81話 おかえりなさい。
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「じゃあ売るよ、農地も教えるからきっとまた買いにきてね。貧乏人が売ってるもので他に何か欲しいものは?」
「ジュエリービーンズは栽培してないよね?枯れててもいいんだけど、あったら是非欲しいの」
「栽培!?あんな葉っぱ、子どもが森で遊んでる時に食べるものだよ。育ててる人なんていないよ!」
大豆は屋敷の裏で刈り取ってから、もっとないかとまた散策していたがなかなか見つからず街で売ってる様子もなかった。偶然見つけるだけの収穫量では私には絶対的に足らないのだ。私は落胆した。
「そんな目に見えて落ち込むこと……ちゃ、ちゃんと買い取ってくれるなら、僕が育ててもいいけど……」
「本当に!?いいの!?」
「うん。イアソンのおじさんの知り合いなら信用できるし、元手はそんなにかからないよ。お姉さんのおかげで当分売るものもないから春はモッチーの畑仕事のあと売り歩く必要もないんだ」
妹の亜人の子が兄に抱きついてきた。私を見上げるまん丸とした目がとても可愛らしい。
「こいつは妹のマーガレット、ママはダル、僕はエル。お姉さんの名前は?」
「私は芽衣、よろしくねエルくん。契約成立だね」
「なんだか大人みたいだ」
フフと笑うエルくんはイアソンくんと同じ年頃だろう、大人びて笑うと私と固く握手をした。泳ぎに向いているだろう水掻きの手は不思議な感触をしていた。元水泳部としては少し羨ましいとも思う。
青春漫画のように熱く握手を交わし、農地の場所も教えてもらって春に訪れる約束をした。
料金を払い、小分けにされた餅米をアイテムバックに詰め込んでいるとバックの中で一瞬光るものが目に入った。気になって取り出すと魔石が出てきた。慌ててバックに放り投げ手を離した。空の魔石だ、実地試験の時クロウくんが取り出したエレメントの付いていない魔石を何時の間にかリュックに突っ込まれていたらしい。覗き込むと三つばかりが中で光っている。クロウくんの分を少し分けてくれたのだろうか、ソウジくんにヒールしてもらった時リュックを引っ張られた時かもしれない。全く気がつかなかった。
「芽衣さま?そろそろ屋敷に戻りましょうか」
「あ、はい!そうですね、じゃあエルくんまた」
親子に見送られ、私も手を振ってその場を離れた。振り返って見たらお母さんのダルさんが嬉しそうな顔をして息子の頬を包み、親子で笑いあっていた。とても羨ましい温かい光景に、私も気持ちがほっこりして癒されていたらあることが閃いた。これも私の欲だ、屋敷に帰って準備に取り掛かることにした。
***
屋敷の外にはまだ未使用の雪山が残っていた。適当な大きさの雪山を選び、スコップを借りてきてひたすら掘った。私もかまくらを作ることにしたのだ。
初体験だったので、大きいのを選んでしまったことを途中後悔した。ひたすら掘っては固めて、掘った雪を運搬するを繰り返すのだがなかなか作業は進まない。雪国育ちではない私はかまくら作りも素人で雪を舐め切っていた。水分の塊なだけあってスコップは持ち上がらないし運ぶにも力がとてもいる。
こそこそ一人で作業する私は汗だくで、明日はきっと筋肉痛だ。訓練を思い出すような作業だ、と思っているとかまくらの外から声をかけられた。
「やぁ芽衣、帰ったよ」
優しい声に驚いて振り返った。かまくらの入り口にはニット帽をかぶったリップさんが逆光を浴び、腰を屈め覗き込んでいた。
「リップ、さん……?」
「ただいま。手伝おうか」
柔らかく笑うリップさんがそこにいた。突然の帰還に私はびっくりして固まってしまった。ん?と首を傾げるリップさんに勢いよく飛びついて外に転がり出た。
信じられなくて両腕を掴むと本当に触れる、本当に実在している……幻ではないようだ。リップさんが帰ってきた。しばらく見つめながら湧き出そうな感情を押さえ込むのに必死で、なかなか言葉が出なかった。
「お……!おかえりなさい!無事で、無事で良かったです」
「ハハ、ありがとう……そんなに心配されると嬉しくなってしまうよ」
私に尻尾があったらちぎれんばかりに振り回し、彼の周りを走り回っただろう。喜びが湧き上がってくる。久しぶりに安心感に包まれ、ただ目の前にいてくれていることが嬉しくて涙が出そうでしょうがなかった。やっと帰ってきたんだ……
「しばらくは、ゆっくりできるんですか?怪我はしなかったですか!?」
「うん大丈夫、雪迎えに参加したくてね。手伝ってもいいかい?」
リップさんは持って来ていた自分のスコップを雪に突き立てた。なんて頼もしい助っ人だ。ありがたく、かまくら作りを手伝ってもらうことにした。




