表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

4 牧葉那奈

まきバナナではなく、牧葉那奈です。

脳内変換がいつもおかしい件。

 村を出てから数日、目的地を西の国に設定した。

 西の国には俺が使った転移用魔方陣が隠してあり、それを使って魔族の国へ向かう予定だ。


 寄った村で馬と小さな馬車を購入し移動することにした。

 コロナの足に合わせていたのでは、目的地に着くのに年単位がかかってしまう。


 移動中に弱い魔物を見かければ、捕まえてからさらに弱体化させてコロナに与えて修行させている。

 動けなくした相手すら、まともに切れないのはどうかと思う。

 相変わらず、ぺしぺしと変な音をさせているが、剣の才能が微塵もないようだ。


 夜になれば俺の持ち運びしている家で、安全な環境で就寝。

 困ったことに、目が覚めたらコロナが俺のベッドに潜り込んでいる。

 どうやら宿屋の一件で味をしめたらしい。

 俺に接近を気付かせないとは、こいつ謎のスキルでも持ってるのか?


 大きな川沿いを進めていく途中、馬を休ませるため河原で休憩をとる。

 ついでに、川魚でも釣ることにした。  


 念のため近くに魔物が近づいてこないか、感知領域を広げておく。

 そんなことしなくても、地中に潜っているゴーレムが対処してくれるが、用心しておくことに越したことはない。俺はともかくコロナがまずいからな。


 俺もコロナも数匹釣りあげて、楽しんでいたころ。

 大物を求めて場所を変えていたコロナが歓声を上げた。


「かかりました! これは大きいですよ」


 コロナの持つ釣り竿が大きくしなっている。

 これはマジで大物が掛かったか。


 水の中で暴れる魚影が見える。

 あれ、大きすぎないか?


「まずい。コロナ、手を離せ!」


 俺の声が届く前に、コロナが釣り竿ごと川に引きづり落とされる。

 しっかり釣竿を持っていたのが災いしたのか、コロナは川に落ちたあと、下流へ向かって勢いよく引っ張られていく。


 駆け寄るが、コロナはぐんぐん引っ張られ、陸から距離を開けられてしまう。


「ちっ」


『身体浮遊、機動力強化、魔力向上』


 素早く魔力を高めて、空中移動でコロナを追いかける。

 

 流されてから数百メートルのところで、何とか追いつく。

 川に手を突っ込み、コロナを抱えて救い出す。

 しっかりと竿を握ったままだったが、魚の重さに耐えきれず、竿は折れてしまった。


 コロナは完全に気絶していたが、命に別状はないみたいだ。

 馬車のところまで戻って、コロナをそっと地面に下ろす。


 全身びしょびしょだ。拭いてやらないと。

 着替えとかも用意するべきだろう。

 気温はそれなりにあるが、とりあえず冷やさないようにしないと。

 焚火も強くしないと駄目だな。風邪を引いたら大変だ。


「さすがに焦ったぞ。魔物がいないから油断した」

「こっちも焦ったわよ。ちゃんと見ときなさいよ」

「すまん、油断してた――コロナ?」


 振り向くと、コロナが立っていて、俺を睨みつけるような顔をしている。

 

「起きたのか。良かった無事で」

「無事じゃないわよ。びしょびしょだし、この子泳げないのよ。死んだらどうするのよ」


 コロナの口から出る言葉に違和感が全開だ。


「……お前――誰だ?」


「初めましてウォルフさん。あたしはナナ――牧葉那奈まきばななよ」


 コロナの口から出た名前は、聞き覚えのある名前だった。


 ☆


「牧葉……ナナ?」


 聞き覚えがある、というか、見覚えがある。

 コロナに二重表記されている名前だ。

 とりあえず馬車で着替えてもらったあとナナから話を聞いた。


「この子が意識を失なったときしか、表に出てこれないのよ」

「二重人格か?」

「合ってるけれど、間違ってもいるわ。確かにこの子とあたしは別の人格、だけど魂はちゃんと二つあるのよ。本来あたしがこの器で生まれるはずだったのに、この子が先に目覚めてしまったから」

