82話 コタツ
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リップさんが参加したことで作業は倍以上に素早く進んだ。軍人さんなだけあって雪の扱いも手慣れていて的確だ。珍しく洋装のリップさんは今風の若者のような見慣れない姿でいつもより生き生きしていて新鮮で、楽しそうにかまくら作りに励んでくれた。
「せいが出ますな若様」
「セバスか、つい気合が入ってしまってな」
セバスさんが様子を見にやってきてくれた。かまくら作りにプロがいるのかはわからないがリップさんは外観も凝ってくれて、一目でそのモチーフが何かわかるほどの腕前だった。それにしてもすごく器用だ。耳や目を雪で作ってくれて、背後に回ると尻尾までつけてくれている。今にもちぎれんばかりに振ってくれそうだ。
「わーリップさん!これって犬ですよね、すっごくかわいいっ!でも、なんでワンちゃんにしたんですか?」
私は興奮してかまくらの周りを走り回った。細部にまでこだわってくれて、初めてのかまくらが嬉しくて二人の元に駆け戻った。
「あーーそうだな、可愛いからかな……」
ポツリと言ったリップさんの耳が赤い。はにかむような表情でポンポンと頭を撫でられ頭頂部に手を置かれた。
「犬ですな、若様」
「そうなんだよ、犬なんだよ……」
二人の会話はよくわからなかったが、三人でかまくらに入ってみると思いのほか中は広い。大人三人でも全く窮屈にはならなかった。横に寝そべり中の構造を確認して私は次の段階に進む。セバスさんにいらない在庫を聞くと物置小屋にあるようなのでいただくことにした。
「脚を短くしたいのでノコギリも借りていいですか?」
「ノコギリですか?芽衣さまが使われるので?」
「はい!大丈夫ですよ、怪我しないように注意するので」
「芽衣、手伝うよ。目的はなんなんだい?」
「えっと……実はイアソンくんに作りたいものがあって、かまくらの中は寒いので炬燵を作ろうと」
「「コタツ?」」
もともとかまくらは小正月に水神様を祀る子供達の祭り、夜にしかできないので気温はもっと下がるだろう。風邪を引かないように炬燵を用意したいのだ。さっきアイテムバックから見つけたクロウくんが残してくれた魔石を使い、遠赤外線の光魔法を付与してテーブルの内部に取り付けたらうまくいくはずだ。だがこの世界の建築様式は洋風なので家具のテーブルも脚が少々長いので切断させていただくつもりだ。その役をリップさんが買って出てくれた。イアソンくんの為、あと好奇心が優ったみたいだ。
「仕組みはわかった。あとイアソンの為なら最後まで手伝うよ、芽衣は他に必要な布団とかをセンに頼むといい。台座の用意と脚の切断は任せて」
「ありがとうございます!早速屋敷に行って戻ってきます」
センさんを探す前に自室に戻ってカーテンを閉めた。魔石に付加魔法をつけるが人目に触れないようにするためだ。アイテムバックに手を突っ込み魔石を取り出したが、杖を手にとった時のようにいきなり光出すことはなかった。
やり方はわからなかったが、あのときの感覚は覚えている。体の内側から指先が魔石とつながる感覚……一つになるような、血が巡るように魔力の流れを感じる。時間の流れと歴史の証明。鈴の音が頭に響いて手のひらがポッと灯りをともしたように柔らかく光る。魔石に付加魔法がついたようだ。
うまくいって良かった、この感覚を忘れないようにしておけば人前で油断することもないはずだ。成功した魔石をポケットに、次はセンさんを探しに部屋を出た。
「なるべく水を弾くようなお布団とシートですね、正方形のならございますよ。整えてお持ちいたしましょう」
「ありがとうございます、後でお台所もお借りしていいですか?」
「ええ、ご自由に使われてください」
物置小屋に戻るとリップさんが背の低くなったテーブルの調節をしてくれていた。ちょうどいい高さだ。私も覗き込んで魔石を取り付けれるかチェックした。
「ここら辺に魔石を取り付けたいんですけど」
「了解、その魔石どうしたんだい?」
「試験の時、森で仲間が見つけてくれたのを分けてくれたものです」
「そうか!それはよかったな、試験はうまく行ったようだね」
向こう側にいるリップさんに魔石を渡すと感心したように眺め、私に微笑んでくれた。優しい目と視線が合うと私は急に心臓が跳ね上がって頭をテーブルに強く打ち付けた。驚いたリップさんも同じような音を出して頭をぶつけた。二人でしばらく悶絶して頭を抱えた。
後頭部をお互いチェックしあったがタンコブもなくホッとした。それでもリップさんは私の頭をやたら撫でてくる。なんだか少し照れ臭い。
「魔石も取り付けたし本体はできたな、あとは下に敷く革製のものも用意させよう。次は何をする?」
「えっと、また力作業なんですけど大丈夫ですか?」
「構わないよ、力作業ならなおさらだ」
「助かります!台所へお願いします」




