8話 種族がわからない
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この世界に転生してから二週間が経過した。私は世界樹の浮島から都には行かず、少し離れたリップさんのお父さんのお屋敷に降り立ち、そこでお世話になっている。
屋敷の主人は都市のラグゥサで暮らし政府のお仕事をされているようで、広い土地を持つ位の高い貴族、リップさんはその政府に雇われる騎士団だ。
お世話になってる間に学んだことは、この世界に国の概念はなく、世界樹とそこに住まう女神を頂点に掲げた信仰心で社会が成り立っている。
世界のほとんどが自然に覆われており、ヒューマン、エルフ、ドワーフ、動物の特性を持つ亜人達が平等に暮らしているようだ。
まだ屋敷の敷地内から出たことはないが、窓から見える景色は中世ヨーロッパの農村地帯風。生活のほとんどが魔道具で済むこの世界では、手をかざすだけで灯りから飲み水まで作り出してしまう為、科学の発展は進んでいない。
本を読んでいたソファから立ち上がり、バルコニーへ出た。この世界は今は秋だろうか?髪をなびかせる風が心地いい。米粒ほどの大きさだが、空に世界樹の浮島が見える。
私は小さい頃に世界樹に捨てられた、ということにした。浮島は普段は立ち入りが禁止されているが、再生と慈悲を与える希望の島として崇められ、世界各地に浮遊し困窮した者に救いを与える。世界樹の思し召しで長らく発見されなかったのだろうと納得された。
リップさんに隠し事も多いし、不憫に思われるのは申し訳ないが、お役所に野生児を発見したと報告してくれたみたいで、他は何も伝えてないようだ。そのため私は危険人物扱いされることもなく、軽い監視対象としてお世話になることを許されている。
その監視対象という主な理由は、私の種族がわからないということからだ。私は人間です、と言わなくて良かった。この世界ではリップさんのようなヒューマンにはこの髪の色は絶対現れないらしく、エルフの家系だと耳に尖りがあり、ドワーフの背丈ほど小さくなく、動物的特殊能力を持つ亜人の可能性が高いとのこと。
犬猫族には尻尾や獣耳が、アラクネなら下半身が蜘蛛、鳥人族なら両手か背中に翼など、見た目にわかる特徴があり、それぞれの部族に面倒を見てもらうことも出来るのだが、身体能力には全く変わりもなく平凡以下。
髪の色以外に手がかりのない人相書きを出しても、どの街からも部族からも返事がない。そりゃそうだ。だが困ったことに、種族によって就ける職業も住める町も決まっているらしい。
はぁ、とため息をつくと部屋の扉がノックされた。返事をして開けるとリップさんが一人立っていた。
「浮かない顔をしてるようだが?」
背の高い広々としたゴシック様式の部屋に似つかぬ、和装の青年のチグハグさが毎度笑えてしまう。




