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10話 言葉はまだ変な発音みたいです

 

 10




 リップさんが去ってしばらくすると、一人の少年が迎えにきた。小学生低学年くらいだろうか。彼はついて来いよと乱暴に言うと、先に歩き出した。


 クルクルの髪からピンと跳ねた第二の耳、半ズボンのお尻部分からは床に着きそうなほど長いストレートでサラサラした髪のような尻尾、亜人の子だ。


 相手は子供なのに歩くスピードが早く、足の遅い私はついて行くのに必死だった。


「あの、待ってくださいー!」


 厩舎は屋敷の裏手にあるようで、広い敷地を追いかける私に彼は訝しげに振り返った。


「……変な発音」


 と言葉を残したが、歩く速度を少し緩めてくれた。




「父さん!連れてきたよ」


 少年は嬉しそうに尻尾を高く振り上げ、厩舎に入って行った。蹄の音と共に出てきたのは上半身が人間、腰から下は馬の四肢、神話に登場するケンタウロスのイメージそのままだった。


 ギリシャ彫刻のような彫の深い顔立ちに、象牙のような馬でいう佐目毛色の、少年と同じクルクルの髪とヒゲを蓄えた優しいブルーの目をした壮年の男性だ。


「若様からお話を聞きしました。わたしはケイロン、この子は息子のイアソン。まだまだ生意気盛りですので何か失礼なことをされませんでしたか?」


「いえ!案内をしていただき助かりました。芽衣と申します。どうぞよろしくお願いします!」


 私は勢いよく頭を下げた。ケイロンさんはゆっくりと頷き、厩舎に招き入れてくれた。中は広く、ユニコーンの他に普通の馬もいた。


 奥に進むとひときわ凛々しいユニコーンが翼を威嚇するように広げ、首を上下させている。一目で薄墨だとわかった。この前会ったときと違い、とても落ち着きがない。鼻息も荒く前足の片方で地面を掻き、馬が何かを欲しがってる時の動作をしている。


「芽衣様、額の角に気をつけてください。魔狂いでもないのに、先程も機嫌を損ねて腹を突き刺されそうになりました。本来ユニコーンは魔物の類です。野生に戻るほど気性が激しくなり、生まれた時から信頼関係を築かないと懐きません」


 魔狂いという単語はわからなかったが、ケイロンさんが心配そうに警告した。薄墨に目を向けると翼で風を起こし、馬房の藁を吹き飛ばしてくる。あの穏やかだった目は、今や真っ赤に血走っていた。


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