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25話 優しい魔法

 

 25


 クリスタルの蛇口を開けて魔水を瓶に注いでもらうと、センさんもやれやれと言った感じで自分の分のお金を払う。自宅で使用するみたいで、水やお湯になり普通に生活すれば一升瓶で一年は保つらしい。なかなかすごい代物だと知ったが、センさんは値段に不満があるみたいだ。


 屋敷用の注文も済まし帰ろうとしたところで、店先の二人の子供の亜人が目に入った。水掻きのあるカエルのような手に小さな瓶を持ち、なんだか店主に邪険にされている。


「でも……母さんが近所の井戸の水を飲んでから体調が良くないんだ。お願いです、このお金で買える分だけでいいので魔水をください」


「だから、その金額じゃコップ一杯分も買えない。こっちもタダで魔導師をしてるんじゃないんでね、さっさと帰りな」


 兄妹だろうか、似た顔の二人の子供は立ち尽くしている。何とかしてあげたいが私もお金を持っていない。


 ネックレスを握った。これでお水を出してあげれるだろうか?浮島以来、私は屋敷の制御された魔道具以外、魔法を使ってないので自信がなかった。


 センさんが、立ち止まった私の目線に気づいて兄妹に向かって行った。


「おっとー、手が滑ったわー」


 買ったばかりの魔水を女の子が持つ瓶に注いだ。センさんが満杯に詰めると女の子は驚いて顔をあげた。


「ごめんなさいねぇ、お洋服にかからなくて良かったわ。お詫びにそれ差し上げますね。それでは~」


 一気にまくし立て、驚いたままの二人を残してセンさんは足早に戻って来た。ため息を吐いて悲しそうに首を振った。


「最近多いんですよ……中流より下の貧しい家庭や辺鄙に住む人が、魔狂いのせいで穢れた井戸を知らずに使い病気になる。穢れは半年か一年ほどで浄化されるみたいなのですが……人間が施した魔水は確かに安全です、けど値段がこのところ落ち着かなくて庶民には痛手ですよ」


「すみません、センさんの魔水を減らせてしまって」


「いーえ、芽衣さまが気づいて下さってよござんしたよ」


 ニッコリと笑ってくれるセンさんを見て、自分の力のなさを思い知った。お世話になってる身、お金もない、店主に楯突き抗議も出来ない、怖くて魔法も出せない。何も出来なかった。この世界に来てから非力な自分を思い知らされる。


「でも今日助けたところで半年分ほど……根本的な解決には至りません。昔は野生の魔狂いなんて滅多に見なかったんですが、魔水も魔石の質も悪い。嫌な時代ですわ」


 振り返ると兄妹は頭を下げていた。こんな魔法で溢れた世界なのに、魔法を使うのにもお金がかかるなんて。


 センさんのような優しさの魔法が本当は一番素晴らしいのかもしれない。顔を上げた兄妹と目が合い、何も出来なかった私は頭を下げてその場を離れた。


 魔狂い……ケイロンさんからも聞いた単語だ。知ったかぶりをしていたが調べてみよう。まだまだ私はこの世界でわからないことだらけ、目の前で困る子供も助けてあげられない。


 ***



 屋敷に戻って夜が来てもまだ悶々と考えていた。この世界にもし、あのまま一人だったら何もわからず病気になって野垂れ死にだっただろう。だがお屋敷を出て自分で生活したい気持ちがとくに強くなった日だった。お世話になってて本当に感謝に尽きるが、リップさんのお父さんの手段は恐ろしい。早々に種族を調べなければ、もっと痛い目にあうかもしれない。


 クチナワさんによれば、エルフではないと断定された。確かに毒が体に入った感覚は全くなく、症状が出始めるまで体に違和感はなかったし解毒もしてくれなかった。この髪の色もヒューマン種でないと言われていた。確かにこの世界に来て一ヶ月以上が経ち、少し伸びた髪の根元に色の変化はなく染められたものではない自前の色だと確信した。残るはドワーフか亜人。


 街で見かけたドワーフを思い出すと、男性でも私より小さかった。やはり亜人の血が入ってるのだろうか、地球での母でなく違う両親の血が入っているのか?体がそのまま転生したんじゃなく、全く違う血の身体だとしたら?


 あの人以外の母親など認めたくない。ブンブンと頭を振る。考えを振り払おうと気を紛らわせるものを探す。私の所持品といえば浮島で作った服に、そのまま持ってきてしまった盾と棒切れとネックレス。預かり物の貝殻。まだ持ち主からの届け出はないと街で聞いてきていた。


 私の持ち物を街に行って売っても、さすがにこんなもの誰も買い取らないだろう。所持金はなく、頼りない装備でサバイバルは無理、手に職もなくてお金も稼げない。早く仕事を見つけて地に足をつけたい。何てもどかしい……。


 ベッドに並べてボーッとしたままその日は眠ってしまった。昔からよく寝る子だと母に言われたが、こちらの世界でも変わらない。顔も性格も体質も変わらない。私は私だと思おう。



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