15話 赤髪のエルフ
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天井の高い広いホールはシャンデリアが輝き、床は美しい模様の大理石。奥にはオーケストラが旋律を奏でている。
羊の角のウェイターさんから飲み物を三人分受け取ると、あっという間に人に囲まれた。美しく着飾った人々がリップさんを取り囲み、口々にお祝いの言葉を述べると、リップさんは丁寧にお礼をしていった。
一人の背の高い貴婦人が私に目を向けると、リップさんに目を戻した。
「こちらの方は?」
「わたしの客人の芽衣嬢です」
「……あら、そう。あ! リップ様、倒したドラゴンのお話聞かせてくださいまし」
挨拶を返す間もなく、興味なさそうに扇を拡げ婦人は話を変えた。集まる人々に肘で追い払われ、私たちはリップさんから離されてしまった。イアソンくんは不安げにわたしの裾をつかんだ。
「なにか、食べにいこっか」
「でも……」
「大丈夫。この会場にいればリップさんがどこにいるかは目立つし、私お腹空いちゃったよ」
主人と離れ、珍しく弱気なイアソンくんの手を引き、いくつか点在するテーブルに連れて行った。二人で皿を一枚ずつ取り、右回りに移動する。
目移りしてしまう見たことのない色とりどりの料理がずらりと並んでいる。エルフが金の皿に並べられた白い羽根にジャムを塗り、羽毛の部分を食べた。そうやって食べるのかと二人で目を輝かせて感心した。
興味深い数々の不思議な料理。ウヨウヨ触手が生えた手のひら大の巻貝を食べてみようか悩んでいると、イアソンくんが近寄ってきた。
「芽衣、あの肉何か知ってる?」
大きな肉の塊を指差した。串に刺さり、誰もいないのに回転し、ひとりでにスプーンがグレイビーソースを肉にかけ続けている。
鑑定して出るだろうか?加工品に試したことがないので実験。
【ステラーカイギュウの肉:EX:状態異常なし】
出た。加工品にも出るのかと、便利さに感心した。
「ステラー海牛? のお肉みたいだね。食べてみる?」
「うん、あ……」
さっきまで横にいたエルフが先に肉に向かって行った。所作も綺麗にナイフで切り取りゆっくり味わって食べ、また切り分ける。こちらを振り向くとちょいちょいと手招きされた。
何だろうと、イアソンくんと目を合わせると、勇敢にも彼は先に歩き出した。背の高いエルフは真紅の長い髪を三つ編みに沢山結って、耳の横に金細工の蛇のマジェステを刺している。男性とも女性ともつかない美しい顔立ちをし、イアソンくんに肉の皿を渡している。
「食べてみなさい、海牛は貴族でも滅多に食べられない」
低い声をしたエルフは男性のようだ。言われる前にイアソンくんは口いっぱいに頬張り、目を潤ませ恍惚する。私も一切れいただいた。噛むほどに溢れ出す肉汁の旨味に目を見開いた。飲み込むと幸福感に包まれ、ニコニコしてイアソンくんと微笑みあった。
イアソンくんは二枚目にいくため夢中になって自分で肉を切り分け始め、私のお皿にも追加を載せてくれた。
エルフの男性は肉皿の脇にあった小鉢から、蒼銀に輝く粉を取った。指で摘まむと、パラパラと私と彼の肉に振りかける。
粉が反射するのか、彼の目が不思議に虹彩を放ち色を変えていた。ふんだんにかけると彼は得意気にフォークで口に運ぶ。
「妖精の粉だ、スパイスになる」
なるほど、と感心した。妖精までいるとは驚きだ。蝶の俗語だろうかと疑問を抱き、肉でキラキラ輝く粉を鑑定してみた。
【アレクサンドラトリバネアゲハの鱗粉:EN:状態毒】
息を呑んでエルフを見上げたら妖艶に指で粉を舐めとっていた。イアソンくんを振り返ると、すでに口の周りをキラキラさせ、大量に肉に振りかけていた。
血の気が一気に失せ、あまりの衝撃とショックに声を失う。




