28話 迷路で迷子
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人ごみをスルスルと器用にすり抜けるクチナワさんは、まるで忍者か蛇のようだ。ただでさえ私より背の高いエルフばかりの街。後を追うのは容易ではない。クチナワさんが小道を曲がったとこで人にぶつかり、荷物を満載した馬車に阻まれ見失ってしまった。
「クチナワさん!」
呼んでみたが応答はなかった。入り組んだ路地のようで名前を呼びながら坂や階段の狭い道を登り、ついに家に囲まれた小さな広場で行き止まりになった。
人の気配のない家の屋上から街の景色が見られないかと、外階段を登ってみた。ずいぶん登って来てしまっていたようで街を見下ろすと先程の水路の広場が眼下にあった。
「はぁはぁ、どうしよう」
完璧に迷子だ。そろそろ誰かに道を尋ねようとキョロキョロ辺りを見回すと、大きな木の下で緑の蔦に覆われた塀の上で人が寝そべっている。人がいた事に喜びを感じ、急いでそちらに行った。
塀の下からその人物を見上げると、その人は黒い斑紋のある尻尾をだらりと垂らし不規則に揺らしている。声をかけていいものか躊躇するが、他に人通りはない。
「あ、あの道を尋ねたいんですが……」
反対を向いていた顔がこちらを向く。ピンとした黒い三角の獣耳、丸みのある潤んだ目をした、私と変わらないくらいの少年だ。寝転がったままで眠たそうに私を見下ろす。
「お休みのところ申し訳ないんですが、教会まで行きたくて。道を教えていただけませんか?」
「………ふぁあ」
大きくアクビをされた。尻尾がユラユラと揺れ動くが、それ以外は動く気配がない。
「あの……あ、やっぱり大丈夫です。すみませんでした」
なんか変な人っぽい……別の人を探そうと去ろうとしたら彼はゴロンと寝返りをうって、うつ伏せに姿勢を変えた。
「ふ〜ん、教会に行きたいの?」
不思議な魅力のある笑顔を見せてくれた。山吹色の髪はサラサラで両側の頬に丸くカールし、女の子のような大きな目はどことなく眠たそう。ヒョウ柄のような黒い斑紋のある尻尾、猫族の亜人だろうか?優雅に尻尾を左右に揺らす。
「そうなんです!ご存知ですか?」
「敬虔な信者なのかい?」
「え……いえ、そういうわけでは。知人がそこで働いてるようなんです」
「ふ〜ん……」
突然興味がなくなったのか、顔を背けられてしまった。どうしたらいいのかわからないが周りを見回しても他に人通りもない。仕方ないが、また彷徨ってなんとか人のいるところを探そうと一礼して背を向けた。
「いいよ、ちょうど暇だったし」
塀から音もなく飛び降りた亜人の彼は真っ白なシャツに黒のチョッキを着て半ズボン。どことなく品があり優雅に歩く。
「あ、ありがとうございます!」
「敬語はいいよ、僕ら歳も近いようだし。君遠くからきたの?名前は?僕はオセロット」
「私は芽衣、本当にありがとう。私この街初めてで……」
「そうなんだ、どうりで変わった発音だと思った。街を案内してあげるよ、ついて来て」




