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1 ちっこいコロナ

何か降ってきたので書いてみた。

 

 観光気分で転々と旅をしていたが、たまたま襲撃事件に遭遇した。

 道行く旅人や商人を襲い、金品を奪ったり、捕まえて奴隷にしたりする。

 抵抗する者は殺され、抵抗できない女子供がひどい目に遭うのはよくあることだ。


 馬の死体に車輪の壊された馬車。

 馬車の周りに男女二人ずつの死体が4つ。恰好からして冒険者。

 抵抗したようだが、無残にもやられたといったところか。

 顔が原形をとどめていないほど潰されていたり、足を切断され逃げられなくされたあと、胸を貫かれていたり、後頭部を斧か何かで割られていたりと、損傷具合もひどい有様だ。

 この殺し方から察するに襲っているのは人間ではない可能性が高い。

 力の加減がおかしいし、殺しを楽しんでいる節がある。


 しかし、現場に死体以外いないのはどうしてか。

 離れた場所にいるのだろうか。


『感知領域拡大』

 

 拡大された感知領域に小さな反応と複数を示す反応。

 1つの点を7つの点が追いかけている感じだ。

 どうやら雑木林のところへ逃げ込んだらしい。

 

「生き残りがいて追われているのか」

『機動力上昇、能力倍化、魔力向上』


 感知した方向へ体を向ける。

 魔力が足に向かって集まりだす。

 地面を蹴りつけるように一歩を踏み出す。

 多大な魔力が俺に神速を与えた。


 獲物の少女を追いかけ、少女の背後に迫り捕まえようと腕を伸ばすオーク。

 そのオークの目前で術を止め、少女との間に強引に身体を割り込む。


 突如現れた俺の姿にオークたちは驚く。

 無理もないだろう。

 オークの目には見えない速度だったであろうから。 


 オークは威嚇しながら手にした大ハンマーを振りかぶる。

 問答無用でこちらを敵と認識したようだ。

 こっちも手加減をするつもりはない。


 振り下ろされたハンマーを手の平で受け止めて、ハンマーの柄を掴んで奪い取る。

 奪い取ったときの力が強すぎたのか、オークの肘から先が引き千切れる。

 オークは悲鳴を上げながら地面を転がりまわる。

 

 その辺に落ちている適当に石を拾って、後ろにいた奴を狙ってこれまた適当に投げる。

 適当に投げた石は数匹の頭に当たり、ドバンと派手な音と血を巻き散らしながら、頭を粉砕した。

 

 被害を逃れた一匹が逃げようとしたので、後ろから追いかけ、先ほど奪った大ハンマーで潰しておく。

 オーク6匹があっという間に死体に変わった。


 残されたのは腕が千切れ、のたうち回るオークのみ。

 もう恐怖心しか残っていないのか、俺が近づいただけで震えている。

 放っておいても血が足りなくなってそのうち死ぬだろう。


「あ、あの!」


 さっきまで逃げていた少女。

 まだ少し青い顔をしているが、必死に逃げていたからだろう。

 銀髪ショートボブ、肌は白いが目は茶色だった。

 髪の色が中央大陸の北部に分布される人族の特徴だが、眼が茶色なので混血か。

 見た目でいうなれば、まだ成人していないのかもしれない。 

 そう思うのも随分とちんまいからだ。

 そのちんまい体の割には、大きな胸を持っているが、実年齢はどうだろう。

 

『鑑定』


 名前:コロナ『????』

 種族:人族

 性別:女

 年齢:18歳

 Lv:1

 職業:剣士見習い『????』

 スキル:なし

 

 単なる合法ロリ巨乳だった。

 この見た目ですでに18歳か。

 この世界の成人が15歳なのに幼すぎるだろう。

 栄養が身長にいかず、胸へと偏ったらしい。


『鑑定の一部を失敗しました』


 ん?

 ステータスにロックがかかっている。

 名前と職業の後ろにあるのはなんだ?

