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93話 和装備

 

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 祭りの日の前日は孤児院の子供達をリップさんの屋敷に招待させてもらい、準備に取り掛かった。


 オセロットくんの工場ですりつぶしてもらった身を焼いてちくわに、蒸してかまぼこ、山芋と卵白を混ぜたはんぺん、揚げて丸天を作りそれぞれにゴボウやウィンナーを入れた。その他のメニューは豆腐で作った厚揚げ、具材を混ぜたがんも、油揚げに餅をいれた巾着、大根にゆで卵と牛すじ串、センさんの作ったロールキャベツ、リップさんがこねてくれたうどんのタネでちくわぶ。足りない具材もあったが充分なものが揃った。スープは醤油や鰹節がないのでコンソメとトマト出汁だ。


 大人数で取り掛かったので作業は苦もなく済ませることができた。屋敷の人にも協力してもらい、屋敷は子供達の笑声に溢れる。イアソンくんも同年代の子たちとはしゃぎながらも準備を手伝ってくれた。


 朝、センさんに着付けをしてもらった。センさんは心得たもので帯の結び方も華麗に、しっかりと締め上げてくれた。和服はやはり苦しいものの、背筋が伸び気が引き締まる。年長者の女の子は興味津々といった感じだったのでリップさんに許可をもらい、一緒に着物を着てくれることになった。女の子だけの部屋は久しぶりで新鮮、準備の時間は楽しかった。


 私は薄い水色の着物を選んでもらい、髪をキツく結い上げてもらった。センさんの変身術は今回も驚くほどの腕前で、いつもと違う大人っぽい仕上がりに鏡の前に立っても自分ではないような感覚になった。


「「お姉ちゃんとってもキレイーー!」」


 双子が声を揃えて拍手を送ってくれた。姉妹は年長者の苦しそうな着替えをみて辞退したが、リップさんの鉢巻姿を気に入って真似している。私たちはお腹の帯を叩いて気合をいれ、ウィンクルの街へと向かった。


 今日はリップさんは街の警護で仕事だが、お休みだった薄墨に屋台を引いてもらい子供達とオセロットくんでウィンクルの街へ。馬車を降りる時、オセロットくんが手を引いてくれた。


「ありがとうオセロットくん」


「なんだか、芽依じゃないみたいだね。大人っぽくてドキドキするよ。キモノって素敵だね」


 馬車を降りると着物が珍しいのかチラチラと通行人に見られた。みんなで着たから目立つのだろう、いい宣伝効果になったかもしれない。


「……ナンパ目的のやつが来たらすぐ追い払うからね」


 オセロットくんが周囲に目を光らせる中、屋台の準備を進めた。中央広場から近いが子供もいるため通行量の比較的少ない広い道にしてもらった。テーブルセットや長椅子を並べた上にコタツも外に置く。スペースは充分にある。横はイグルーを使ったお店で、最初に挨拶に行くことにした。


「こんにちは、横で屋台を開いておりますのでご挨拶に伺いました」


 広々としたイグルーの中は冷蔵庫のように冷えていて氷で出来たカウンターがあり、色鮮やかな瓶が雪の壁に押し込まれていた。一人のヒューマンのおじさんが毛皮のコートと帽子を被って開店準備をしていた。


「おお、わざわざご苦労さん」


「これお店の品で申し訳ないんですが、よろしかったら」


 大量の髭の奥でおじさんは優しく微笑んでくれ、おでんを受け取ってくれた。一緒にきていた双子の姉妹も私の後ろで恥ずかしがりながら顔を出した。


「ありがとう美味そうだな、いただくよ。可愛いお嬢さん方だ、あんたの娘かい?」


「いえ、お手伝いしてくれる子達です。この子達が一番最年少ですが他にもたくさん居るので、うるさくないよう気をつけます」


 珍しく私が大人に見えたことがとても嬉しかった。これも着物のおかげかもしれない。双子に優しく手を振るおじさんに一気に好印象を抱いた。


「全く構わんよ、子供は好きだしね。見ての通り酒も置いてある店なもんでね、もし酔った輩が絡んできたらすぐ言ってくれ」


 氷のグラスの中では青色の液体が炎のように揺らめいている。とても強そうなお酒だ。優しそうなおじさんで良かった。お酒はきっと合うはずだ。用意しようかと思ったが私は未成年だから諦めたが、この世界に未成年という概念はあるのだろうか。今度聞いてみよう。


 おじさんに挨拶を済ませ反対側にも挨拶に行った。次は大所帯の亜人の楽団のスペースだった。忙しく動き回る人が多かったので、その中の一人の大きなハープの調節をするアラクネの女性に声をかけた。下半身から生えた蜘蛛の体を自在に動かしている。


「こんにちは、隣で屋台を開きますので挨拶に参りました。よかったらこれお店の物ですが、召し上がってください」


「……こんにちは」


 カサカサとした小さな声で挨拶を返してくれた。目を合わさずに受け取ってくれ、沈黙になった。気まずくなったので頭を下げ、しげしげと観察する双子を促しその場をあとにした。双子が何度も振り返り手を振るので後ろを向くと、アラクネの女性は小さく手を振り返してくれていた。恥ずかしがり屋なだけで、子供は好きなようだと安心した。


 屋台に戻ると私は具材をクリオロさん特製の四角く区切られた鍋にセットし、魔石に魔力を流し保温性を保った。私も魔道具の使い方に慣れたものだと改めて感心する。人の力で動く魔法とは不思議だ。


 暖簾と提灯をかけ、私はおでん屋さんをオープンさせた。


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