89話 大型モンスター
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「冬越し祭り?」
「あら、一年の締めくくりの時期ですよ。皆で歳を重ねるお祝いのお祭りの事ですよ。それが済んだら雪送り、これは女神様がお恵みを与えてくださる春を迎える事、新生活のスタートですわね。冬越し祭りは一年を振り返り、皆でまた春を呼び起こし感謝する意味があるんですよ」
「あー、そうでしたね!田舎者でもの知らずで」
「地方の方でしたか、ですからこの不思議な食べ物もご存知なんですね。冬越しの日はどこの街もお祭りをしてますので縁日にお出しになってはいかがです?」
縁日の祭り……頭の中に閃きが駆け巡る。それはなんていいアイデアだ、この大量のすり身を消費できる。感謝を伝える日なら私もその祭りにはぜひ参加したい。
「グッドアイデアです院長先生!ぜひ参加させていただきます、ありがとうございます!」
院長先生の小さな手をブンブン回して握手した。目をまん丸にして驚いたが、興奮する私を見て最後は優しく微笑んでくれた。
「街で屋台の申請ができますからね。私たちもみんなで参加してたんですけど今年は私の腰の具合が悪くて……あ、こらお前たち!」
氷の湖に亜人の姉妹が竹輪の串を持って駆けていた。まだ釣りを続けるリップさんとクチナワさんに差し入れたいのだろうか、だいぶ先まで進んでいる。私は慌てて連れ戻そうと氷の上を走ったらピキピキと戦慄が走るような音がして、氷に亀裂が入り教会の人に地面に連れ戻された。
私たちの引き止める声を勘違いして嬉しそうに二人は手を振り駆けていく。湖の真ん中ほどに進んだ姉妹を分けるように足元の氷が分断され、中から巨大なナマズの顔が割って出てきた。ショックな光景に私は手で顔を塞いだ。
だが周りから悲鳴は聞こえず歓声が上がった。指の隙間から見てみるとリップさんとクチナワさんがそれぞれの姉妹を抱っこし、魔物からの攻撃をかわしてくれていた。分断された氷の上で何か二人が言い合っているが遠くて聞こえない。ハラハラ見守っていると二人は双子が持っていた竹輪にかぶりついた。急に大人しくなった二人は巨大ウォーターリーパーに向き直った。剣を取り出したかと思えば水面から飛び上がった魔物の巨体を目にも留まらぬ速さで三枚に下ろしてしまった。なんて神業だ。周りのみんなもあっけに取られて動きが止まってしまっている。
姉妹を片手で抱っこしたまま一緒に戻ってくる二人はまるで映画のワンシーンのようだったが、受け取った竹輪串を食べながら帰ってくる様はどこか間抜けでもあった。
「二人共、いろいろとすごかったです!無事で良かった」
「うん、ちょうど二人ともアタリが止まってしまったから最後の獲物の取り合いになったけど……引き分けってとこかな」
よいしょと女の子を地面に降ろすリップさん。亜人の子は目がハートになっていて追加の竹輪を取りに行き、戻ってくるとリップさんにおかわりを渡していた。
「ハッ、数なら私の勝ちだった。芽衣、これはあの怪魚から作ったのか?」
「はい!竹輪って言います。すごい大きいモンスター出てきちゃいましたね」
「ああ、大量発生の根源だろう。デカすぎて水底に沈めようと思ったが芽衣がまた有効活用したようだと意見が一致してな。子供、気が利くじゃないか」
姉妹の一人がクチナワさんにも追加を持ってきて渡すと彼の足にしがみついた。こちらも目がハートになっている。振りほどく事もせずクチナワさんは仁王立ちで竹輪を食べる。
リップさんは目線にしゃがんで姉妹の獣耳の生えた頭を撫でている。犬好きだなーと見守っているとあっという間に完食して巨大魚を振り返る。
「うーーん、骨はいい素材になるけど身の部分はどうしましょうかクチナワさん」
「問題ない、芽衣に全部やる。大量にこれを作れ」
「ヒエッ」
腱鞘炎になるほどすり身を作らねばならなくなった。初めて日本食を紹介して後悔したかもしれない。いそいそと切り分け作業に向かう教会の人達も笑顔をこぼしていた。気に入って貰えて何よりだが、ここにいる全員では消費しきれない。院長先生の言う通り、冬越し祭りに賭けてみようか。




