12話 ジョブチェンジの制限
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厩を手伝わせてもらえるようになって、早朝に起きるようになった。準備して厩舎に行き、まずは餌やり。馬が餌を食べてる間に丁寧に馬体チェック。その後屋敷の裏手に広がる草原に放牧すると、女中さんが朝食を持ってきてくれ、見晴らしのいい草原で食事をする日々が続いた。
「芽衣様も変わってますよねー、お屋敷でもっと豪華な朝食が食べられるのに」
仲良くなった女中頭のセンさんはヒューマン族。あけすけな性格で、とても楽しい人だ。豪快な人だが紅茶をいれるときはとても繊細で、いい香りが朝の風に乗る。
「芽衣が来るおかげで、こっちは豪華になったけどな!」
ソーセージをフォークで刺し、イアソンくんは満面の笑みでかぶりつく。ケイロンさんはホカホカの石窯パンを静かにちぎる。イアソンくんだけでも呼び捨てにして欲しいとお願いしたのでお咎めはなしだ。私は紅茶を一口飲み、塩味のクランペットを口に運ぶ。
草原に柔らかな風が吹く。一頭の馬が顔を上げ、遠くに浮かぶ浮島を見たような気がした。のどかな風景に、私はとても豪華な朝食だと思った。
朝食が終わるとセンさんは屋敷に戻り、私たちは馬房の掃除に取り掛かる。藁の天日干し、フンの片付け、昼近くに馬を一箇所に集めて餌やり。ケイロンさんは見事に馬を扱うが、私とイアソンくんは馬に遊ばれて未熟をさらし、ヘトヘトで昼食にありつく。それを知ってかセンさんが用意してくれる昼食は、量も多く肉とチーズがたっぷりで、イアソンくんはテーブルに手をつけピョンピョン跳ね狂喜する。
食事が終わると昼に集めた馬たちの馬体チェックと調教。イアソンくんは馬に乗るのがとても上手だった。人馬一体、巧みに乗りこなし、ケイロンさんと騎馬したイアソンくんが駆けっこしたら、いい勝負になる。
私はしばしの休憩を読書と日光浴に費やした。この世界の陽射しと大気は本当に心地よく、すこぶる体調がよくなる気がした。
「おれ、本当は若様みたいな騎士団に入りたいんだ」
馬のブラッシング中に、イアソンくんが教えてくれた。外はもう日が落ちかけており、馬を集牧した後の草原は赤く染まっている。今のところ普通の馬からは心の声が聞こえたことはなく、馬は気持ちいいのか眠いのか違いもわからない。
「でも騎士になるにはジョブチェンジが必要で、ジェイダって学校に行かなきゃいけないんだ。父さんは頭がいいから受験できたんだけど、うちの家は代々馬番だからってじいちゃんに反対されたんだって。亜人は家の仕事を継ぐ事が多いんだ」
ケイロンさんは離れたところにいて、真剣な眼差しで蹄鉄のメンテナンスをしている。そうなんだ……彼はどんな職業につきたかったのだろう。
「イアソンくんは、その学校に入るの?」
「バッカだな~芽衣は。おれたちはまだ子供だから無理だ。最初はみんな冒険者にならないといけないんだぜ? そこから専門分野を磨いて、職業のスキルを上げてくんだ」
「私は、十七歳だけど受験できるのかな?」
「ええええ! 芽衣って十七だったのか!? 俺より五つも上じゃねーか!」
「そ、そうだよ! 失礼だなー、お姉さんなんだからっ」
「いっつも日向ぼっこして、ボケーっとして全然お姉さんって感じしねーよ。あ! ねえ父さん、芽衣って歳いくつか知ってた?」
手を拭きながら現れたケイロンさんは目をパチクリして私から視線を逸らした。リップさんといい、私は何歳に見えていたのだろう。




