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気配

 吹き抜ける風が草草を揺らし、それが幾線のも筋となり草原を吹き抜けていく。風は未だ冷たい。彼らが春を運んでくるのはもう暫く先になりそうだ。ジンは街道の脇の草がなく禿げた場所に腰を下ろす。慣れた手つきで小さな魔道ポットで水を沸かし、その中にコーヒーの粉を入れる。近くに落ちていた小さな石を円形に積み上げ、そこに魔法の袋から薪を数本置き火をつける。乾ききった薪はすぐに弾けるような音を立て日が立ち上り、ジンはそこにフランパンを置いた。


 今度は魔法の袋から、丁寧に包まれたカットされた肉を焼き、瓶に入った秘伝のタレを回し入れて少し煮込む。このタレは、ジンが幼少のころから変わらない騎士団に伝わるタレだ。後はこの肉とソースを細長いパンにはさみ食べるだけ。


 夜中はまだ肌寒い為、太陽が顔を出すと気温の変化で草草の葉の上に水滴が現れ地面へと垂れていく。いつの間にそんなに濡れていたのか、ジンはそんな地面へと垂れる水をボーっと見つめていると、フライパンの中のタレが粘り気のある気泡を上げだす。頃合いじゃな。ジンはそれらをパンに乗せ思いっきり被りつく。


 んん、相も変わらずまずい。


 実はこの秘伝のたれ、味はあまりよろしくない。食べられない程ではないが、少し酸味があるというか、苦いというか。だがこれが騎士団の伝統の味となっているのには理由があった。これは騎士団皆等しく戦場で食べる物。もしこれが頬が落ちるほどおいしければ、皆戦場へ出たがり家に帰ってこなくなってしまう、なんて言われている。要は戦場でまずい飯を食べる事で、早く家に帰りたい。家で家族に囲まれて上手い飯が食べたい。と思わせるためだという。


 だが今のジンには城に帰るつもりはない。何年もかけて国中を周るつもりでいる。自分たちが作り上げた平和を、未来を見たいと思っている。一瞬、元妻のメアリーの顔がジンの頭を過るが、そんな想いをジンは葉から落ちる水滴に移し、水滴は地面へと落ち、一瞬で土の中へと吸い込まれていった。


 ふう。それにしてもしつこいのぉ。


 先ほどの街から、誰かの視線を感じる。初めは街を離れればすぐに消えるだろうと考えていたが、街が米粒のように小さく見える程離れた今でも視線はかすかだが感じる。

 

 しかし大した奴じゃ。その居場所が全く分からない。儂に居場所を掴ませない奴なんて、そうそういるわけない。さて、目的はなんじゃろうか。


 ジンは列をなして揺れる草原を見つめ思考を巡らせる。視線に殺気はない。儂を誰だか分かって付けているのか、はたまた別の目的が?いの一番に思いつくのは、やはり先日の玉か。だがそれを奪い返すのには、あまりにも人数が少ないし……。


 結論として、ジンは視線の主を放っておくことにした。今考えても答えは出ないし、居場所が分からない以上、足掻いたって仕方ない。だったら放っておくのが一番。そのうち分かるだろう。最強の元剣聖故か、歳を重ねて生まれた余裕なのか。どちらにしろ、ジンはまずい朝食を楽しみ、次の街へと思いをはせることにした。

 

 道中ゆっくり歩いていると、数台のキャラバンが先ほどの街から走ってきた。どうやら行商らしい。ジンは丁度いいと思い、行商主に銀貨五枚を握らせると、ジンが近づいていった時とはうって変わってにこやかな表情で荷台に乗せてもくれた。全く旅の老人くらいタダで乗せよと思いながら、荷物で一杯の荷台の片隅に腰をかけた。


 キャラバンの周りには8人の冒険者が護衛をしている。皆駆け出しから毛が生えた程度の実力だろうが、この辺りならそれで十分だろう。ジンは荷台の後ろから背後を見回した後、深く腰をかけて目を瞑った。


 時は金なり。キャラバンは2日で次の街へとたどり着いた。普通馬車でも3日か4日かかる所を2日でたどり着いたこのキャラバンは、朝は早く出発し、夜は道が見えなくなるまで走り続けた。おかげで街に着いた頃には、冒険者達はぐったりとして今にも膝を付きそうな勢いだった。行商魂の燃え盛っている者の護衛というのは大変なものだなとジンは今更になり学ぶこととなる。


 彼らと別れ、ジンは街をゆっくりと散策することにした。王都を中心にして四方にある街は、基本的には街の構造は同じだった。城塞都市、という程ではないが、外壁に囲まれ街を、王都を守っている。その為、街の形は横に長い。まるで王都の城壁のような造りとなっていた。


 とりあえず宿を決めてから……。いや、まずは腹ごしらえをしよう。そこら辺にいい匂いが漂っておるわ。さて、可愛い店主の店はどこかのぉ。


 街に入ると、すぐに辺りを食欲を掻き立てるいい匂いが漂ってきていた。入り口近くから列をなして露店が並んでいるのにはこんな理由がある。旅人が疲れて街に辿り着いた時、皆等しくこの匂いに誘われてついつい食べ物を買ってしまうのだ。お腹が空いている人には、肉や魚の焼いた香ばしい臭い。女性に嬉しいフルーツの爽やかな香り。更にそこらで酒を美味しそうに飲む客たち。そんな光景と匂いが旅人の足を誘わせる。


 ジンはこれまで、殆どの街に仕事でしか訪れたことがない。その為食事は騎士団か、接待用に貴族が用意した物だけだ。こうしてのんびり露店を楽しむのは、実は密かな夢でもあった。


 ふむふむ。あそこからいい匂いが。駄目じゃな。店主が筋肉男じゃ。今はそんな男の料理を食べる気にはならんし……。お?あの長い髪の女性は、ってなんじゃババァか。ババァに用はないわ。


 ジンは綺麗な女性が屋台をやっているのを見つけると、鼻の下を伸ばして次々に食べ物や飲み物を購入していった。食べ物を買うついでに女性の胸元を覗いていたら、他の客や隣の屋台の男に睨まれたりなど多々あったが、ジンは楽しく屋台巡りが出来ていた。だがそのせいで屋台街をまだ5分の一も進んでいないのに関わらず、ジンの両手には溢れんばかりの食べ物で溢れていしまう。


 むむ。女性の胸元に釣られてついつい色々買ってしまった。これどうしよう……。


 儂は悪くない。女性の魅力的な胸元が悪いのだ。ジンはそう言い聞かせながら歩いていると、一瞬ここ数日感じていた視線を背に感じていた。

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