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98話 閉店

 

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 ふてくされたソウジくんが背中を向けていじけていても私は構わずクロウくんと屋台に戻った。なんだかんだ世話焼きなクロウくんは、なかなか帰ってこないソウジくんをイラついた様子で呼びに行ってる時、一人のおじさんが暖簾をめくって来店した。



「……適当に包んでくれ」


「あ、いらっしゃいませ。お持ち帰りですね」


 ヒューマンのおじさんはロマンスグレーの髪の色で、目元に深いシワがあり品のいい格好をしている壮年の男性だ。声も低くてハードボイルドな印象が少しだけ恐い。椅子に座ると腕を組み、黙り込んで包み終わるのを待つ。じっと見つめるその目に、なんだかどこかで会ったことがあるような既視感を覚えた。


「若いのに着物をよく着こなしてるようだが、お母さんの影響かね?」


「あ、いえ! 手伝ってもらって着付けてもらいました。母は学者だったので白衣を着ていることの方が多かったです」


「……学者、そうか」


 突然話しかけられて驚いた。男性はまた黙り込んで何か考え事でもするように指で目を摘まむ。その疲れを感じさせる仕草が少し心配になり、サービスに大根と厚揚げを皿に盛りサービスとして出した。


「お疲れのようですね、良かったらサービスです。大根にはわさびを付けると疲労回復にいいですよ」


 驚いた顔を私に向けると割り箸に手を伸ばし、扱い慣れた様子で口に運んでくれた。クツクツとおでんが音を響かせる静かな夜の街は祭りの後の侘しさも漂う。


「美味しかった……母を思い出させてもらったよ。仕事があるので失礼させてもらう」


「はい、ありがとうございました」


 見送ると通りに馬車を待たせていたようで、おじさんは行者さんにドアを開けられ乗り込む。馬車の装丁からしてもお金持ちそうな貴族のようだった。ヤンキー座りをしてクロウくんとソウジくんがそれを見送る。馬車が走り去るとクロウくんが立ち上がった。


「ソウジ、屋敷に帰るぞ」


「ええーなんでだよ、俺まだ全然芽衣で遊びたりねぇんだけど」


「いいから帰るぞ」


 抱きついてきて私に頬ずりしてくるソウジくんを引き剥がして、二人は帰って行った。街灯の灯りもまばらな街の様子は、もう眠りに入る頃だろう。人の通行もほとんどなく私も提灯の明かりを消そうと振り返ると屋台の暖簾の奥に二組の足があった。大人と子どものようで慌てて屋台に戻った。


「すみません、お待たせしました!」


「……持ち帰りで」


 顔を隠すペストマスクを被った三角帽子の無気味な出で立ちに、私はびっくりして固まった。動かない私に疑問を抱いたのか、マスク姿のお客さんが首をかしげたので強盗ではないようだ。震える手でおでんを詰めるのをじっと待ってくれている。


 心臓に悪い服装なだけで危害を加える気はないようだ。小さい子どももいるから当たり前か、屋台の影になっていて見れないがマスクの人が子供に目線を送る。


「どちらになさいますか?」


「……餅巾着」


 幼い声がくぐもって聞こえる。私に顔を向けると頷いて促した。急いで詰めると震えながら商品を手渡し料金を戴いた。ゆっくり頭を下げると子供を促し外に出た。チラリと見えた二人の後ろ姿が目に入る。連れの子供はまだ幼いようでこの寒空に浴衣姿、その髪の色に私は見覚えがあった。


「……あの!」


 急いで表に出たが二人の姿は跡形もなく、どこにも見つからなかった。あの子の後ろ姿に見覚えがある。あれはリップさんの祝賀会でタマキビガイを拾った時に見た女の子だ。あの貝殻の持ち主だろう子供をやっと見つけたと思ったが、気づいて表に出た時にはどこにもその姿はいなかった。


 不思議な親子だ……だが大人の方は子供に敬語を使っていたので親子ではないのかもしれない。それにあの子、この世界ではキラースライムと呼ばれているのにちゃんと餅巾着と言っていた。


 呆然と立ち尽くしていると、薄墨を引き連れた馬車が猛スピードで戻ってきた。中から慌ただしくオセロットくんが降りてきて辺りを見回す。


「ごめんね芽衣遅くなって、一人なの? 大丈夫だった!?」


「あ、オセロットくんお帰りなさい。大丈夫だったよ、みんなを届けてくれてありがとう」


「それはいいんだけど、どうしたの道の真ん中で立ち尽くして」


「何でもないよ、片付けよっか」


 商品はほとんど売れていたので片付けは少なかった。あの巨大ウォーターリーパーの練り物はあんなに大量にあったのに、余すことなく使えて本当に良かった。提灯を畳み、暖簾を下ろして屋根を閉じるとおでん屋台は店じまいとなった。


「よぉ、お嬢さんとこも店仕舞いかい。あんたの店のおかげで今年は繁盛したよ。差し入れも美味かったし、ありがとさん」


 横のイグルーから出てきたおじさんに声をかけられた。膨らんだお腹をポンポン叩くと朗らかに笑いかけてくれる。


「お疲れ様でした、こちらもとても助かりました」


「そりゃ良かった。うちも店のもんで悪いがお礼だ、一杯帰りの道中に呑むといい。グッスリ眠れるよ」


 器に氷の瓶が入った飲み物をいくつか分けてくれた。オセロットくんが嬉しそうに受け取り、二人でお礼を言って馬車に乗り込んだ。手を振り、おじさんに別れを告げると見えなくなるまで見送ってくれた。



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