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99話 逃げなきゃ

 

 99



 おじさんから受け取った瓶をオセロットくんが私にニコニコして渡してくれた。匂いを嗅ぐと甘いトロピカルな香りがする。お酒だろうか?飲んでいいものか一瞬躊躇してしまう。


「大丈夫、魔水で作った飲み物だよ。ありがたくいただこう、今日はお疲れ様ってことで」


「うんオセロットくん今日はありがとう、かんぱい」


 魔水で作られた飲み物らしい。同い年の彼が飲むのなら少しいただこう。誕生日のご褒美だ、オセロットくんを労う気持ちでグラスを交わした。口をつけると氷の飲み口が冷たくて心地よい。甘いが後味は爽やかでスーッと喉を通り過ぎる感覚が気持ちがいい。胃に到達するとカッと体が暖まる気がした。馬車の振動もあってか何だか愉快になってきた。


「あのおじさん、魔水の調節が上手だね。美味しい」


「うん美味しいね、オセロットくんアハハ!」


「……芽衣、もしかして笑い上戸? ふふ嬉しそうだね」


「たのしかったねーオセロットきゅん、アハハ! きゅんだって、きゃんじゃったアハハ」


「芽衣それヤバイ、アハハ!」


 なんだかお腹がくすぐったくてたまらない、顔のニヤつきを止めようとすればするほど笑えてくる。幸せな気持ちのまま今日一日の達成感で胸がいっぱいになってくる。試験の日以来の満足感も味わった。使い道のない魔物のお肉だったが有効活用できたこと、少しでもこの世界の人たちのお腹を満たし楽しい場を提供出来たことがとても嬉しくなって感動してきた。


「それにしても芽衣弱いなー大丈夫?」


「うう、私本当に弱いんだ……だから試験もきっとダメなんだよ。でも本当に今日は楽し、かったからこの世界にこれて本当に良かったとも思うんだよ」


「……ええー泣き上戸?」


 街の人が笑顔で食べてくれたこと、この世界の知人が訪れてくれたこと、好きになったこの地の住民になりたいのに試験を認めてもらえない気持ちがごちゃまぜになり涙がポロポロ零れてくる。物が売れたことと皆に手伝ってもらえたことで認知してもらえているようで嬉しくもあった。


「ほらほら泣かないで芽衣、そういう意味じゃないって。もう没収ーー」


「……オセロットくん、私もちゃんと亜人なんだよ……この世界の住人だったんだ、よ」


「うんうん、わかったからよしよし」


 横に座ったオセロットくんが肩に腕を回し、尻尾で頬の涙を拭って頭を傾けさせてくれた。今日の疲れが体を包み、寝ぼけ眼で目をこする。オセロットくんが私の髪を指で遊ばせ撫で回してくれるのが普段なら照れ臭いが今は心地いい。しかも膝に置かれた尻尾を勢いで触らせてもらえてラッキーだ。この滑らかな毛並みがたまらない。


「はぁ。モフモフ……」


「チョロいなぁ芽衣は、下戸だし僕アカデミーに入ったら心配で目離せないよ」


「ダメだったら……逃げなきゃ」


「え?」


「今度、亜人の戦い方……教えて、ね」


 その言葉のあと馬車で眠ってしまった。オセロットくんの疑問には答えてあげられない。もし試験に落ちたら議会の偉い人たちに妨害された可能性が高い、それは文明社会からの拒絶。今知る人たちから逃げ、どこかで亜人として生きる術を見つけなければ。ゆっくり安心して眠れるのが最後にならないことを祈るばかりだ。



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