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頼むから俺の独身生活を脅かさないでくれ  作者: 瀬戸内ジャクソン
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0.5 intro

蜃気楼に揺れる平日の駅前通りを千種御影ちくさみかげは項垂れながら、トボトボと歩く。

『今回はご縁がなかったという事で――――』

ここ3か月言われ続けているお決まりのセリフ。

高卒で入社した金属加工工場の重労働、人間関係、安月給に耐えかねて退職した彼女だったが、こんな職安通いの日々に突入するとは夢にも思っていなかったのだ。

照り付ける日差しと将来への不安が圧し掛かり、さらに気分が悪くなる。そのせいか、目の前の横断歩道の信号待ちの時間が長く感じられるし、その向こう側への距離も遠く感じられる。

そこからものの数秒程度だったが、彼女の脇で信号待ちをしていた人々が動き出したのを見て、ハッと信号が青になったのだと気づく。少し急ぎ足になりながらそれに続いた。渡った先が駐車場だ。

一直線に車へ向かいつつキーレスのボタンを押すが、反応しない。連打しながら近づいて行ったが結局うんともすんとも言わなかった。仕方ないので普通に鍵で開けた。

彼女の愛車は母親から譲り受けた13年落ちのホンダ・ライフだ。鮮やかなイタリアンレッドと日焼けの艶消しピンクのグラデーションが哀愁を誘う。

エンジンを掛けて少し経つとカーエアコンの涼風が心地よく肌を撫でてくれた。たったそれだけでも救われたような気がしなくもない。また頑張ろうと気持ちもリセットされる。


―――――だがしかし、


街から家路を進むこと10分程度。山間の辺りで、救いの涼風が狂気の熱風と化した。

ついに壊れたか、とエアコンを止めて、4枚の窓をすべて開け放つ事にした。

吹き込むの風はぬるいが熱風よりはマシだった。

左を林、右を川に挟まれた道をそのまま行き、ある左カーブを抜けたところでなぜか道路脇の喫茶店が目に付いた。

―――ここで一休みしよう。

なんとなくそう思い左ウインカーを切り、駐車場へ入っていく。他に車は止まっていないし、外から見た感じも客が入っているようには見えない。

しかし、塗ったばかりと思われる白いテラスには『OPEN』と書かれた札が風に揺れていた。


そして、彼女は吸い込まれるようにそのテラスの階段を上って行く。


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