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7 コロナのお仕事

 ウルタに着いてから三日目の朝。


「今日はギルドで仕事を探したいと思います」


 二人で朝食をとっているとコロナがそう言った。

 理由を聞くと――


「何から何までお世話になりすぎて心苦しいんです」


「せめて一号たちのお金をおじい――ウォルフさんに返したいんです」


「おじいちゃんから意味もなく人から施されるのはよくないと言われてましたので」


「とりあえず、一号たちの代金として金貨一枚を収めてください。足りない分は働いて少しずつ返していきます」

 

 どうやら俺がスライムたちを買う金や宿代を出していることを気にしているらしい。

 俺にとってはした金だから気にしなくていいと思うのだが、コロナの好きにさせてやろう。

 とりあえずの金貨一枚で、あと銀貨20枚を稼ぐつもりのようだ。


 しかし、銀貨20枚だとFランクには厳しくないか?

 この間コロナがとどめを刺したオーク一匹の報酬は銀貨2枚だった。

 オークの適正レベルは7以上で、一匹だけの討伐依頼でもDランク以上でないと受けられない。

 いわゆる新人ルーキーのコロナには手に余る相手だ。


 ナナがコロナの体は丈夫にしてあるからそう簡単に死なないと言っていたとはいえ、そこは無理をさせずになるべく安全な依頼にしてもらいたい。

 ナナならともかく、コロナは戦闘能力がかなり低いから魔物討伐は期待しないでおこう。


 コロナと共に冒険者ギルドへ依頼を見に行く。

 コロナの頭の上に一号、右肩に二号、左肩に三号が乗っている。

 歩くたびにプルプルプヨプヨしていて傍から見るとへんてこな装備を着けているようにも見えるけれど、本人は気にしていないようだ。


 コロナに付き添い冒険者ギルドに到着。


 中へ入ると埋め尽くすとまでは行かないが、多くの冒険者でごった返していた。

 中は軽い食事や話し合いができるよう幾つかテーブルと椅子が並ぶ。

 朝食の時間と重なっているからか、座席は既に満杯で、ギルド内の右側にある厨房は大忙しの様子だ。

 左奥に受付用のカウンターが複数並び、中央には俺たちの目的でもある大きな掲示板が並び、そこも

 混雑している。


 コロナは人をかいくぐりながら掲示板に近づき、貼ってある依頼を見ていく。

 どうやら右側から左に向かうにつれ要求されるランクが上がっていくようだ。

 貼ってあるのはCランク以下の依頼で、ランクが高いほど報酬と難易度が高い。

 中には金貨の報酬もあり、内容的にも高ランクパーティーでないと困難なものだった。

 

 コロナの等級は最初の等級であるFなので、受けられる依頼はFのものか一つ上のEまでだ。

 掲示板の右端の方にある依頼を見ていくが、報酬は銅貨ばかりでかなりしょぼい。

 薬草採集や魔物の出現が少ないエリアでの薪拾いといった簡単な仕事ばかりだ。

 あるだけましなのだが魔物討伐を対象としたものがほとんどない。


 コロナは掲示板に張り付くように上に貼ってある依頼を見ているが、一生懸命背伸びしてもお前の身長じゃあ見えないと思うぞ?

  

「むむむむむむ……」


 唸っても見えないと思うぞ?


「むむむむむむ……」

 

 いや、一号、二号、三号を重ねて頭の上にのせても意味ないぞ?

 スライムたちがちょっと団子みたいだな。何だか美味そうだ。


 しかし、あいつ……周りにいるやつらに押されてもびくともしないな。

 普通あれだけの体格差があったら、ひっくり返りそうなものなのに。

 体幹がしっかりしてるんだな。いや、重心が低いから安定しているのかもしれない。

   

「むむむむむむ……これにします」


 一生懸命に背伸びして手を伸ばすが、紙に手が届いていない。

 俺が代わりに紙を剥がしてコロナに手渡す。

 コロナは礼を言って受け取り、今度は受付の列へと並びに行った。


「あれくらいなら大丈夫かな?」


 ☆


 町から20分ほどでなだらかな丘に辿り着いた。

 コロナが選んだ依頼はウサギ狩り。

 この丘に巣穴を作っているウサギがターゲットだ。

 とりあえずコロナの様子を見ることにした。

 

