2話 盾100%
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甲高い声で悲鳴を上げたら頭上でバサバサと、鳥が鳴きながら飛び立った。耳を塞ぎながら見上げたら空まで届きそうな巨木。バオバブの木のように丸々とした幹に、枝は傘のように円形に広がり全貌が見えない。 木の周りは開けていて、これが一本の木なのだと認識できた。葉の隙間から差した光がキラキラと輝いている。
「ーーここ、なに?ち……地球?」
その言葉通りの表現だと思う。しっとり霧がかかっているが、見渡す限り色の濃い植物群は色とりどりにカラフルで、見たことのないものばかり。母の影響で少しは森に詳しい。
「わけががわからない……まさか誘拐?でもさっき確実に死んだと……」
寝ていたところを確認するとフカフカしたものが群生している。ヤマブシタケに似ているが、金色ではないはず。
状況を整理しようとしたが、湧き出る不安と恐怖に喉の渇きを覚えた。それを抑えようと胸元に触れると、自分がネックレスをしていることに気がついた。銀色に輝く六角形のロケット型チャームで、小さな宝石が散りばめられている。見覚えのないロケットは開いた状態で、手がかりらしきものはない。
「これ、私のじゃない。写真とかは貼ってないし、誰が私につけたんだろう?」
得体のしれない意思を感じたところで寒気を感じ、自分が裸だったことを思い出した。アダムとイブは禁断の果実を食べ裸であることに気づき、人類最初の服と言われるイチジクの葉を身につけた。自分にも何かないかと辺りを見回すと、地面の草に紛れて見たこともない大きさの貝のようなものをいくつか見つけた。持ち上げてみると思いのほか軽い。ないよりましと、盾のように身を隠しながら立ち上がった。
改めて見回すと、信じられないほど美しい森のような所。人工的なものは一切なく、優しい風が頬をなでた。
天国なら素敵だな、と森が作った涼しい空気を吸い込み土の匂いをゆっくり吐き出すと『生きてる。』と実感し直した。長く体を蝕んできた痛みや息苦しさから開放され、体で空気を感じることができる。
何故かわからないが、どうやら私はまだ生き続けることができるようだ。だが母にも文明にも守られていない私、自分を守る事から始めなければと不安にかられた。
音と匂いで少し先に川を発見した。人の気配がないか周囲を警戒しつつ前かがみで進み、辿り着いた川を確認すると透明度が高く澄んでいた。影に驚いた小魚が逃げて行く。
本当に綺麗な環境だ……。水面に顔を近づけて、また驚かされた。変わらない自分の顔、だが髪が水色になっている。目視で確認すると腰まで伸びていた。自分でこんな派手な色に染める事があるわけがないし、長さが違う。母譲りの純日本人的な黒髪が気に入っていたのに、悲しくなってしまった。
だがその問題は後回しに、この水が飲料可能かと気を取り直すことにした。ザリガニやエビがいたら、ろ過しないでいいと聞いたことがあるが。水を手で掬い、どうしようかと迷っていると、
【川の水:NE:状態異常なし】
なんとも不思議な感覚が脳に伝わってきた。
「ーーーこれってもしかして、ゲームとか異世界転生とか漫画とかであるやつ?え、じゃあスキル鑑定!?もしかしてもしかして、魔法とかチートとかってこと!?」
まさかと興奮する気持ちを抑えて自分を鑑定できるか試してみることにした。