胸を上下に揺らしながら中へとジンを誘った。


 今、おっぱいって言おうとしなかったこの人?


 今、揉みしだきたいって言おうとしなかったこの人?


 ジンが中に入る寸前、その後ろで男の子二人が呟いたのがジンには聞こえていたが、あえて聞こえないフリをしたまま足を進めていった。

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