 どうやら鑑定で識別できなかったらしい。


『深淵視』


 名前:コロナ『牧葉那奈まきばなな

 種族:人族

 性別:女

 年齢:18

 Lv:1

 職業:剣士見習い『勇者』

 スキル:なし


 なんだこいつ、勇者か。

 助けなくとも勝ったかもしれないな。

 それに名前が二重表記されている。

 日本人みたいな名前だが、この世界では東の国でも使われているので本名かもしれない。

 もしかして、俺と同類で名前が二つあるのか?


「お前、日本って知ってるか?」

「日本――何ですそれ?」


 どうやら知らないらしい。

 俺の杞憂に終わったようだ。

 

 しかし、見習いとはいえ、剣士のくせにみすぼらしい格好だ。

 剣の柄はボロボロに腐食しているし、鞘も塗装が剥げている。

 身を守る装備もズタボロ、はっきりいって防具と呼べないものだ。


 こんな奴が勇者というのも笑える話だ。


 俺の様子を窺っていて、害はないと判断したのか、先ほどよりも顔色が良くなってきていた。

 コロナは俺に頭を下げる。


「助けてくれてありがとうございます。私、コロナといいます」

「気にすることはない。向こうで死んでいたのはお前の仲間か?」

「えっと、村で知り合った親切な冒険者の人たちです。王都を目指してると聞きまして、ご相談したら一緒に連れて行ってもらえることになりまして」  

「お前の目的地は王都か?」

「あ、いえ。特に用事はないんですけど。王都の方が仕事あるんじゃないかなと思いまして」 


 力も大してない娘が王都に行ったところで仕事にありつけるとは思えんが。

 勇者だし、そのうち覚醒して大成もあり得るかもしれんな。


「あ、あの。そこにいるオーク倒してもいいですか? お世話になった方々への弔いになると思いまして」

「ああ、敵討ちか。好きにしろ」


 両腕が引きちぎれているので、オークに反撃されることはないだろう。

 コロナは剣(手入れがなっていないのかボロボロだ)を抜き、オークに近寄り振るう。

  

 へっぴり腰、剣の持ち方一つも様になっていない。

 こいつ今までまともに剣の扱いをしたことないんじゃないか?


 ぺしぺし。

 ぺしぺしぺし。

 ぺしぺしぺしぺし………… 


 全然斬れてない。

 駄目だこいつ、これ叩いてるだけじゃねえか。

 表皮に掠り傷すら与えていない、弱すぎる。

 オークは何度か悲鳴を上げているが、たまたま千切れた傷口に当たったからだろう。


「ああ、ちょっと待て。お前のその剣ちょっと貸してみろ」

「はあはあ、これですか?」


 コロナが息を切らしながら、持っている剣を寄こす。


『武器再生、武器強化、魔力付与』


 剣を手に魔力を込めると、剣が元々の輝きを取り戻し、それから薄赤い膜が刀身に帯びる。

 軽く振ってみると、ヒュンと空気を斬る音が聞こえた。

 コロナは目を丸くした。


「これでやってみろ」


 こわごわと剣を受け取ると、俺の真似をして軽く振る。

 コロナはまた目を丸くした。

 

「軽いです。けど、あなたと同じ音がしませんでした」

「腕の差だ。それでオークをやってみろ。早くせんと逃げるぞ」


 ずりずりと地を這って逃げようとしていたオークを指差す。

  

 コロナは再びオークに向かって剣を振り落とす。

 

 サクッ。


 オークの表皮に薄い筋が入り、血が滲み出る。

 まだまだ浅いな。全然腰が入ってない。

 

 コロナは何度も斬りつけ、オークに小さな傷を増やしていく。

 これ以上時間をかけるのは得策ではないな。

 もうオークは虫の息で死ぬ寸前だ。

 このままだと経験値が入らない可能性がある。


「おい、もうとどめを刺せ。喉か心臓に剣を突き立てろ」

「はい」

  

