38話 リップさんの体調不良
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リップさんが帰ってきた。日も落ちかかった頃、泥で汚れた薄墨に乗り疲弊しきった顔をしていた。
「ただいま。無事にモンスターは撃退したが、少し疲れたみたいだ。今日は先に部屋で休むよ」
「お疲れ様でしたリップさん……体調、悪いんじゃないですか?」
「帰りの道中、体が冷えてしまったみたいだ。セン、スープだけ部屋に持ってきてくれ」
風邪をひかれたのだろうか声が枯れている。咳き込むリップさんを見送ったセンさんが、台所に向かったので呼び止めた。
「あの、スープを作るのを任せてもらえませんか?」
「まぁ! それは若様も喜ばれるはずです。もしかして、夕食に出してくださったアレをお出しになるので?」
昼間に大豆でまた一品作ってみた。水を吸わせた大豆を煮詰めて水と一緒に粉砕して煮込み、コシ布で絞り豆乳を作った。にがりがなかったのでゼラチンで代用したが豆乳と混ぜ、固まったところで水にさらして絹ごし豆腐と、水分を抜いた木綿豆腐を作った。具材と一緒に混ぜがんもどき、薄く切って油であげた油揚げ、厚く切った厚揚げを夕食に出した。
ケイロンさんが鍋のがんもをたいそう気に入って珍しくお酒を飲んだ。私も久しぶりの日本の夕食の味には感動さえした。これをリップさんにも味わってもらいたい。
「はい。湯豆腐がいいかなって」
「ユドーフ?」
センさんが手伝ってくれて、昆布の代わりに貝とジンジャーで出汁をとり、味を整えるといい感じになった。野菜と小さい油揚げも入れ、部屋まで持って行くとリップさんがベッドで丸まっていた。青ざめた顔で咳き込んでいる。私に気がついて体を起こした。
「あ、芽衣ありがとう……いい匂いがするな」
「はいスープを作りました。お口に合うといいんですが」
「ん、この白いのと茶色いものは?」
「豆腐と油揚げというものです、どちらも同じ植物から作りました」
リップさんが豆腐に息を吹きかけて冷まし、口に入れ流し込むとホウと息を吐いた。手料理を食べてもらうのはとても緊張する。
「とてもうまいな……体が温まる」
感想を聞いて安心した。気に入ってくれたのか次々口に運び夢中で食べてくれる。
「見たことのない不思議な食べ物だ。何という植物だ?」
「イアソンくんはジュエリービーンズと呼んでいました。私は大豆と呼んでいますけど」
「あぁ、あれか。植物はそのまま食べることが多いからな、加工するとこうも変化するものか。そうだ、芽衣が翼を無くした亜人だったと報告も聞いた。小さい頃に無くす者も多いから仕方ない、空を飛べないのは残念だろうが一安心したよ」
いい機会かもしれない、お屋敷を出る決断を伝えよう。優しく微笑んでくれるリップさん、本気で心配してくれていたのだ。この世界に降りたって最初に出会ったのがこの人で本当によかった。出会いが思い出され、一瞬躊躇した。だがこの世界で私は生きていかなければいけない。彼の優しさに甘えてばかりではこの先すぐダメになってしまうだろう。お皿を片付け意を決した。




