22話 エルフの種族
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咀嚼するたびに弾ける水分で体が楽になってきた。脂汗がじっとりしていてまだ気持ち悪いが、さっきまでの苦痛が嘘のようだ。
だんだん体に力がみなぎり沸々と感情が戻ってきた。なぜこんな仕打ちをされなきゃいけないのだ、私が彼に何かしただろうか?湧き上がる感情と裏腹に、目に涙が貯まる。
「手荒な真似をしてすまなかった。君の素性を調べるのにちょうどいいと、屋敷の主人に来訪するかわりに頼まれてな」
「……屋敷の、主人」
「リップの父親だ。今回はあまりない事例で、種族だけでも絞りたいと考えあぐねていたらしい。たいへん力をお持ちの方だ、嫌だったが断れなくてな。すまない……」
クチナワさんは本当に申し訳なさそうに見えた。肩を落とし、目にいつもの力が見えない。私もお屋敷にお世話になってる手前、複雑な感情だ。とても、不履行を行い、楯突くことなど出来ない相手なのだろう。なんだか可哀想になってきた。
「では、私はエルフじゃないんですね」
「あぁ、遅延性だが致死性の毒だ。君がもしエルフなら自分以外の毒に気づき、すぐさま体が解毒しただろう。その魔力をエルフの私が見逃すことはない……聞いたところ、芽衣は世界樹にいたらしいな。昔から不治の病に苦しむ子や、餓えに苦しむ子は母なる女神が慈悲をかけ世界樹の元で保護していたと伝説に多くある。女神の恩恵に選ばれた子だ、気にするな」
両親に捨てられ種族を知らないという私の嘘の設定を聞いたのか、憐憫の目を向けてくれる。
いい機会だ、転生や召喚などの伝説はないのだろうか。もしかしたら母のところへ帰れるかもしれない。
「……あの、クチナワさんは伝説や不思議な事にお詳しいんですか?」
「私は司祭だ。教会に勤め、世界樹の女神に仕えている。不思議な話でなく、御業だと思ってる」
「クチナワさんは転生を信じますか?たとえば、前世や違う世界のことを知ってる人がいたりするような話はありませんか?」
「前世とはまたロマンチックだな、私はあまり信じない。違う世界とは例えばどんな場所だ?」
「例えば……魔法じゃなくて、もっと科学が発展した世界を知る人とか、違う惑星や別次元からきた人とか」
「ふむ…か学というのは私は習ってないな。違うワクセイやベツジゲンとは何のことをいうのだ?」
一緒にテラスの日陰の部分から出てもらい、羊雲の空を指す。
「えと……この空のずーっと向こうの先です。夜に見える星はわかりますよね?その惑星に住む人が来たとか伝説やお話にありませんか?」
「空の、向こう」
クチナワさんの目に、空の模様がガラス玉のように綺麗に映し出されている。雲のさらに向こう、彼は空の青を一心に見つめる。




