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探し物屋さんは今日も今日とて忙しいのです  作者: 海原瑛紀 / 咲夕城都羽
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第1話 猫と喫茶店と探し物屋(後編)

 む、いかんいかん寝過ぎた、いつの間にか日もすっかり昇っておるわ、さぁてまずはご主人に朝のおねだりだな、吾輩はしっかりと朝食は取る派だからな。


「やっと起きて来たかプー太郎、お前はいいよな仕事もせず日がな一日好き放題できてよ」


 やめてくれ、言葉だけで見ると本当のプー太郎のようではないか、吾輩だって忙しいのだぞ、日課の散歩に毛繕い、ご近所猫への挨拶や――それから、それから――、いかん、これ以上出て来ない。


「ん、どうした?そんな可愛い顔しやがって、飯か?」


 いや全然愛想を振る舞っている気は毛ほども無いのだが、そうだ今なら吾輩の笑顔でご主人をイチコロに出来るやもしれぬ、それ笑顔だ!


「なんだよ急にしかめっ面になりやがって、お前一体何がしたいんだ?」


 馬鹿な、何故ご主人は吾輩の悩んでいる姿を可愛いと言い、笑顔だと怒っていると言うのだ、何がいけないのだ。


「ほらとにかく飯食え、それが終わらないと片付けも出来やしねぇ」


 お、これはカリカリの鰹節和えではないか、さすがご主人分かっているな、そして喫茶店の店主をしているその腕前も確かだ、美味い!


「そんなガッついて食うなよ、喉に詰まるぞ」


 気付けばもう時刻は一時か、いかんいかんこのままでは収穫無しで終わってしまう、ご主人ここを開けてくれ、吾輩は外に用事があるのだ頼む。


「外行きてぇのか、しゃーねぇな、ほらあんま遠くに行くんじゃねぇぞ」


 かたじけない、ではいざ公園を探しに出発である。


◇◇◇


「あ、ママ見て猫さん!」


「あら本当ね、どこかにお出掛けしてるのかしら」


 ふふふ、どうだこの反則級の可愛さに幼子もマダムも吾輩の虜だ、いずれ全国の女子高生も女子大生も吾輩の虜に!おっといかんいかん、つい邪な企みが出てしまったな、しかし――公園などと言っておったが、意外と数があるものだ、これは一つ一つ虱潰しらみつぶしに、おっあそこの池の淵で日向ぼっこしておるのは。


「んぁ?なんじゃお主か、何か用か?ワシはこの通り忙しいのだが」


 日向ぼっこしているだけだろうご老人、このご老体もとい亀の爺さんはここらに長く住み着いている一匹だ、地元民からは“亀じっちゃ”の愛称で慕われている、勿論我々も頼りにしている者の内の一人だ。


「ほぅ、水色のブランコがある公園とな――ふぅむ、あったような、なかったような」


 はると共に探し物をしているのだが中々に見つからなくてな、亀じっちゃなら知っているかと思ったのだ。


「なんと陽ちゃんとな!うむむ、そうだ思い出したぞい!確かあの辺りにあったような気がするぞ」


 このエロじじいめ、陽の名を出した途端これだ、まぁしかし有益な情報が手に入ったのも事実、癪だが礼くらいは述べねばな。


「時にお主、その――陽ちゃんはどのくらい育ったかのう?出来ればこう胸辺りの成長を聞きたいのだが、あっこらどこへいく!」


 一生池に沈んでろエロじじい、礼を言おうとしたこっちがバカバカしいわ。


◇◇◇


 はてさてあのじじいが言うにはこの辺に――おっと公園があったな、うむ間違いない水色のブランコだ次は犬だな、はぁ――しかしあいつらと顔を合わせるのは苦手だ、吾輩を見つける度キャンキャン喚きおって、駄犬共め!


「聞こえたぞ毛玉野郎、言っておくが貴様らより我々犬の方が人間の相棒に相応しいのだ、貴様らなどたまに主人の機嫌を取って寝ているだけのくせに」


 おうおうワンコが吠えておるわ、そんな首輪を付けられこの塀をも飛び越えれぬ分際で良く言うわ、悔しかったら吾輩を捕まえてみよ!ふははは。


「では、そうするとしよう」


 ん、良く見ればこの犬リードに繋がれておらんな、あれ?この塀も冷静になって見ると思ったより高くない――三十六計逃げるに如かず、さらば!


「毛むくじゃら!貴様の匂いしかと覚えたからな!」


 ふぅ危なかった、だがあの家からは女の匂いがしなかったな、次の家に向かうか、こうして歩いていればいずれは辿り着けるだろう。


「もし、そこの猫や――お前さんから懐かしい匂いがするねぇ」


 また犬か、だが気になる事も話しておるな、じいさん何かこの匂いについて知っているのか?知っているなら聞きたい事があるのだが。


「あぁ知っているとも、だが話す前に――もっと近くへ、本当に懐かしい匂いなのだ」


 やれやれ、これぐらい近付けば良いか、しかしこの犬も相当の歳を取っているな、目も殆ど見えておらんようだが。


「ふふふ寄せて来る歳の波には勝てぬものさ、あぁ間違いないこれは主人の匂いだ」


 どうやらこの家で当たりだな、ご老人実はその主人からの依頼で――。


「ブローチか、もしかしたらまだあそこに――」


 心当たりがあるのか?出来れば教えて欲しいのだが。


「案内したいのは山々だが、足がほれこの通りでな」


 何かあったのか?それはあの女と関係があるのか?


