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83話 二人でおやつたいむ

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 台所で力作業なんてリップさんは疑問に思っただろう。小麦粉と塩と水だけで日本食に挑戦するつもりなのだが捏ねたぶんだけコシが出るので腕力も欲しいところ。うどん作りの挑戦だ。


 うどん麺作りは水に塩を溶かし少しずつ小麦粉と混ぜていく。最初はボソボソしているので粉を巻き込みながら手で押しまとめるのだが、もち肌にさせるまでかなり力がいる。疲れたら交代して二人で押しまとめて行った。


 歯で袖口を引っ張って引き上げるリップさんを手伝い、両腕の袖を捲った。


「ありがとう芽衣。不思議と感触が変わってきたな、最初はあんなにボソボソだったのに」


「お仕事から帰ってきたばかりなのにいろいろとすみません、もうそろそろだと思います」


「いや、幼少の頃はよく屋敷の手伝いをしていたから久しぶりで楽しいよ。物作りは好きなんだ」


「もしかしてソリなんかも?」


「ああ懐かしいな。おもちゃの類は与えられなかったからね、今でも珍しいものをみると心惹かれるよ」


 幼少の頃はあまりご両親と一緒に過ごせなかったとセバスさんから聞いた。手の甲で頬をかいたリップさんに小麦粉が付いたのを私は布で拭う。こんなに真っ直ぐな目をした彼の幼少期はどんなものだったのだろう……私には手を延ばせばいつも届く距離に母が居て、沢山甘えさせてくれた。今でもこんなに会いたいというのに、リップさんもイアソンくんもとても大人だ。


「じゃあこの後しばらく熟成させるんだね」


「はい、ありがとうございました!リップさんも是非一緒に食べましょう」


「楽しみにしているよ。夕ご飯の前に小腹が空いたな、なにか用意させようか」


「私が用意してもいいでしょうか!ぜひ食べていただきたいものが」


「いいのかい?遠征中、クッキーと高野豆腐はとても美味しくて活力になったよ。部下に見つかって半分は食べられてしまったが……芽衣の作る料理を楽しみに帰ってきたようなものなんだ」


 さらりと嬉しいことを言ってくれる。なら丹精込めて作らなければとフライ用の油に火をいれ、買ってきたお餅でチーズを挟んだ。水で溶かした小麦粉で糊を作りパン粉を付けていると、背後から鼻歌が聞こえた。振り返るとリップさんがテーブルに頬杖をついてご機嫌そうにこちらを見ている。期待されている……今さらお餅を出してもいいものか不安になってきた。よく考えたらリップさんは大貴族のお家だ。お餅はこちらでは庶民が食べるもの、高級で美味しいものを沢山食べてきている人に、出してもいいものだろうかと悩んでしまう。だがもう仕方ない、途中でやめてはお腹を空かせているリップさんが可哀想だと諦めて、お餅を狐色になるまで油であげた。


 醤油があればもっと自信を持って出せるのだが、おずおずとした気持ちになってリップさんの前にトマトソースと共に置いた。


「熱いので気をつけてくださいね、あと一口で口に入れてしまうと喉をつまらせるかもしれないので……」


「なんだろう?中身がわからないのが逆に楽しみだ」


 手掴みで餅チーズフライに手を伸ばすとそのまま一口噛り、引き伸ばした。どこまでも伸びる餅とチーズにリップさんが驚いて目を見開いた。


「えっとキラースライムという庶民が食べるものなんですがご存知ですか?私はすごく好きなんですけどいろいろとその、リップさん大丈夫ですか?」


「うん……!うまいし面白いな、ハハここまで伸びるのか。キラースライムの存在こそは知っていたがセバスが昔詰まらせて死にかけたと嫌がって食べさせてくれなくてね、こんなにいいものだったのか」


 子供のようなあどけない笑顔で喜んでくれた。良かった、庶民が食べるものだからと言ってリップさんは嫌がる人ではなかった。夢中になって平らげてくれた。私も母が作ってくれた味を久しぶりに懐かしんで楽しいおやつタイムになった。



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