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頼むから俺の独身生活を脅かさないでくれ  作者: 瀬戸内ジャクソン
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山を下ってくるバイクの音がした。

中排気量で高回転型の甲高い音だ。そして、かなりの距離でも聞こえるレベルの爆音である。

――――アイツか、確か今日は終業式だったか。

と、八十八は思い出しながら、チーズリゾットを食らい続ける。

だんだん近づいてきたそのバイクは八十八の予想通り、店の駐車場に入ってきた。

黒いカワサキのゼファー。低く狭くマウントされたハンドル、薄っぺらいシート、直管マフラー。そして、降りて来たのは黒いライダースジャケットを羽織った女。

あんなバイクに乗った女は八十八の知る限り一人しかいない。

テラスの階段を叩く硬い靴底の音が響き、間もなくドアベルが鳴った。

「妹、九十九つくもは昼飯を所望するぞ!」

店の入り口での開口一番を八十八はとりあえず無視することにした。今は昼食の途中なのだ。

「兄ちゃん聞いてるかー?ジャンボBLTセット、コーヒーはホットでよろしくー。」

カウンターの奥へと身を乗り出して早速注文してきた。

八十八は、スプーンを持った右手を振って了解の合図をする。リゾットを咀嚼しているので口は開かない。

「ちょっとー、他にお客さんいるのにそれは無いんじゃないのー?ねえ?そう思いません?」

そう一言、先客に向かって問いかけた九十九だったが、顔を向けた直後で沈黙した。

九十九の目に映ったのは、気まずそうに九十九を見る御影だったからだ。無論、お互い面識はある。

八十八同様に約5年ぶりの再会だ。

「・・・ツクちゃん、・・・どうもお久しぶりー・・・。」

御影は九十九に左手を振りながら、苦笑いする。その間に、九十九の硬直がわなわなと、徐々に解き放たれてゆく。そして、九十九の両手が御影の肩をガシッと掴んだ。

「ウソ!!御影ちゃんなの?!めっちゃ久しぶりじゃん!元気してた?!」

そして、これでもかというくらいに御影を前後に揺らした。マンガみたいで面白い光景だったので、八十八はそのまま傍観する。

「ツクちゃん、止めて・・・。食べたのが出ちゃう・・・。」

皿を流しに置いたところで、さすがにまずいと八十八は止めに入ることにした。


八十八の手元、フライパンの上でベーコンが小刻みに踊る。

注文はジャンボBLTなので、レギュラーサイズとは比べ物にならない量をびっしりと敷き詰めて焼く。

パン、レタス、トマトと、他の材料もテーブルの上に大量に並べられている。

「お前昼飯ぐらい家で食えよ。わざわざ出てきやがって。」

調理作業をしながら、八十八が九十九に向けてケチをつけた。

九十九が座っているのは、御影の席から一つ飛ばして右隣り。ヘルメットと脱いだライダースをもう一つ隣の席に置いている。

「別にいいじゃん。家に帰ったらご飯なかったんだから。自分で作るのもめんどくさいし。」

おしぼりで念入りに手を拭きながら言い訳をする。そして、おしぼりを置き、コップに持ち換えた。

そこから水を三口ほど喉へ流し込んで、タンっとコップをテーブルに置く。

「ていうか、御影ちゃん来てるなら連絡ぐらいしてよね。ぶっ飛ばしてくるのに。」

「お前、御影が来てなくてもぶっ飛ばしてくるだろ。」

恐らく九十九が真面目に走ったのは教習所くらいだろう、と八十八は思う。そのくらい普段から猛スピードで走り回っている。そしてうるさい。よく常連のライダーから『あのゼファーの女は何者だ』という話題が出るが、『自分の妹です』などとはとても言えない。

「ツクちゃんがバイクに乗ってるなんて意外だな。」

ぽつりと、割って入るように口を開いたのは御影だった。タイミングを見払っていたのか恐る恐るといった様子だが。

「そうかな?私も兄ちゃんも気が付いたらエンジンとタイヤに囲まれた幼少期を送ってたから、成るようにして成ったって感じだと思うけど。」

現在の古川家の長であり、八十八と九十九の父である古川一二三(ひふみ)は車屋を営んでいる。

九十九が言った通り、古川兄妹は日頃から車やバイクを見ながら育ってきたせいか、二人とも自然と乗り物好きな子供になっていた。

「まさかゼファーを買うとは思わなかったけどな。ほら、BLTだ。コーヒーはこれから淹れるからな。」

八十八の言葉と共に、九十九の目の前に大皿が置かれた。その上に鎮座するのは半分に切った太いバゲット。深く切れ目の入ったそのバゲットの間隙には大量のレタス、トマトそして、カリカリに焼いたベーコンがぎっしりと押し込まれている。

この店の裏・激盛メニュー『ジャンボBLT』だ。レギュラーサイズは食パン四枚分である。その巨大さは少し大きめのマグカップに入ったセットのコンソメスープが小鉢に見えてしまうレベルである。ちなみに、丸々一本使った『スーパージャンボ』も注文があれば作る。

そして、その巨大なサンドイッチを驚愕の目で御影が見る。

「・・・これ、食べれるの?」

少し心配そうな顔をしながら御影が九十九に問いかけた。

御影の手元に置かれたチーズリゾットは米一合程度の量なのだ。食べる量が明らかに違い過ぎる。

「よゆーよゆー。街の激盛ミートスパに比べたらこんなの雑魚ザコだよ。」

そう言って九十九がいただきますと手を合わせて、一口目をかぶり付いた。

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