◇◇◇


「ただいまー、あれ、プー太郎は?」


「おうおかえり、プー太郎なら外に散歩に行ったっきり帰ってこないぞ、いつもならそろそろ帰って来るんだけどな」


「どこほっつき歩いてるんだか――うん?」


 おい陽ここだ、早く開けてくれ、長時間外にいたせいか無性に家に入りたいのだ!


「丁度帰って来たか、こらそんなに爪を立てるな、扉が削れちまうだろうが」


「おかえりプー太郎、ちゃんと仕事してきた?」


「猫が仕事するならこっちの手伝いをしてもらいたいぜ、お前がいない間一人で昼時の客を捌くのは至難の業だ」


 強面でも味は確かだからな、繁盛するのはいい事だぞご主人、まぁ手伝えと言われても吾輩は猫だ、もともと無理があるがな。


「さてじゃ今日も行って来るわ、結局昨日じゃ話が纏まらなくてな」


「うん、わかった――気を付けてね」


 女子大生の皆さん、これからヤクザの様な顔をした男が外に出ます、ご注意下さい。


「こら、そういう事言わないの――で、収穫はあった?」


 大ありだ、まずはこれを見ろ。


「あっブローチ!どこにあったの?」


 とある交差点の側溝だ、まずはあの女が来るのを待とう、詳しい話はそれからだ。


◇◇◇


こうしてみると美しいブローチだ、まぁ陽には豚に真珠、もとい陽にブローチだなふはははは、ふごっ!


「こちらがお探しの品で間違いありませんか?」


「―っ!そう、これです!良かった見付かって」


 さてお客さん、まずはあなたの境遇と何故これを探していたのか話して貰おう、何難しい事じゃない、あなたを成仏させるためには必要なのだ。


「そう私は――思い出した、あの時私は帰り道で」



――今から数年前、ある女性が犬を連れ散歩をしていた、夕暮れ時で視界は悪く車の往来も多かった。


 その中であの交差点に差し掛かった時だ、運転手の前方不注意により犠牲になった女性、それが彼女だ、そして共に散歩をしていた犬も巻き込まれ、事故の後遺症で後ろ脚が利かなくなってしまった。


 その時に大事に持っていたブローチを失くしたのだ、話を聞けばあのブローチは依頼人が結婚した時に父から貰った大切な物だという。


 今まで一度たりとも贈り物をしなかった父親からの初めての贈り物、女性はそれが嬉しくて堪らなかった。


 それから数年後、女の子に恵まれた女性は彼女にこの想いが詰まったブローチを渡したかった、だが無情にもその思いは死という形で成し遂げられる事は無かった。


 何年も彷徨い一人で探し続けていた時、偶然にもこの喫茶店の噂を聞きつけ依頼を頼みに来たのだ――。




「すいません、最後にもう一つだけ――我儘を言ってもいいですか?」


「何なりとお申し付けください」


「これを――娘に渡したいの、あの子に私の大切な物を贈りたい、父がそうしてくれたように」


「承りました、では家に向かいましょう、プー太郎案内よろしく」


◇◇◇


 この家だ、どうする?吾輩が置いて来てもいいが。


「いきなり出て行ってこれどうぞ、何て言えないよね、何かいい方法あればいいんだけど」


 しかしいつまでも人様の家の前でウロウロする訳にもいかんぞ、視線が気になる。


「この匂い、間違いないご主人!」


 うるさいじいさんだな、全く――そうか犬か、陽あのじいさんに頼もう、お客人もそれで、なっちょっと待つのだ!


「さっきの鳴き声はやっぱり」


「ご主人、ずっと会いたかった、あれからの日々は心に穴が開いた様な毎日、来る日も来る日もご主人の影を追っていました、ですがやっと、やっとこうしてまた会えた」


「あなたも随分歳を取ったわね、ごめんなさい――ずっと待たせてしまって」


 感動の再開を邪魔して悪いのだがご老人、これを娘に渡してはくれぬか?


「喜んで持って行こう、それがワシに残された最後の仕事のようだ」


「最後って、まさかあなたも」


 動物というのは自分の死期がわかるのだ、このご老人はこの日をずっと待っていたのかもしれぬな。


「そうだね、もう行こう――再会を邪魔しちゃ悪いし」



 

――窓を引っ掻く音が室内に響く、それに反応して顔を出したのは大人に成長した依頼主の娘、窓を開け犬をあやし。


「どうしたの寒いの?あれ――これ、お母さんが大事にしてたブローチ、どうして」


 犬はそっと振り返り一吠えした、女性は立ち上がり何も無い空間を見詰め、無意識に口にする。


「そこにいるの?お母さん」


 女性には姿は見えない、だが母親は娘をしっかりと見つめていた、腕を伸ばし頬を撫でた瞬間、鼻先を掠める幼き日に嗅いだ母の匂い、思わず涙が溢れる――。


――どうか、幸せに――。




 今回も無事依頼はこなせたな、ほれあれを見てみろ。


「光の柱――天国に逝ったんだね、きっとあの犬も」


 さぁ我々も帰ろう、ご主人が戻って来る前にな、大事な大事な一人娘が夜遊びしてるなんて知れたら大変だぞ。


「そうだ!早く戻らないと――ちょっとプー太郎!何先に一人で帰ろうとしてんのよ!」


 ふははは、吾輩はかつて俊足の雉虎きじとらと呼ばれた猫ぞ!人間如きに遅れは取らぬわ!


「卑怯者!バカ猫!変態猫!」


 ほざけほざくがよいわ!そんなもの吾輩の耳に念仏よ!



 これは街外れにある喫茶店に住む、生意気な猫と、色々なモノが見える女子高生の話。


 さてさて次はどんな“お客”がやって来るのか――。


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