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推理

 その後は特に会話もなく二人で食事を楽しんだ。その際、ジンの飲み物が無くなるタイミングで陽炎が飲み物を注文してくれ、更にジンがもう少し何か食べたいと感じた時にさっとメニューのかかれた紙を渡してくれたりと、陽炎は本当に気の利く男だという事が分かった。他人をよく見ている、周りをよく見ている。掴みどころはないが、気づかいができる男だ。ジンは自身がいつの間にか心のどこかで、陽炎の事を気に入り始めている事に気が付いていた。


 食事が終わり、二人が葡萄酒を呑み始めた時、ジンは改めて陽炎に色々と話を聞くことにした。


 さて、改めてお主には聞かなければいけない事がいくつがある。お主は儂に助けて欲しいと言ったな?貴族から受けた依頼が達成できなかったから、口封じに殺されそうにでもなっているのか?


 ジンの言葉に、陽炎は苦笑いをし頭を掻き、そして葡萄酒を一口飲むと口を開いた。


 まぁ、そういう事だね。今回オイラは貴族にとある依頼達成報告に行ったんだ。そしたらそこで元剣聖の話を聞いてね。勿論断るつもりだった。だけどオイラちょっとヘマをしちゃってね。結局以来達成か、死かの二択になっちまったんだ。本当に困ったよ。で、とりあえずアンタを尾行してきたわけだけど空振りに終わったってわけ。まぁこの依頼を達成するつもりなんて初めからなかったけどね。


 初めから?どういう事じゃ?ジンの疑問を表情から読み取ったのか、陽炎はゆっくりとこれまでの経緯を話し始めた。


 んとね。実はオイラ前にアンタの事見た事あったんだ。と言っても鎧を着た剣聖の時のアンタをね。だから初めからアンタから盗めるなんて思っていないよ。だけどオイラには貴族から逃げ出すことが出来ない。だからアンタを尾行するという建前、アンタと接触して話をする時間が欲しかったんだ。


 で、アンタを尾行して、アンタがオイラに会いたがっているんじゃないかと思ったんだ。実はこれは賭けだったんだけど、当たっててよかった。あ、大丈夫。順に説明するから。まずアンタはオイラを警戒し嫌がっていた。だけどキャラバンに乗ってこの街に来たのにも関わらず、街に着いてからも視線を感じていた。まぁオイラの尾行に気づけた人間なんてほとんどいないのに。こうも簡単に気づかれるのは少し落ち込んだかな。


 それでね?アンタはオイラをおびき出そうと路地裏に入った。普通ならアンタは陰に隠れて待ち伏せするのが定石だ。だけどアンタは違った。ひたすら知らない街を知っているかのように歩き続けた。まずはオイラの力量を測っているんじゃないかと思ってね。その時点でアンタはオイラの存在が気になりだしていた証拠になる。


 次にアンタは結局オイラが追ってこない事が分かるとどこかに行ってしまった。その後のアンタの選択肢は二つ。この街から早々に出て逃げるか、こうしてオイラが探し当てるのを待つか。追ってこないオイラを忘れて観光、なんてする頭の悪い奴はいるけど、アンタは違う気がしたしね。で、オイラは前者を確信した。何故ならアンタは自分に自信を持っていて、元剣聖。オイラに興味もあったみたいだし、逃げる理由がないよね。


 まさかこれだけの情報で、自身の行動が読まれていたとは。陽炎はあと何回儂を驚かせる気なのか。儂が鍛えていたからいいものの、普通のジジィだったら心臓が止まって死んでおったところじゃ。


良かった。ちゃんと動いている。流石儂。ジンは一度自分の胸に手を置き、ちゃんと動いているのを確認すると、再び質問をすることにした。


 成程。話は分かった。確かにお主の推測通り儂は行動した。だが、どうやってここが分かった?数ある宿の中から、どうやってこの宿だと分かったんじゃ?


 ああ、それね。それは簡単な話だよ。アンタは旅を楽しんでいた。恐らく決まった目的があるのかもしれないけど、特に急いではない。つまり観光もしている。それは前の街から馬を使わず移動した事、この街で屋台を巡り楽しんでいた事から分かる。冒険者なら真っ先にギルドに行くしね。


 つまり、屋台巡りをしていたアンタはこの街に詳しくない。観光込の旅なら屋台でいい宿をリサーチする。あの路地裏を抜けた辺りの人に質問すれば、大体の宿の目星はつく。そして最後に!アンタは屋台で綺麗な女性の店ばかりで買い物をしていた。ここらで定評のある綺麗な女性の宿は二件!


ジンは陽炎の口から出る言葉に驚き続けていた。そして陽炎は一呼吸起き、人差し指をジンに向け、更に言葉を続けた。


更に、アンタは屋台で大きな胸ばかりを見ながら買い物をしていた!二件のうち、大きな胸をした綺麗な女性の宿と言えばここなのさ!!


 な、なんという洞察力か……!!確かに儂は最終的に女性の胸を見て宿を決めた。だが他人からは分からないように、視線を動かしただけにしていたはずじゃ。そこに気が付くなど、それも離れた所から儂の視線を注視して。


ジンは気が付いていなかったが、ジンの体は前のめりになり胸元を覗き、それは周りの人から見たら一目瞭然だった事。陽炎がその行動を見逃すはずがなかった。陽炎の推理にジンは驚き固まっていたが、次第にゆっくりと壁に背を付け、降参だと言わんばかりに深くため息をついた。その姿を見て、陽炎はジンが自分自身を認めたと確信し、心の中でガッツポーズをしていた。


 ジンはゆっくりと葡萄酒に手を伸ばし、いつの間にか乾いた口の中を潤す。まさか儂がこんな形で負けを認めるとは。こんな男がいたとは。旅をしてまだ間もないというのに。面白いのぉ、とジンは心の中で感じていた。


 そうか、そうか……。お主は確かに、世に言う陽炎自身なんじゃな。そうか、認めよう。経緯も分かった。ならここからが本題じゃな。お主に依頼を出した貴族とは誰じゃ?あの黒い水晶玉を使い何をする気じゃ?お主の握られている弱みとは何じゃ?


 ジンの質問、特に最後の質問を聞いた陽炎の顔にふと影が差した。ジンには急に、これまでの愛嬌のある笑顔で人懐っこい性格の時とは違い、人間味を帯びたどこにでもいる青年のと相対している気がした。


 そうだね。そこを話さないと、オイラが此処に来た意味がないからね。えっと順番に話すね?まずオイラに依頼した貴族は、スタンリー伯爵だよ。彼に依頼報告をしに行った後、この依頼を頼まれたのさ。次に水晶玉の内容は分からない。オイラは何も聞かされてないよ。ただ大事な物、絶対に取り返して割ってはならないとだけ言われた。でもあの言い方で、かなりやばい物だっていうのだけは分かったよ。


 陽炎の様子をみて、ジンは彼が嘘を言っている様には感じなかった。だがおかしい。ジンは一度貴族の総力図を頭に思い浮かべ冷静に状況を考える。スタンリー伯爵と言えば、王都に近いがあまり力のない貴族だ。特に今の当主になってからというもの、あまりいい噂を聞かず、さらに言えば落ちぶれているという印象があった。そんな彼が何故?いや、今はそれよりも……。

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