表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/217

13話 街へ出るための支度

 

 13



「芽衣様、今日は若様のお帰りが早いようです。外にお食事に行かれないかとのことですが、いかがされますか?」


 気を取り直したケイロンさんから嬉しい言伝を聞いた。外とは屋敷の外のことだろう。リップさんも夜遅くまで仕事があるし、ここに来てからまだ敷地の外から出たことはない。


「本当ですか!街に出るのは初めてなんです!是非!」


「では一度お屋敷に戻って準備を整えられてください、センが張り切って手伝ってくれるでしょう」


「いーなー!父さん俺も街にいきたい!」


「今日はダメだ。芽衣様、イアソンに気にせず行かれてください。明日から馬が出払いますので、心おきなく楽しまれてください」


「あ……はい。ではお先に失礼します……」


 イアソンくんの泣き出した声を振り切り、私は屋敷に駆けた。屋敷外に出るのは初めてだから、イアソンくんに申し訳ないがワクワクする。街の様子はどんなだろう?そこに住む人達、異世界の営み。


 いつも仕事の後にみんなと食事する台所を抜け、階段を上がる。長い廊下も焦れったくなる。自室に戻ると、ちょうどセンさんが部屋に備えられた浴室から出てきて、フローラルのいい匂いが部屋に広がった。


「さあ芽衣様、出かける準備をいたしましょう!若様から用意されていた沢山のお召し物をやっと使えますわ!エルフ製の入浴剤もふんだんに使いましたからね♪」


 踊り出しそうなセンさんに促され、浴室に連れていかれた。体を洗われる事は固辞し、洋服選びを頼んだ。街に出るだけなのに、ここまで張り切られるのも不思議だ。だが、クローゼットにしまいこんでいた動きづらそうな服を、あれやこれやと出すセンさんは楽しそうだった。


「芽衣様は不思議な髪の色ですね。薄い水色にエメラルドのようなグリーンが混ざってますわ。アレンジのしがいがあります!」


  魔道具のドライヤーで髪をとかされながらブラッシングしてもらい乾かしたら、センさんが吟味したシルエットの綺麗なドレスに着替えさせられた。また座らされると次に髪を結いあげる。ヘッドドレスの角度に悩んだかと思えば、器用に取り付けにかかる。


「薄くお化粧もしますね」


「ここまでお洒落しなくてもいいんじゃ、街に行くだけですよね?」


「今日は祝賀会もかねてるんですよ。この前、若様がドラゴンを討伐したでしょ?あの若さで聖騎士にジョブチェンジを許されたんです。ここは若様のお父様の領地ですからね、街でお祝いをしてるんです」


「そんな、私作法とかわかりませんよ!」


「大丈夫ですよ、お城でパーティーじゃなくて街のお祭りなんですから、はい外套も着て……ん〜完・璧です♪」


 鏡の前に立たされ、センさんが八面六臂の働きを見せてくれた自分の姿を見ても不安な顔が拭えなかった。


「なら、イアソンくんが一緒でも大丈夫ですよね?主役の横にずっといても邪魔になりそうで、そのほうが安心できるんです」


「ええーーお邪魔虫もですかー?……まぁ大丈夫と思いますけど、って芽衣さま!」


 センさんを部屋に残し、階段を降りた先にリップさんが待っていてくれた。いつもと違い、狩衣に烏帽子をかぶっている。わたしの慌てざまに驚かせてしまったようだ。駆け寄り、目を見開いたリップさんの腕をつかんだ。


「驚いたな……とてもーー」


「すみません!リップさんあの、イアソンくんにも同行してもらってもいいでしょうか?パーティーと聞いたので心細くて」


「あ…………緊張しなくていいのだが、芽衣がそういうなら」


 少し長めの沈黙のあと了承をいただき、ホッと胸を撫で下ろした。安心したら烏帽子姿の狩衣を着たリップさんが映った。


「狩衣姿、とても素敵です」


「あぁ、よく知っているな。我が家の正装なんだ。芽衣も、」


「あぁ!わたし急いでイアソンくんに声をかけてきます!」


 リップさんをホールに残し、私は屋敷の裏のケイロンさん宅に急いだ。センさんが先に来ていてイアソンくんの準備をしていた。ここからも、あのフローラルの香りがした。


「若様は断らないでしょうからね、ちょうど湯あみしてたんで、あの入浴剤で全身ピカピカにしました!」


「芽衣スゲー綺麗じゃん!お祭り初めてなんだろ、俺が案内してあげるからな!」


 クリクリの金髪に磨きがかかり、頬を上気したイアソンくんは機嫌も治っている。尻尾までキラキラ輝き、襟にタイを締めた姿は天使のように可愛いらしい。


 ん!と手を差し出され、小さなナイトと馬車に乗り込んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