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39話 魔質の確認

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「ありがとうございます。リップさんには大変お世話になりました。種族もわかったことなので、そろそろお屋敷を出ようと思います」


「……あ……そうか、だがどうやって生計を立てる? 皆とよくやってるし、ここにいてくれてて構わないんだぞ?」


「いえ、これ以上ご好意に甘えることはできません。ジェイダというアカデミーがあると聞きました。杖もあるのでそこで冒険者から始めようと思います」


 リップさんは腰の杖を見て少し驚いたような表情をした。唸るような声でしばらく悩み、なかなか承諾してくれない。


「ううん……心配だ。確かにアカデミーに入れば好きな授業を受けるか、クエストでアルバイトもできる。だが冒険者は森での危険なクエストも多い………」


 リップさんは黙り込んでしまったが、私の意思も固い。心変わりしない私についに大きくため息をついた。


「……だが私も引き止めることはできない、その代わり訓練をさせてくれ。芽衣は翼がないのだから特種能力もなくて怪我しないか心配なんだ」


「ありがとうございます! 是非お願いします!」


「森でのサバイバル訓練も考えよう。あとジェイダに入れた時は私に口をきかせてくれ。この街にアカデミーはないからラグゥサが一番近いが首都な分、名門だ。街で家を借りるより寮に入ればクエストでも払える額だ。多少の融通はきかせれる。たまには聖騎士の称号も役に立ってもらおう」


 ハハと笑いながらリップさんは提案してくれた。願ってもない申し入れだ。寮なら一人暮らしの不安もない、リップさんに冒険者の心得も教えてもらえる。こうも優しい人達に恵まれて本当に運が良かった。


「多少厳しくするからね。根をあげたら諦めてもらうよ」


 何か企むような笑顔が怖い。もし途中で根をあげてしまったら……森でのサバイバル技術もしっかり学んでおかないといけなさそうだ。リップさんにはゆっくり療養してもらってから訓練してもらうことになった。


 私は明日は大豆の大量生産を目論んでいる。エルフの街でしたみたいに水を操作して水分が抜けないか試し、季節が変わる前に収穫してしまいたい。どうあがいても胃は日本食にしがみつくつもりだ。

 

「豆腐は本当に美味しかった、ありがとう。何故だか小さい頃を思い出す懐かしい味がしたよ……また食べれると嬉しいのだが」


「はい喜んで! この世界に日本食を必ず根付かせてみせます!」


 拳を振り上げ、わけのわからないだろうことを口走ってしまい私は赤面した。慌ててお皿を回収して部屋を出た。おやすみなさいの言葉をかけ忘れたのでそっと隙間から覗くと、声を押し殺して笑うリップさんがいた。


 私に気づくと、微笑みながらちょいちょいと手招きされた。再度入室してリップさんの前に立つと、笑いながら咳払いをしたと思ったらスッと真面目な顔になった。


「すまない、一つ確認したいことがあって少しいいか?」


「え? はい、どうしたらいいですか?」


「杖を握って、ここに座って」


 私は胸の前で杖を握ると指定されたリップさんの真横のベッドの上で正座した。


「少し、我慢してくれ」


 その言葉のあと、浴衣姿のリップさんは私を覆うように抱きしめた。目の前に彼の綺麗な鎖骨があって、私は全身の機能が止まってしまった。見上げたらすぐそこにリップさんの端整な顔つきがあると思うと、緊張で頭が破裂しそうになる。


「……いい杖だ、魔力の伝導もいいし魔石の魔質も一流品だ。私は魔導師ではないが軍人故、多くの魔石のついた武器は見てきたが、芽衣は良い魔石に出会えたようだな。長く戦ってくれるだろう」


 話し声が胸元から振動するように聞こえる。私は心臓が口から飛び出しそうで声も出せず、何度も頷くことしかできなかった。


「最近は強いが邪質な魔石が多い、体への負担がかかるから気になったが魔力の流れを見たところ芽衣の体によく馴染んでいる」


 抱きしめてくる体が熱い。熱が上がってきたのだろうか、リップさんはそのまま後ろに倒れてしまった。リップさんはお香のような安らぐ香りがする。逞しい胸の上で規則正しい心臓の音を聞いていると、少しだけ落ち着いてきた。いい魔力だと褒められて嬉しかった。


「不思議と心地よくなる魔石だ……ん? ……芽衣……尻尾、が?」


「ええ!?」


 ビックリして首を回すと、櫂が混ぜてくれとばかりに背中に飛びついていた。嬉しそうにブンブン振り回す櫂の尻尾を、二人して見間違えてしまったようだ。笑いながらリップさんは私を離してくれ、体を起こした。


「櫂! ビックリした!」


「ブルードラゴンの子だな、芽衣の相棒か?」


「はい、リップさんの許可なく勝手にお屋敷に入れてすみません」


 軍人のリップさんはモンスターの扱いにも慣れているのか、腕を伸ばすと櫂も怯える様子はなく大人しく従った。この屋敷の人の中で初めて私以外の肩に乗る櫂を見た。


「いい子だ。気にしなくていい、芽衣はこの屋敷で好きにしてくれて構わない」


 目を瞑り、肩にいる櫂に顔を傾けるリップさんは少し寂しそうに見え、やはり綺麗な顔をしている。魔力の流れを見る為に仕方ないとはいえ、さっきまで抱き締められていたと思うと今更私は挙動不審になる。


「いつでも、帰っておいで」


「あ……ありがとうございます! わた、私そろそろお部屋に戻ります」


 綺麗な瞳で微笑まれると心臓が飛び上がった。立ち上がったら体が硬直してカクカクしてしまう。リップさんが私の腕を掴んだ。


「……おやすみ、芽衣」


「おやすみなさい、リップさん」


 顔を直視出来ず震える声で絞り出した。退出すると心臓が元を取ろうと心拍数を上げる。ほんとうに心臓が止まると思ったのだ。


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