23話 空の青、その向こう
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「空の向こう側にまだ世界があるのか?教典には空の色は女神のベールだと……世界を魔法で包み、太陽と月の光は女神の魔道具。輝く星は模様だと書いてあった。幼い頃からそう教えられ、何も不思議と思わなかった」
クチナワさんは気分が高鳴っているのか、瞳を輝かせて私を振り返った。興奮しているらしく、クチナワさんには少し意外な素振りだった。
「ベールの先にまだ世界があるなど考えたこともない。ドラゴンの飛べる限界を越えた、さらに先にあるベール。触れた者はいない、超えたものも行くものもいない……考え出したらキリがないな、おもしろい。芽衣、ベツジゲンはなんだ?」
素人の私に次元の説明は難易度が高すぎる。それに、この世界の常識をもっと勉強してからしなければいけない質問だったと後悔した。
この美しい世界に地球の知識を教えるのは少々気が引ける。余計なことをしたくない。それに太陽や衛星は空に見えるが、もし宇宙以外の別の次元の世界だったら?地球の常識を覆す世界だとしたら?グルグル考え出したら怖くなってきた。
「私そろそろ失礼します。疲れてしまって」
「そうか、ではネックレスのことはまた明日来る」
……そうだった!本来の目的をすっかり忘れていた。思い出した時にはもうクチナワさんは遠く行ってしまっていた。
明日も来るのかと思うとゲンナリした。もう相手をしたくないのだが、屋敷の主人に頼まれていると聞いてしまっては何も言えない。いろいろと厄介な状況だ。種族の問題さえ済んでしまえば楽しく暮らせそうな世界なのに。
しばらく自分のマヌケさに呆れていると、センさんが街へ出るため呼びに来てくれた。今は気分を変えよう。
***
「ほんっと綺麗な方でしたよねー、司祭様なだけあってミステリアスな雰囲気で。ほのかにいい匂いで」
センさんが夢見心地で胸の前で手を組む。クチナワさんが帰った後、昨日訪れたウィンクルの街へ買い出しに行くと聞いたので荷物係としてお供させてもらっている。
「センさんの紅茶を褒めてましたよ」
「まぁっ!小さい頃から習ったかいがありましたわ」
センさんはスキップしそうな勢いで石畳の街道を進んだ。街はお祭りの時と違い、装飾品のタペストリーや出店が片付けられていた。
昨日と一緒の点では様々な種族の人とすれ違う。体の大きいエルフや亜人もいれば、私より背の低いドワーフや亜人がいる。私には小さすぎるベンチに鼠の亜人がいれば、大人三人でも余裕そうな大きな揺り椅子では熊の亜人が一人で充分に使っていた。
建物のドアや売り物の新聞、パンの大きさも様々になっている。必要な物はセンさんかセバスさんに申し付けるように言われてて、所持金もないので街に行っても自分で何か買えるわけではないのだが見てるだけでも楽しい。どんな仕事があるのかチェックしておこう。
「今日は包丁を研ぎに出して、お肉とポーションと……あと魔水の買い付けですね」
センさんに案内され、街を観察した。ファンタジーの街の住民が、それぞれの得意分野で仕事をしている。普段の街の営みがある。ペリカンの郵便配達、エルフが糸車を引き、ドワーフは家を建築している。
「おもしろいですね。いろんな人が居て、みんな活き活きしてますよね」
「ウィンクルの街は他では珍しく、種族が合わさって街を共有してるんです。住居は体の大きさと種族によって分けられてますが、基本はみんな平和的に仲良く暮らしてるんですよ。まぁ、種族間でいざこざもありますが言ったってきりがないですからね。お互い様です」
センさんが余所見をしていて、獣の毛に覆われた腕の長い猿の亜人と肩がぶつかった。お互い礼儀正しく頭を下げ、何事もなかったように別れた。センさんはぶつかった部分の服に沢山付いた細い獣の毛を払う。
「こんなことで文句を言う輩もいるんですよ、ほんと馬鹿らしい限りです。そんな人は一人で生きてみればいいんですよ、そしたら問題も起きませんわ」




