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48話 第六次絶滅期

 

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「めーいー大丈夫かぁ?勉強ってそんなにツライのか?」


「あ、ハハそんなことないよ……体も慣れてきたし」


「体ぁ?」


 朝食の席でイアソンくんが心配そうに私を上目遣いで気づかってくれる。刻苦勉励した私は隈ができ目も血走り、げっそりとしているはずだ。


 クチナワさんの毒は多彩にバリエーションを変えた。血が沸き立つほど激辛のイチゴだったり、酸っぱすぎて口が痺れっぱなしになる飴や、美味しいけど触手の気色悪いものを出せれた時は泣きながら全部食べた。新しい扉を開けてしまったとクチナワさんは言う。私は聞こえない振りをした。


 タチの悪い遊びを覚えさせてしまったようだがクリアできない私の責任だ。クチナワさんは完璧に楽しんでるだけの気もしてきたが、勉強だけはしっかりと教えてくれる。教え方も上手いし、二人きりにも緊張しなくなった。


 それでも今日は何を出されるのだろうかと毎日戦々恐々とした日々、なかなか合格点が出ずめげそうになっていた。



「今日は激辛のケーキだ。生クリームが唇につくだけでも痛いから気をつけろ」


 一番苦手だった激辛シリーズ。美しいものでも愛でるように、イチゴのショートケーキをこれ見よがしに眺めるクチナワさん。


「まだテストもしてないじゃないですか!」


「あぁ、そうだったな。では始め」


 つまらなそうに開始の合図を手で叩く。ムカーッときて必死にペンを走らせた。


(問.50)ドラゴンの始祖と言われる亜人の名を述べよ。


 どっちだったかなグゴールかグーゴルだ。時間がない、悩んでる暇もなく殴り書き、最後の問題を終えた。一時間かけてギリギリで解答を埋めることができ、祈るようにクチナワさんの採点を待つ。


「……つまらん、全問正解だ」


「本当ですか!?」


 むっつりと頷くクチナワさんを見て、喜声をあげ跳ね回った。ついに毒の刑を回避できた感動を噛みしめた。サンルームからの光がこんなに神々しく見えたことはない。


「実際の試験はこれほど難しくはない、安心して挑むといい」


 サンルームに積もった雪がドサリと落ちた。あんな死ぬ思いをしたのに。軽く殺意を覚えたがぐっと堪えた。


「試験は一ヶ月後だ、準備も怠るな」


 クチナワさんが平気な顔をして罰用のショートケーキを口に運ぶ。化け物みたいな人だ。


「クチナワさん、美味しいんですか?私なんて唇が真っ赤に腫れ上がりましたよ」


「あれはなかなか間抜けズラだった、あと一度見たかったものだ。辛さとは痛みであって味ではない。我々は体内での分解、構築が得意だ。よってポーションは我々の専売特許といえる」


「エルフ、最強ですね」


「そうでもない、チンケなドワーフにもヒールが出来る者もいるし奴らの土魔法はヒューマンにも出来ん。エルフの状態異常の魔法はヒューマンにも出来んが、人間の付加魔法は我らは出来ん。女神様がバランスを考え与えてくださったものだ」


「では魔石がなくなったら人間は一気に立場が弱くなっちゃうってことですよね?」


「……叩き込んだかいがあったな、なかなか鋭いことを言う」


 クチナワさんは眼鏡を外し、紅茶をすする。カップから覗く真剣な眼差しが私を捉える。少し怖いオーラに私は身構えた。紅茶の追加を注ぐと低い声で話出した。


「そうだろうな、我々も困るがヒューマンが一番恐れることだろう。アカデミーの地下で様々な秘密の実験が行われていると聞いたことがある。生まれた時から暗い部屋で育てた子は髪が黒くなるとか、一定期間魔力を放出しないとどうなるかとか」


「ど、どうなるんですか?」


「モンスターのような魔狂いになる。膨大な魔力を吐き出しきれず毒の瘴気を撒き散らして死ぬ。あくまで噂だがな」


「魔石はこの世界の生命線ってことですか」


「あぁ、必死になって魔石を溜め込んでるヒューマンもいるらしいが、魔石がなくなったら神話にあるように世界樹と共に皆で終わるのを待つだけだ」


「最近は魔石のエンカウントも減って枯渇してるって聞いたんですが、大丈夫なんですか?」


「このままエンカウントが減り続けたら百年保つかどうかと噂もあって定かでない。新しい水脈も技術も見つかったと聞くが……我々の生きた罪だ、滅びればいい」


 ダークな顔つきで笑うクチナワさん。ひねくれすぎているようにも見えるが私には悲壮的にも見える。環境からくる問題がここにもあったんだと初めて知った。


 地球の人たちは衣食住、エネルギーを得るためにほとんどを自然界に依存し搾取し環境を破壊し続けている。世界は第六次絶滅期に入っていると母が言っていた。一番有名な恐竜の絶滅は、第五次に当たるそうだ。恐竜のいた頃は千年間に一種類の生物が絶滅していたらしいが今では一日に約百種、一年間にはなんと約四万種が二度と姿を見れなくなっている。これは巨大隕石によって全生物の七十五パーセントが大量絶滅したと言われる白亜紀を、遥かに上回る速度で進んでいるらしい。


 人間は自ら絶滅期に向かって猛スピードで進んでいる、と母は嘆いていた。自ら進んで自滅する愚かさは、文明が生まれてしまってはどこも変わらないのだろうか。私はこの世界に住まわせてもらっているだけでいいのだろうかと思えてきた。転生に大きな使命があるのだとしたら。


 あることに引っかかった。スキル鑑定の謎が解けたかもしれない。確認したいが今は術がない。長いこと思案しているとクチナワさんが咳払いをした。


「すまんな、私の一存だ。女神に召されるならいつでもいいと思っていたが、今はまだお前の心地いい空間でお茶を楽しみたいとも思っている」


 やけに素直だ。テーブルに肘をつき、優しく微笑んでくれるクチナワさんは最近穏やかな笑みを見せてくれる。兄がいたらこんな感じかもしれない。お父さんのようなリップさんとはまた違うタイプの頼りがいと優しさを与えてくれる。


「……毒入りでないならいつでも」


 耽美な顔でジッと見つめられると目を直視できなくなって誤魔化すように私はティーカップを口に運んだ。


「んんぅ!?かっらぁ、い!」


 やられた、前言撤回だ。


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