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18話 タマキビガイ

 

 18



 人でごった返す中央広場を避け、小さい広場で降ろしてもらった。イアソンくんは歓声をあげ、一番に駆け出した。


 子供たちがシャボン玉を空高く飛ばし、弾けると花びらや蝶が生まれキラキラした鱗粉が街に降り注ぐ。大人達は綺麗な音の奏でる花火を上げる。色とりどりのランタンは宙に浮き、幻想的な光景だった。


「綺麗ですね……」


「あぁ、昔から変わらない祭りの風景だ。何かめぼしいものがあったらなんでも言ってくれ。付き合ってもらったお礼だ」


 狐のお面をかぶったリップさんが近くの露店でエルフから花冠を買い、私の頭に乗せてくれた。歩くと小さな花弁を散らし、花は咲いては散るを繰り返した。イアソンくんには大きなトランペットのような花を買ってあげていた。吹くとプーッと音を出し花びらや紙吹雪を噴き出す代物で、音が鳴ると三人で笑った。三角帽子の魔女の甘い焼き菓子を食べ、ドラゴンの形の氷菓子は口から小さな吹雪を出して可愛いかった。どれを見ても驚きに満ちている。


「芽衣、俺たちも踊りに行こ!」


 イアソンくんは広場の中心を指差した。空高く燃えるキャンプファイヤーを囲み、街の人たちが円になって手を繋ぎ踊っている。


 迷っていると、イアソンくんは私の手を取り走り出した。慌ててリップさんの手を掴み、私たち三人は輪の中に入った。イアソン君は同じ背丈のドワーフと手をつなぎ、リップさんはエプロン姿のエルフのおばさんと。みんな笑顔でキャンプファイヤーの熱気に顔を火照らせた。

 

 汗をかいてきたところで背後で爆音が響き、あまりの衝撃に私は飛び上がって驚いた。音のした方を振り返ると、中央広場の塔から一筋の赤い光の線が龍のように空高く登っていく。一瞬消えたかと思ったらパッと緑色の光る線になり、四方に拡がる。街全体を包みこむと鐘の音を鳴らし降り注いできた。


「フィナーレの花火だよ、世界樹をイメージして作られた街の名物だ」


 リップさんが空を見上げていた。暑かったのか、お面を脱いで扇ぐ頬が上気している。周りのみんなも空を見上げ、笑いあっている。胸がジーンとする。なんて綺麗な花火なんだろう……なぜか涙がこみ上げてきた。


 バレないよう涙を拭うため顔を下げると、足元に浴衣姿の小さな女の子がしゃがみこんでいた。迷子かな、と声をかけようとしたら女の子は走り去ってしまった。彼女がいた足元に貝が転がっていた。拾い上げると螺旋を描いた巻貝の殻で、持ち主だろう女の子の姿は見当たらない。


 届けてあげようとキョロキョロしているとリップさんの横のエルフのおばさんが金切り声を上げる。ビクッとして肩を上げると、おばさんはリップさんを指差しワナワナ震えた。ヤバイと焦りつつお面をつけなおすリップさんだが、時すでに遅し。


「リップ様だわーー!!」


 悲鳴に近い声でおばさんはリップさんの名を叫び、周りに知らせてしまった。ざわめきが広がる。


 三人で一目散に駆けた。驚く人をかいくぐり脱兎のごとく逃げ、最後はもみくちゃにされたが馬車に乗り込んだ。


「あははははーー!面白かったな、若様!あー楽しかったーっ」


「はは、そうかイアソンは大丈夫そうだな……芽衣は大丈夫か?」


 髪もボロボロでグッタリと倒れこんだ私は待ってのポーズをし、息を整えるのにしばらくかかった。街の人の勢いはちょっと怖かった。そりゃそうか、祭りの主役がどさくさに紛れこんでいたのだから。


 前髪のへばりついた額の汗を拭うとやっと落ち着いた。イアソン君はご機嫌でお土産の魔法使い風の三角帽子を脱ぎ、手を突っ込むとキャンディーやクッキーを取り出し食べ始めた。どうゆう仕組みだろうと思っていると、手に巻き貝を持ったままなのを思い出した。リップさんも覗き込んでくる。


「この街のシンボルのタマキビガイだな。古くからまじないに使われている。大事な人への想いを吹き込むと、時を超えると言われてる」


「時を……小さな女の子の落し物なんです。持ってきてしまいました」


「この街の者だろう、届け出がないか明日聞いてこさせよう。それまで持っていてくれ、芽衣しか本人がわからないだろう」


「はい、ありがとうございます」


 走り去る、黒髪の少女の後ろ姿を思い返した。




  屋敷に戻るとボロボロの私たちに驚くセンさんにお土産を渡し、お風呂に浸かった。火照った身体でベッドに横になると疲れが体を包み込んだ。


 明かりを消そうとサイドテーブルに手を伸ばすと、傍らの巻貝が目に入った。耳に当てると風のような、潮騒のようなサワサワした音が心地いい。


『想いを吹き込むと、時を超えるといわれてる……』


  リップさんの言葉を思い出す。今日を思い返すと凝縮された日だった。魔法の世界の街は不思議なものばかりで驚かされたし、街の人達は笑顔に溢れていた。眠気まなこで貝殻の穴を口に向ける。


「今日はとても……楽し……かった……」


  限界を迎え、私は意識を手放した。貝殻からサワサワと返事が届いた気がした。



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