「おかしいだろ。一つの肉体の器に入る魂は一つだ。魔族だろうが人間だろうが例外はないぞ」

「そんなの知らないわよ」


 気になることが一つある。


「お前、日本って知ってるか?」

「コロナにも聞いていたわね。もちろんよ。何なら首都が東京だって答えてもいいのよ。あなたの予測通り、あたしは転生者だから。あなたもそうなんでしょ?」

「日本って聞いてくるんだからバレバレだよな」

「あたしの前世は高校生だった。体が動かなくなって2年くらい入院してた。結局死んじゃった。あなたは?」

「俺の前世はサラリーマンだ。働ぎ過ぎて心臓発作起こして死んだ」

「何だおじさんか」


 おじさん言うな。

 これでも前世はまだ二十代だったんだぞ。


「何から話した方がいいかしら。そうね。アビエルさんには、あたしのことを知られていたわ」

「アビエルが?」

「ええ、コロナが木から落ちて意識を失った時に初めて話をしたわ」

「そうか」

「あたしはあたしとして常に意識はあるの。コロナが見たもの、触れたもの、その記憶もしっかりあるの。ただ、この子の意識が起きているときは、絶対に表に出られない」

 

 こっそりとステータスを確認。


『深淵視』――――――嘘だろおい、これ何だよ?

 

 信じたくはないけれど。

 アビエルよ――これがお前の答えなのか? 


「あっ!?」


 コロナ、いや、ナナが震えだす。


「起きてきたわ。あの子はあたしを認知していない。余計なこと言ったら駄目よ。またね」


 そのまま地面に寝転がり目を閉じた。

 

 すぐにぱちりと目が空き、コロナは慌てすがるように空中に手を伸ばしもがきだす。

 そりゃそうだろう、記憶の中では川で魚に引きずり込まれていたのだから。

 泳げないって話だったし、混乱するのも当たり前な話だ。


「大丈夫だ。助けるのが遅れた。すまなかった」


 コロナの手を取って、体ごとぎゅっと抱きしめてやる。

 怖かったのか、コロナは俺をぎゅっと抱き返し、ずっと震えていた。

 

 その日の晩、コロナは俺と一緒に寝たがった。

 多分、今日のことが怖かったのだろう。

 俺は何も言わずに受け入れた。


 コロナが寝静まったころ――


『深睡』


 俺の術でコロナの意識を深く沈めた。


「ナナ出てこい。これなら出てこれるだろ」

「んふ、ありがとう。体があるのって、本当にいい気分だわ」


 ナナはパチリと目を開けて、俺へと微笑む。

 むくりと起き上がり、きょろきょろと周りを見渡す。

 俺はもう一度ナナに向かって魔法をかけた。


『深淵視』


 名前:牧葉那奈まきばなな『コロナ』

 種族:人族

 性別:女

 年齢:18

 レベル:51

 職業:勇者『剣士見習い』

 スキル:剣術10、体術6、弓6、聖魔法7、炎魔法8、水魔法8、風魔法5、土魔法7、雷魔法6、無属性魔法5、闇魔法3、身体強化8、魔力強化6、光耐性5、炎耐性8、水耐性8、風耐性8、土耐性7、闇耐性8、状態異常耐性8

 称号:剣聖、大魔道、聖職者、賢者、アビエルの弟子

 

 アビエルよ、お前が育てていたのは那奈こっちだったのか。

 どうやったらこんな化け物に育てられるんだよ。


 ☆


「いつまで人のステータス見てるのよ」

「気付いてたか」

「魔力の流れで分かるわよ。昼にも見てたでしょ」


 気付いてたなら話が早い。


「お前の能力は人間のレベルじゃないぞ」 

「分かってるわよ。アビエルさんに鍛えられたからね。基礎から応用までありとあらゆる剣術を身に着けさせてくれた。アビエルさんが亡くなってから、自由に動けなくなったのは痛かったわ。この子貧弱だから心配だったのよ」

「魔法は誰に教わった?」

「アビエルさんよ。といっても、アビエルさんエルフのくせに魔法が苦手だったから基礎だけよ。あとはあたしが勝手に覚えたの。なにせ時間だけはあったから。私、この体に入ってから一度も寝れてないのよ。退屈だからいつも魔法の構築実験して異空間にぶっ放してるわ」


