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35話 魔法の豆

 

 35



「ジュエリービーンズじゃん」


 イアソンくんが後ろから覗き込んできた。


「夏はカラフルな実が詰まってて甘くておやつにいいんだけど腹の足しにはならないんだよなー。それに、それはもう枯れてて食えないぜ」


 なんてことだ……何を言ってるんだこの子は。もしそうならこれは魔法の食材なのに。ご飯を食べさせてもらっててなんだが、リップさんの服装とは裏腹に、こちらの食文化は完全洋食だ。はなから期待はしていなかったが希望が出来たなら求めてしまう。もしこれが本当にそうなら恋しい日本食が夢じゃない。興奮を抑えて鑑定した。


【ダイズ:NE:状態異常なし】


「ダイズ……大豆だ!! やったぁ!」


 大きくガッツポーズし、すぐさま神様に感謝のポーズをした。枝豆は大豆の未成熟の姿、イアソンくんがいうカラフルな状態はきっと枝豆の状態なのだろう。サヤを振るとカラカラと音がした。いい塩梅だ。


「何だよ、そんな枯葉食うのか?」


「手伝ってくれたら、とびきり美味しいもの食べさせてあげる」


 ニヤける私にイアソンくんは訝しげだったが了承してくれた。イアソンくんと屋敷に戻り、道具を集めに行った。


 まずはこの大豆の実を完全に乾燥させなければいけない。天日干しでもいいのだが、ここは魔法の世界。試せることは試してみよう。必要なものはすぐに集まり、櫂が見張りをしてくれていた森に戻った。


 根は地中に残し、枝を刈り取り束ねて木にぶら下げた。機械がないから次の作業が重要ポイントだ。失敗したら手間と日にちが結構かかる事になるから心してかかろう。昨日習得した光魔法の遠赤外線と風の魔法を融合した熱風を広範囲に大豆に当てる。サヤはみるみるうちに乾燥され、カラカラに乾いた。砕けるような莢から実を取り出すと、さらに硬くなっていてうまくいったように思えた。私なかなかやるな……自分に感心だ。


「芽衣ー、次は?」


 退屈そうに見ていたイアソンくん。次は彼の出番だ。


「次は拡げたシートに、叩きつける!」


 脱穀機がないので後は昔ながらの地道な作業だ。シートを敷いた地面に叩きつけ、枝から離すのと莢を割るのが目的だ。イアソンくんは楽しそうに励んでくれた。私は飛び出した豆の選別作業に入る。まるで真珠のように美しく、一粒一粒が愛おしくなってしまう。私の不気味な笑みにイアソンくんは引き気味だがニヤつきが止まらない。


 たまに莢からイモムシが飛び出すと櫂が目ざとく見つけ飛びついた。結構雑食なのだろうか?毒のスライムが好物と聞いたが自分でご飯を探しに行ってくれたりと、金銭的にもとても助かる。それに櫂はとても賢い子だ。私がイモムシだけを除いているのを理解し、大豆をつまみ食いもせず作業の邪魔もしない。


 ついついお昼ご飯も忘れて熱中してしまった。籠の中で熱風をあてながら籾殻を飛ばし、完全に乾燥したとこで作業は終了した。出来栄えも良く綺麗な乾燥大豆は輝きを放ち、私は宝石を見るような目になった。


「ありがとう! イアソンくんも櫂もお疲れ様!」


「腹ペコだあー! なぁ、それ本当にうまいのか?」


「このままもいいけど、もっと美味しくなるよ。ちょうどいい時間かも、ふふふ」


 そう、ちょうどおやつの時間だ。道具を片付け籾殻は土に返す。屋敷に戻り台所を借りた。


 フライパンで乾燥大豆を炒ると、香ばしい匂いがする。スパイスグラインダーで粉状になるまですりフルイにかける。ふわふわになった粉を用意していたフレンチトーストに振りかけ完成した。私は自信満々でイアソンくんと櫂の前に出した。


「はいどうぞ。きな粉のフレンチトーストだよ」


「キナ粉? 芽衣、粉にしちゃったのかよ!」


「いいからいいから、食べてみて! 私小さい頃からすごく好きだったんだ」


 イアソンくんにしては珍しく小さくカットしている。恐ろしげに口に入れると目を大きく開き両手でほっぺたを包んだ。何とも可愛い仕草だ。しばらく悶絶すると夢中で食べてくれた。櫂も一口で食べてしまうと歓喜の感情が流れ込んできて、部屋中を飛び跳ねた。お手伝いのご褒美を貰えたことがとても嬉しかったみたいだ。


 その様子に満足して私も自分の分を口に運ぶ。懐かしい香りが鼻を抜け、上品な甘さが脳を刺激した。完璧に成功だ。


 久しぶりの懐かしい味は私を高揚させる。魔法のおかげで作業が素早く済ませられた。魔法がなかったら天日干しで一週間ほど焦れったい日を過ごし、鳥や虫の被害にも遭ってただろう。


「このキナコってのすげーな芽衣! 枯れた実がこんな魔法の粉になるんだ」


「大豆は本当にすごいんだよ、色んな形に変化するんだから。そうだ、余ったきな粉でクッキーも作ってみようか!」


「クッキー!」


 イアソンくんは嬉々として手伝ってくれた。本当は味噌や醤油を作りたいんだけど、米があるのかわからないので麹菌がないし……だが『あれ』なら作れるかもしれない。お菓子ではない、食卓の友だ。


 クッキーを作りながら、私はそっと大豆を水に戻しておく。



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