 コロナは剣を逆手に持ち、オークの喉へと剣を突きたて、オークは絶命した。

 何とか刺すことはできたが、ギリギリだったようだ。


「あ、今神託がおりました! レベルアップです」

「そうかい。それはよかったな」


『深淵視』


 名前:コロナ『牧葉那奈まきばなな

 種族:人族

 性別:女

 年齢:18

 レベル:2

 職業:剣士見習い『勇者』

 スキル:なし


 スキルの獲得はなしか。

 剣術の一つでも付くかと期待したんだが。  

 お前に渡した剣は国宝級の斬れ味になってんだけどな。

 力も技もなんもないってところか。

 ちなみにその剣の強化と魔力付与は時間がたったらなくなるからな。

 武器再生分は残るから安心しろ。新品同様だぞ。



「あの、すいません。お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

「あ? 名前は――ウォルフだ」


 名前を名乗るのは久しぶりだ。

 久しく勝手につけられた呼び名でしか呼ばれなかったからな。

 

「ウォルフさん、改めて助けてくれてありがとうございました」

「もういい、気にするな。それよりもお前これからどうする気だ」


 馬車は破壊され、馬も殺されている。

 食べ物や水は残っているが、移動に少々厳しいものがある。

 徒歩で次の村や町まで進むにしても、村に戻るにしても、少なくとも3日はかかる。

 コロナの腕前を見る限り、魔物に襲われたら一巻の終わりのような気もする。


「お前、どうしても王都に行かなくちゃ駄目なのか」

「いや、別にこだわりはないんですけど、仕事しないと生きていけないので」

「今までどうしてた」

「おじいちゃんに面倒見てもらってました。つい先日亡くなってしまい、私、村で稼げなくて」

「親は?」

「いません。私、捨て子だったみたいで、おじいちゃんに拾われたんです」


 お前、じいさんに感謝しろよ。

 その歳までお前を守ってきてくれたんだからな。


 コロナにお願いされて、冒険者たちの弔いを手伝う。

 死体をそのままにしておけば、魔素に侵食されアンデッドとして甦る場合もある。

 死体を焼くか、魔素を分解できる地中に埋めるのが、正しい弔いの方法になる。


 手伝いといっても地面に穴をあける程度で造作もない。

 初歩的な土魔法でできる。


 俺が穴を用意している間に、コロナは冒険者たちが遺した物を並べていく。

 冒険者が死んだ場合、その所持品は同行者もしくは遺体を発見した者に取得する権利が与えられる。

 身元がはっきりしている場合、遺族へ遺品として謙譲をする場合もあるが、どこの馬の骨か分からない冒険者の遺族を探すのは無理がある。この辺りは信義によって変わるだろう。

 今回の件であるならば、他の選択肢として一緒に埋めてやるのが良いと思う。


 並んだアイテムはどれも三流品ばかりで価値がない物だ。

 売っても大した金にはならない。


 役に立つものといえば、いくつかのアイテム袋だ。

 アイテム袋は物を収納することができるマジックアイテム。

 安価なものは収納量が少なく、高価になるほど収納量が多くなる。

 それに俺の持っているものに比べれば、どんなアイテム袋でもカスみたいなもんだ。

 

「あの、助けてもらったお礼にどうぞ。好きなものを持って行ってください。できればお金とアイテム袋は少し残して貰いたいです」 

「正直者だな。だが、俺はいらん。必要ならお前が貰っておけ」

 

 ガラクタばかりだしな。


「それではお礼になりません」

「礼なぞいらんよ。気まぐれで助けただけだし」

「では、体でお支払いを! まだ男を知らないので満足させられるか分かりませんが」

「ますますいらんわ! 自分を粗末に扱うな」


 合法ロリとはいえ、そもそもロリに興味がない。

お読みいただきましてありがとうございます。

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