 時間があるというのは、そういう意味か。

 睡眠がいらないのは、おそらくナナが精神体だからだろう。

 睡眠は体の疲れを癒すものだ。

 体がないから必要ないというところか。


 それって神の構造にそっくりじゃねえか。


「アビエルとはいつからだ?」

「木から落ちたときだから、この子が3歳のときよ。この子ったらやんちゃでね。アビエルさんもう大慌てでオロオロしてたわ。でも、すぐにあたしに気付いた。アビエルさんに『君は誰だ?』って言われた時は『コロナでしゅ』って、誤魔化そうとしたけど駄目だったわ」


 それで誤魔化せると思ったなら、ナナのおつむは弱いな。

 ちょっと安心してきたぞ。

 

「一つ確認しておきたい。お前はこれからどうする気だ?」

「別に何も。このままこの子の成長を見守って、一緒に死ぬわよ」

「へ?」

「そりゃあ、この世界が魔王とかに襲われてっていう話だったら、どうにかしないといけないとは思うけど、今はまだ平和な世界でしょ。確かにこの子の中でずっといるのは退屈だけど、この子見てたら結構面白いのよ。この子どうにかして胸を小さくしたいみたいなのよ。やることすべて逆に大きくなって笑かしてくれんのよ」


 胸を揉み揉みしながらナナは言う。

 へー、コロナおっぱい大きいの気にしてたんだ、へー。


「背も気にしてて、背が伸びる体操とか、背が伸びる食材とか試しまくってたけど、ぶっちゃけ、あたしが夜の修行で動きまくってたから、骨が伸びるより縮む方が多かったのよね。動く分栄養も全然足りなかったし。疲労は魔法で無理やり回復してたし。あははー、やっぱ、この子がオチビなのはあたしのせいかな?」


 ああ、こいつ確信犯だ。

 コロナで遊んでる。


「それだと、コロナも体は相当鍛えられてるんじゃないのか?」

「体はそうね。でも、この子レベルがまだ2でしょ。魂が肉体を全然扱えてないのよ。あたしの記憶があれば使えるんだけど。そうねえ、車の運転とかをイメージして貰えば分かるかしら?」


 ああ、なるほど。

 車の性能は良くても、運転手の技量次第で優劣が出る。

 ナナをプロレーサーに例えるなら、コロナは教習所に通っているレベルの初心者。

 それくらい肉体の操作に差があるのだろう。

 元の器や性能は大きくても、本人が使える部分はごく一部といったところか。

 

「まあ、体は頑丈にしてあるから、オークから何発かくらっても生き延びてたんだけどね。その様子をこの子の中で実況して遊んでたんだけど、それなりに楽しかったわ。たかだかオークの攻撃で死ぬほどやわな身体にしていないし、余裕よ余裕」


 あいつ攻撃くらってたのか、怪我はしてないとか言ってたが。

 しかし、実況ってどんだけ退屈してるんだよ。

 コロナにとって、オークから逃げるのは鬼気迫るものだったと思うぞ。


「アビエルさんと約束したの。この子を簡単に死なせないって。だから今日のはマジで焦ったわよ。この子泳げないから溺れて死ぬわ。あたしも泳げないし、パニックになったら助けられない。実際、今日のはパニックになりかけた」


 その弱点はいただけねえな。


 だが、いい話は聞けた。

 コロナのレベルを育てれば、相当に強くなるってことだ。

 基礎の肉体は、アビエルとナナが築き上げてくれている。


 あとは、魔物を倒してレベリングすればいいだけの簡単なお仕事だ。

 コロナが強くなれば、連れて帰ってもあいつらだって認めざる得ないだろう。


「まあいい。とりあえずコロナが死なないように強くしてやればいいんだろ」

「ええ、そうしてくれると助かるわ。アビエルさんもそれを望んでた。だから、協力してくれると嬉しいわ。ちなみに、この子が寝てる時のベッド移動はおじいちゃん求めて無意識にするからね。これだけは私も不思議なのよ。もうあなた、この子の中でおじいちゃんになってるぽいし」


 それは認めたくない。 

お読みいただきましてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