 コロナはあちこちうろつき、丘にできているウサギの巣らしき穴を見つけていく。

 その穴にアイテム袋から出した端に重りが付いた網を複数設置。

 穴から距離を取るように丘を登っていき一号たちに指示を出す。


 指示された一号たちはコロナから飛び降り、近くの穴の中へ突入する。

 巣穴は地面の中で繋がっているのか、一号たちの突入に驚いたウサギたちがあちこちの穴から飛び出してくる。飛び出してくるウサギは結構な数がいて、ちょっとびっくりした。


 コロナが仕掛けた網に引っ掛かるウサギもいて、網の中でもがいている。

 もがいているウサギめがけてコロナは突進し、剣の鞘でぼこっと殴り仕留めていく。

 次々にウサギを仕留めていき、ウサギを三匹捕まえることができた。


 これはコロナの作戦勝ちだな。意外と頭のいい子らしい。

 

 場所を変え、同じことの繰り返し。

 コロナは計12匹のウサギを捕獲することに成功し、依頼である10匹以上捕獲を上回った。

 

「やりましたー」


 コロナはスライムたちと一緒にぴょんこぴょんこと跳ねて喜びを体で表す。

 一匹当たりの報酬が銅貨5枚とはいえ、稼ぎは稼ぎだ。褒めてやろう。 

 

「なかなか手際がいいな」

「おじいちゃんに教わったんです。エルフの村近くでもウサギはいっぱいいましたし。私は魔法が使えないけれど、一号たちが魔法代わりに突っ込んでくれるので助かります」


 なるほどなるほど、アビエルも肉が大好きだったからな。

 あいつは加減ができる男だから無駄な乱獲もしなかっただろう。


 ところで、少し気になることがある。

 普通、ウサギ狩りは住民でもできる仕事で冒険者の依頼になることはまずない。

 魔物が多く住む森や辺境ならわかるが、ウルタの町くらい環境が整っている大きな町なら、冒険者の仕事というのもおかしい気がする。さっきから丘の上の方に弱い魔力を持った生き物の気配がするんだが、気配的にあの周辺だけほんのちょっぴり魔素が濃い気がする。

 もしかしてあそこにあれ・・があるのか?

 

「まだまだ取りますよー」


 コロナは段々とその生き物がいる方へと近づく。

 さっきと同じ手順で一号たちが大きめの穴に突入するが、入った穴から一号たちがすぐに飛び出て戻ってきた。


「ん、なんですか?」


 コロナは何事かと穴を覗き込む。


 スライムたちの入った穴から図体のでかいウサギがのっそりと姿を見せた。

 立ち上がったウサギの体は、長い耳を除いてもコロナの身長を余裕で上回っていた。


「のわああああああああああああああ!」


 コロナはそのウサギの姿を見るや驚き、一目散に下り坂を駆け下りてくる。


「な、なんですかあれ!? あんな大きいウサギ見たことないです!」


「あれはダージラビットってやつだ。魔素の過剰摂取が原因で魔物に変化したやつだな」

 

 たまにあるんだよな。魔素を多く吸収したせいで魔物に変わってしまう。魔素から生まれる純粋な魔物と違いそこまで強くはならないが、図体が数倍でかくなるのが特徴だ。

 こいつの感じからするに大きな魔力は感じない。おそらく特殊な攻撃もなく、体当たりに気を付けるくらいで済むだろう。適正レベルは2~3でコロナでも十分戦えるはず。

 よし、コロナの今日の修行はこいつで行こう。


「よしコロナ。今日の修行だ。こいつをやっちまえ」

「修行!? はいです。行きますです!」


 修行と聞いたコロナは剣を抜き身構える。

 いつ見ても構えだけはいっちょ前に正眼の構えで様になっている。

 本人はアビエルの見様見真似と言っていたが、隙が少ない良い構えだ。


「たぁあああ!」


 ダージラビットの突進を引き付けて躱し、剣を振るうも――


 ぺし。


 うん、分かってた。

 ダメージを全然与えてない。


 そのあと五分くらい避けては攻撃、避けては攻撃を繰り返しているのだが――

 ぺしぺしという音しか聞こえない。


 一号たちはダージラビットの周りをピョンピョン飛び回り攪乱している。

 どうやらコロナの手伝いのつもりらしい。お前ら気にされてないぞ?


