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30話 六角形に込められた想い

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「いいお店だったね。僕の種族は目がいいからメガネ屋さんに入ったのは初めてだ。自分で使うの?」


 店を出てオセロットくんに尋ねられた。初めてこの世界で買い物ができて気分も弾む。道も人が増えてきていて背の高い建物に囲まれた庭園のような広場に出た。


「ううん、今日の連れの人へのプレゼントなの。うまく出来るかわからないけど、すごくいいものが見つかった」


「へぇ、どんな人? もうここは教会の広場だから来てるかもしれないよ」


「赤い髪のエルフの司祭様だよ、ここにいるかなぁ」


「………ほら、あの人は?」


 オセロットくんの指差す人混みの中に赤い髪を見つけた。すごい動体視力だ。手を降り駆け出すと向こうも気づいたようで駆けてきてくれた。クチナワさんは少し髪が乱れうっすら汗をかいてる。


「どこに行ってたんだ、心配したぞ」


「クチナワさんの歩くスピードが早すぎるんですよ! 彼に案内してもらってたどり着きました……あれ?」


 振り返るとオセロットくんの姿は消えていた。辺りを一周見回しても彼を見つけることはできなかった。


「猫の亜人の男の子だったんです、まだお礼もしてないのに……」


 もう行ってしまったなんて、とても残念だ。お礼も言えなかったし、初めて歳の近い子と知り合えたのに。落ち込む私の肩にクチナワさんが慰めるように手を置いた。


「大丈夫だ、きっとまた女神が縁を結んでくれる。さあ、ここが教会だ」


 見上げるほど大きい宮殿のようなバロック様式。階段を登り扉をくぐると、息を呑みそうなほど豪華絢爛な天井のフレスコ画、礼拝堂はガラスで出来ているのかダイヤモンドのように輝く。


 最奥の祭壇からは水が湧き出て、それが女神の形を作り出している。伏し目がちに、胸の前で左手を包み込むポーズをしている。礼拝堂の長椅子には所々に人が腰掛け、祈りを捧げていた。皆一様に何かを両手で握りしめているようだ。


「女神の像が何かを大事そうに握りしめてるように見えないか?」


「はい……どんな意味があるんですか?」


「怪我をされた等、諸説あるが大事なものを守ってるようだとエルフは思っている。なにか神器をお持ちだと……皆もそれを握り祈りを捧げている。親から子へ、家により形も様々になったが代々授けられる。」


「どんなものなんですか?」


「私の場合はこの金の蛇だった」


 クチナワさんは自分の金の髪飾りを指差した。そして私の首元の六角形のチャームを指差す。


「そして君の場合はこのネックレス。市民に一番ポピュラーなこの形には、最も安定した力の象徴、相反する力の調和と統合を意味している。また、吟遊詩人の歌がモチーフになったともされる。

『亀が丸太で休んでいる、動きを止め、静かに。太陽の陽射しを浴びている亀は甲羅に吸い付いたヒルを落としていく。あなたも動きを止め、静かに瞑想しなさい。そしてあなたの甲羅についている苛立ちや緊張、悩みを落としなさい』……昔から六角形は亀の甲羅を意味している。きっと芽衣の両親はこの歌を伝えたかったのだろう」


 クチナワさんが同情を含んだ目を私に向ける。私は母が昔言ってたことを思い出していた。


 森を探索中、母は枯葉や小石を拾ってはいつも愛おしそうにする。私は何か価値があるものなんだろうかとワクワクしたが、やはりそれはただの小石でしかなかった。怪訝な顔をしていたのだろう、母が答えてくれた。


『道端の小石や焚き火の火花にでさえ全てにスピリットがあって、私たちは繋がっているのよ。もしこの世の創造者が何かをある場所に置いたなら、それは相応しい場所にあるということ、もし目に涙がなければ魂が虹を持つことはない……自然をとても重んじるインディアンの諺よ。私たちは母なる大地に創られ、母なる大地に還る。この小石だって、この場所に置かれた意味があって私たちの兄弟なのよ』


 血が同じだろうとどうだろうと、母の言葉を思い出し感じる私がいる。きっとこの世界が種族にこだわり過ぎているせいで少なからず影響されたのかもしれない。もう血のことで悩むのはやめよう。私の母は地球にいるあの人であり、この大地だ。


 胸元のネックレスを見下ろした。どんな人がくれたかはわからない、だがこのネックレスは私を想って残してくれたことは間違いない。言葉を鑑定してくれて、浮島では服を作るとき魔法を発動してくれた。失うことが怖いほど私にはとても大事なものになっている。


 ネックレスの意味は理解した。この形に込められた想いも。少し時間をもらい、お祈りさせてもらうことにした。ネックレスを左手で握り右手を添える。ずっと、この世界の神様に感謝の気持ちを言いたかった。


 〈一度死んだ私をこの世界に立たせてくれて、ありがとうございます。ここで頑張って生きてみようと思います〉


 水の音が気持ちよく、差し込む光さえ優しくて、私をとても穏やかな心持ちにさせてくれる場所だった。


 私は、この世界に立っている。大いなる意思が私をここに置いた。私の相応しい場所……。



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