表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/217

47話 鬼にこの世界の成り立ちを教えてもらいました

 

 47



「今日は、よろしくお願いします」


 朝の馬番の仕事が終わり、昼にクチナワさんが勉強を教えにやってきてくれた。珍しく眼鏡を着用してるので雰囲気が違う。


「私が教えるんだ、死ぬ気で頭に詰め込め。もし学科試験に落ちたら毒入りの食事を一生させるからな」


「…………」


「冗談だ、始めるぞ」


 全然笑えない冗談だ。リップさんが熱血タイプだったのに反し、こちらは絶対零度の緊張感を与えるタイプだ。二人きりでいると蛇に睨まれた蛙の気持ちを味わう。


「まず、この世界の成り立ちからだ。最初、この世には魔石から生えた世界樹が一本だけだった。世界樹が海を作り、森を作り、空を作った。全部が世界樹一つに繋がった世界だった。長い時間を生きた世界樹がやがて枯れ始め、海も森も空さえ悲しみ皆が一斉に終わるのを待つだけとなった。すると空からドラゴンに乗った女神が現れた」


「ドラゴンに乗った、女神……」


「そうだ。女神は世界樹の作ったこの世界をたいそう気に入って我々を作り、知恵と魔法で世界樹を枯れさせぬよう協力させた。そうして世界樹は枯れることを免れ、我々に魔石を女神様は魔力を与えてくれ魔法に満ちた世界になった。我々はお二方の恩恵の元で暮らすことになったとされる。なにか質問は?」


「ドラゴンに乗ってきたということは、モンスターも女神様が作られたんですか?」


「長く議論されているが、そう言われている。試験には出ないから次にいくぞ」


 教科書はどんどん進む。出てくる用語や人物名は呪文のようで目が回り、何度も取り間違えた。その度に冷ややかな目で、時にため息をつき私の自尊心を根こそぎ奪う。私が課題に唸りながら頭を抱えている時も優雅にお茶を飲み、何時の間にか私の部屋からきな粉のクッキーを勝手に持ち出しつまんでいる。なんとも憎らしい。


 気づけば十時間以上、付きっきりで勉強する日が五日経過していた。私は詰め込んだ用語が、ふとした拍子にこぼれてしまわないかと心配するほど困憊していた。


「『教えてくれ、私は忘れるだろう。見せてくれ、私はきっと覚えない。巻き込んでくれ、私は理解するだろう』教典にも載っている、ある民族の一節だ。よって、明日からは小テストも行う。不正解があったら毒の刑で体に覚えさせるから、覚悟して復習しておけ」


 私は顔面蒼白になったのだろう、クチナワさんはニヤリと笑う。センさんに外套を着せてもらうと珍しくニッコリお礼を言い、機嫌よさそうに屋敷を出た。


 センさんは美貌あふれる笑顔にメロメロになってしまい、助けてくれそうもない。毒の刑って一体なんなんだ、致死性の毒を平気で盛る人だ、手加減してくれる相手ではないのを知っている。不安で全く集中できず、私は泣きべそをかきながら深夜遅くまで机に向かった。


 ピーッ!という櫂の声で目が覚めた。徹夜で勉強しようとしてそのまま机で寝てしまっていたようだ。


「んー櫂、ありがと………ど、どうしよう全然予習できてない!私、今日死んじゃう」


 櫂は不思議そうに首をかしげた。ボロボロの見た目で眼球を血走らせ、教科書片手に朝食を無心で食べる私にイアソンくんはかなり引いていた。頭に叩きいれようとするが以前のクチナワさんの毒を思い出し、全く集中出来なかった。死ぬほど怯えている私に容赦なく時間だけが過ぎて行く。




「残念だったな芽衣」


 不敵な笑みのクチナワさんはとても嬉しそうに見え、戦慄が走った。サンルームで採点してもらったが結果は惨敗、半分以上もわからなかった。ティーポットから紅茶を注ぐとレモンを絞り、カップを私に寄越す。


「全部飲め。安心しろ、死ぬようなものじゃない」


 有無を言わさぬ雰囲気に、恐る恐る口に含んだ。唇に付くとビビっと電流が走り、驚いて肩をすぼめた。次の瞬間、口の中にこれまで経験したことのない痛いくらいの苦味が広がった。あまりのマズさと痛さに震え、舌先をべっと突き出した。


「にっがー!何ですかこれ、マズッうえっ」


「うまいわけないだろう、罰なんだから。早く残りも飲め、勉強に戻れないぞ」


 くっくっと喉を鳴らすクチナワさん、頬杖をついて面白いものでも見るように目線を外さない。飲み終わるまで見届ける気だ。


 痛いし苦いし全部ひっくり返して逃げ出したくなる。けどそうしたらクチナワさんは二度と勉強に付き合ってくれなくなるかもしれない。今投げ出したら一生が変わる。こんなこと乗り越えてみせると意地になってきた。


<虐待だ、変態だ、鬼教官だ>


 呪詛を吐くが怖くて口には出せなかった。諦めてティーカップをチビチビと口に運んだ。静電気のような刺激が肩を震わせ、慣れることなくビクビクッと反応するその様子をただニヤついたままクチナワさんは見守る。やはり飲み終わるまで許してはくれないようだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