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41話 仏の豹変

 

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 訓練が始まった。


「今日は初日だから、軽く始めようと思う」


 と言ったリップさんの爽やかな笑顔が一変、和装にたすき掛けを絞めると顔つきから態度までが変貌した。風の吹きすさぶ草原で基礎体力を着けることから始まったが、外気は冷たいのにすぐびっしょりと汗をかき、ものの三時間で早くも体がついていかなくなった。


「芽衣! 亜人ならもっと体力があるはずだ。もっと底力を出せ! 間に合わなかったからあと一周追加、そのあと休まず武器の稽古だ」


 鬼軍曹に化けたリップさんは恐ろしかった。剣の稽古で竹刀を振り回し、盾越しに滅多打ちにされ、次は馬に乗り流鏑馬の稽古。弓は重く弦が跳ね返り、肌に当たると鞭のような威力があった。それどころか馬から振り落とされないようにするだけで精一杯だった。


「よし三十分の休憩だ」


 昼時もとっくにすぎた頃にやっと休憩になった。馬に乗った後だったので酔ってしまい、振動の残る体は地に足がつかず視界が回った。一切の水も与えられなかったのに、ガブ飲みしないように言われた。水分補給無しでぶっ通しなのもサバイバル時の訓練なのだそうだ。


 ろくにご飯も喉を通らず今にも吐きそうなのを堪えて次に魔法の訓練。これが意外に体力と精神力を吸い取られた。魔法をずっと同じ力で持続し、移動させたり静止させたり威力のコントロールを保つ。 失敗すると水をかぶったり火の玉が服を燃やしたりした。


「いい魔石みたいだが宝の持ち腐れだぞ! 次!」


 集中力が切れそうになる夕方、眠たくなる室内で座学。主に武器の取り扱いと戦闘の基本、サバイバル術や森とモンスターの生態。魔法の発動の仕組みについても教えてもらった。


「魔力を込められるものとして、魔石、魔水、瘴気を抜いたものがある。最近の研究では人口的に作られた魔石も開発が進んでいるが、効果はそこそこあってもコストがかかる。また海からも一定量の魔水がとれる場合もあるが、海水を取り出す段階で瘴気の竜巻を発生させ大災害となり中止された」


「瘴気は浮島で世界樹が出していたものですよね?」


「そう、世界樹が怒ると瘴気を出すと言われている。ここからずっと離れた砂漠地帯は昔、世界樹の怒りを買ったと言われていて今も瘴気をだしている」


「吸うとどうなるんですか?」


「人体にとても害がある。吐き気、意識の混濁、魔力の枯渇などだ」


「その砂漠地帯は昔何をしたんですか? 砂になるほどの怒りって何ですか?」


「種族や伝説によって解釈は様々なんだ。古代都市があったとか、何もなかったとか。危険地帯で調査は進んでいなくてね」


 浮島を思い出した。ドラゴンが倒れてから植物が狂暴になり霧の性質が変わった。吸うと胸の焼けるような気分の悪い感覚だった。


「そういえば、芽衣を見つける前日も世界樹の様子がおかしくって調査に出たんだ。たぶん十年ぶりくらいの世界樹の調査だったと思うよ、色々あって辿り着けなかったけどね」


 そうだったんだ。何はともあれ、あの時人に会えて本当に運が良かったみたいだ。島から降りる手段もなく、一人で十年もサバイバルをしていたかもしれない。


「長い間よく頑張ったね」


 訓練中初めてリップさんが笑った。胸が痛い。言うタイミングをどんどん逃している気がする。


 勉強しながら夜ご飯は保存食を体に慣らす。お腹はペコペコなのに味がなく硬いだけで全然満足出来なかった。そして夜、目の効かない闇の中で最後にまた武器の稽古。闇からくる竹刀の先が音もなく打ち込まれ、ムチ打ちを作る恐怖の世界だった。


「鳥人族は闇に弱い鳥目が多い。だから感覚を研ぎ澄ませるんだ。殺気を感じ取れ。『大いなる気は我々の兄弟姉妹。耳を傾ければ、語りかける声を聞くことができる』古くから戦士に伝わる格言だ」


 無茶苦茶な要望だらけだったが、騎士のリップさんがいうのだから間違いは無いだろう。そう信じたい。その思いだけで訓練は終了した。根をあげそうだったが乗り切った……と思っていたら次の日は早朝に呼び出された。これが一番の地獄だったかもしれない。


「筋肉痛だからと言って甘えるな! 森で怪我をしたらもっと痛い目に遭いながらも我慢して戦うんだぞ、痛い所を鍛えろ!」


 悲鳴をあげながら朝の草原を走らされた。離れたところでケイロンさんとイアソンくんが手を振りエールを送ってくれ、薄墨が横で並走してくれた。


 三日目の訓練のときには何故かクチナワさんがニヤニヤと見物しながらテラスでお茶を飲んでいる。体が言うことを聞いてくれなくて転倒してばっかりだった私に憤怒の感情が沸き起こり、気持ちで立ち上がることができた。


 四日目の訓練の日には、これまた何故かオセロットくんの姿がテラスにあった。優雅にクチナワさんとお茶を啜っている。


「エルフの街で知り合った友達らしいな」


「あ、はい。ハァハァ……お友達に、なりました」


 息も絶え絶えで腰を折りつつも、手を降った。オセロットくんもヒラヒラと手を振り返してくれ、櫂を膝で撫でる。何故かとても冷ややかになった鬼軍曹は厳しくなり本気モードになった。それでも私は訓練について行った。



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