 これはコロナがばてたら終わりだな。

 段々と息が切れて危なっかしい感じになってきている。

 

 とうとう避けた拍子にコロナの足がもつれてひっくり返る。

 ゴンと俺のところまで大きな音が聞こえた。

 どうやら転んだ拍子に石にでも頭をぶつけて気絶したのか、コロナはピクリとも動かなくなった。


「ありゃ、あれは意識飛んだな」

 

 ピクリともしないコロナにダージラビットが襲い掛かる。

 一号たちはコロナを守ろうとダージラビットに体当たりするが跳ね飛ばされる。

 

「可哀想に」  

 

 ザシュッ――


 襲い掛かったダージラビットはコロナの身体に傷一つ付けることもできずに首を飛ばされた。

 ダージラビットも馬鹿だな。

 コロナが気絶したらナナが出てくるんだぞ?

 流石は剣聖の称号を持つだけはある。

 寝っ転がった不安定な姿勢からああも見事に首を切り落とすとは。


「あんた、ちょっとはこの子のこと心配しなさいよ!」


 ぷんすかと怒って文句を言うナナ。

 ちゃんと見てただろ。

 それにダージラビット相手なら怪我することはあっても死ぬことはねえよ。

 ダージラビットの死体をアイテム袋の中に仕舞う。


 ついでに、別の要件を済ませることにした。


 ダージラビットが出てきた大きめの穴周辺は魔素溜まりができている。

 このまま放置しておくと、ここを巣にしたウサギから第二、第三のダージラビットが生まれるだろう。

 特に魔素が集中していた場所の土を掘り起こす。そこには黒曜石にも似た小指の先ほどの小さな黒い石が埋まっていた。

 

 俺たちは、この黒石のことを『魔引石まいんせき』と呼んでいる。魔引石は周囲の魔素、瘴気や穢れを集めてしまう性質がある。大きさと比例して集まる量が増え、密度が増せば増すほどやばい魔物が生まれる。 

 魔物を発生させる原因の魔引石の破壊――俺の旅の目的の一つでもあったりする。


「もしかして、それ魔引石?」


 ナナが俺の手の平にある魔引石を興味深く見ている。

 どうやらナナも魔引石のことを知っているようだ。


「魔引石のことはアビエルから聞いてたのか?」

「ええ、それを見つけたらすぐに粉々に砕くように言われてたわ。結局それって何なの?」

「正確には分からん。だが、この世界にとって負の遺産だよ」

「負の遺産?」


 手の上の魔引石を砂のように細かく砕きそこらにばらまく。

 これで魔素溜まりが発生することはないだろう。


「なんでも遥か昔に起きた神同士の戦争でばらまかれたものらしいぞ。今の神が言ってた」

「ちょっと待って……神様に会ったことあるの?」

「お前ないの? 俺は転生してからも何度か会ってるんだけど」

「あるわけないでしょ。アビエルさんも不思議だったけど、あんたら一体何者なのよ」

 

 ナナは神と会ったことがないのか。俺とは違うパターンで転生したようだ。   

 俺が神と初めて会ったのはこの世界に来る直前。

 最後に会ったのはアビエルが出て行ったあとくらいか。

 あの神いっつも苦労ばかりしている苦労神でつい慰めてしまうんだよな。

 しばらく会ってないからまた随分とため込んでいることだろう、今度愚痴を聞きに行ってやろう。


「説明すると長いけど、コロナが戻るまで聞かせてやるよ。俺が最初に神と会ったのはこの世界に来る時で――」




 意識が戻ったコロナと少しだけウサギ狩りの続きをし、日が沈む前に町へと戻り、ギルドに依頼完了報告に向かった。獲得したウサギは最終的に18匹で、コロナは成功報酬を含めて銀貨一枚の報酬を受けとり俺に手渡してきた。

 

 ダージラビットについてはナナから頼まれて、俺が退治したことにしてある。

 コロナの記憶との辻褄合わせとしてもその方がいいのだろう。せっかくだし、ナナに貰ったダージラビットの死体はギルドに引き取ってもらわず、食欲魔人あいつらへの土産にさせてもらうことにした。


 コロナのギルドカードにナナが倒したダージラビットの討伐記録は残っていなかった。

 同じ肉体を共有していても経験値は直接魂に書き込まれるからか、ナナが倒した魔物の経験値はコロナの経験値にはならず、コロナが低レベルなのがその証拠だろう。


 一つの肉体の器に二つの魂。

 レベルが異なる魂の共存。

 あいつなら何か知っているかもしれないし、知らなければそれはそれで問題だ。

お読みいただきましてありがとうございます。

これから先は視点を変えながらお話を進めていきます。

サブタイトルの後ろにでも印をつけておこうと思います。

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