46話 戦闘糧食 レーション
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結局、ゴブリンは素材にする箇所を取るだけにした。最近数が増えすぎて優先討伐対象らしいが、始めての獲物は体格も小さくまだまだ低級だった。
ゲンナリして疲れ果てた私にリップさんはホーンラビットの肉を勧めてくれた。
「でも、食料は自分で現地調達って」
「ゴブリンは仕留めたじゃないか。オセロットのキラービーも食べる箇所はないから、みんなでこっちを食べよう。これもサバイバルの教訓だ。誰が仕留めたじゃなく、みんなで戦うんだから」
死んでしまってはモンスターの声は聞こえないが、死ぬ時の声が聞こえてしまった。生きていた姿を見ていたので私は一瞬躊躇してしまう。さっきまで森を駆け回っていたホーンラビット。その肉をオセロットくんが先に受け取った。
「伝説の亜人の戦士ストーキングウルフにこんな言葉があるよ。
『この地上で生きているものはみなものを食べなければならないことを、まず理解しなさい。生きるためには大地からものを貰わなければいけない。
どのようにしてもらうかによって、害悪になるかケアテーカーになるかが決まるのだ。自然の恵みを受け取る時は、まずそれを賛美し心で深く感謝しなさい。
自然を破壊するのではなく、自然に利益をもたらすように心して命をいただきなさい。
自然の創造物をもっと立派な形にして後世に残さなければならないのだ。そうすれば私たちは大地のケアテーカーとしての運命を全うしたことになる』……今日の糧に感謝します。お先にいただきまーす!」
オセロットくんは先に肉にかぶりついた。ケアテーカー……自然に利益をもたらすもの。オセロットくんの言葉を深く理解し、私も受け取った。また生きると決めたんだ。この血と肉を作った大地に感謝して、私は活きよう。私も世界の糧になる日まで。
丸々と肥ったホーンラビットのお肉は脂が甘く美味しくて、火を囲んで楽しく二人と談笑した。食べ終わり、地べたにそのまま寝転ぶと満天の星が空を埋め尽くしていた。手が届きそうなほどはっきりと見え、流れ星がいく度となく空を駆ける。
こんな夜空は見たことがなかった。焚き火の煙が夜のベールに吸い込まれて行く。みんなで焚き火を囲み、地面に寝転ぶなんて地球ではやってみようなんて思ったこともなかった。
夜中、二人が交代で見張りをしてくれているのに気がついた。一緒に起きていようとしたが途中で寝落ちする不甲斐ない私、リップさんが揺らさないよう優しい扱いで横にしてくれた。うんと小さい時に母がベッドまで運んでくれた時のような、心地のいい浮遊感を味わった。申し訳がないのに体がその優しさに甘んじてしまう。
横になると地面から何か、小さなたくさんの鼓動が聞こえるような気がした。土が遠くの何かにつながっている感覚を確かに感じる。サーチが遥か遠くまで繋がっているように思えた。
次の日の収穫はホーンラビット二匹と牙の鋭い食虫植物に、スライムとゴブリンの群れが五匹。ゴブリンが出た時はどうしても逃げ惑ってしまう。課題も増えたが少し自信もついたサバイバルとなり、リップさんの訓練は無事終了した。
「お疲れ様。騎士団の訓練についてこれたんだ、自信を持って大丈夫」
リップさんが心強い言葉を残してくれ、オセロットくんもニッコリと微笑んでくれた。
***
訓練が終わり、しばらくは教えてもらったことを一人で特訓しながら馬番を手伝う日々が続いた。ある日の朝、震えながら外を伺うと一面雪に覆われた銀世界に変わっていた。バルコニーに出ると息が白く伸び、雪は朝日を浴びてキラキラと輝く。冬が、きたようだ。
「雪が降ったということは、そろそろジェイダの試験がある」
夕食の席でリップさんが言った。
「試験は学科と実技。実技は素材採取と模擬試合があるが、身体能力のチェックだから心配することはない。学科はモンスターと森の生態、それに神学があるんだ。私は専門じゃないから、クチナワさんに教師役を頼んでみた……」
「クチナワさん、ですか……」
「あぁ、最近の茶の礼だと引き受けてくださったよ。ついでだとおっしゃっていたが」
リップさんは苦笑した。クチナワさんに勉強を教わるのは少し気が引ける。確かに司祭様から神学も教えてもらえるなんてありがたい話だが、あんなドSの人に勉強を見てもらうことを想像して胃が痛む。リップさんとはまた違うしごき方をされそうだ。
「明日早速いらっしゃるよ。私の欄は書いておいたから後はセバスに出してもらうといい。私はまた遠征になるから、もしかしたら試験の日には帰ってこれないかもしれない……芽衣も頑張って」
「ありがとうございます。遠征、前回みたいな魔石のエンカウントですか?」
「いや今回は村で魔狂いの群れが出たようだ。全部討伐するまで帰れないから、どれほど時間がかかるかわからない」
ため息をついて、何だかとても億劫そうだ。そうか、遠征になるとしばらくは保存食で過ごすのかもしれない。私も特訓の時はそれしか与えられなかったが、あれは地味に辛い。そのまま食べても、スープにしても噛むだけの作業にしか思えず楽しみにはなりはしない。
「あの、ちょっと待っててもらえますか?」
「……?」
私は急いで部屋まで戻り、外に吊るしていたものを何個か包んだ。最近寒くなってきたので高野豆腐を作っていた。凍り豆腐と言われ、冷凍と乾燥を繰り返すことによって水分を飛ばすので保存がきく。訓練の時の携行食には懲り懲りしていたので思いついたのだ。それと、きな粉のクッキーも瓶に入れてリップさんに渡した。
「この前、食べていただいた豆腐を凍らせたものです。水に戻して食べれます、良かったらお持ちになってください。それとクッキーです」
「ありがたい。芽衣の作る料理は美味いから、楽しみができた。大事に食べるよ」
「はい、頑張ってください」
リップさんは興味深そうに高野豆腐を観察した。なんだか機嫌も良さそうだ。ご飯の楽しみは大事だ、頑張って欲しい。




