手紙
CHAPTER13 手紙
どしゃあ!
「っつついったぁぁい!!」
「静かにしてくれよ…」
声の主は桜にもたれて力なく座っていて、項垂れているので白い髪に隠れ表情は見れない。
「き…りと…?霧人?だよね?やっと思い出せた…」
よかった…何処かであの日のことは夢なんじゃないかと、そう思っていたのだ。薄れていく記憶に刻み込まれた少年の心からの笑みは自分の理想像なんじゃないかと。
「…なんで来たんだ…?」
「そんなの!霧人を助けるために決まってるでしょ!」
「助ける?……助けてなんて誰が言った。ボクは望んでない。」
「そうじゃっ!!私の…いや!この御子は妾のものじゃっ!」
そう言って金属をひっかくような不快感を孕んだ声で高笑いする方を見てみると、桜の枝に腰掛けた、巫女服の美しい人がその顔を歪め笑っていた。
「…そうだね、サク…サクも姿が見えるようになった…」
「そうだ、霧人。妾もそなたのためにでてきたのじゃ」
「その人はっ!ダメだよ霧人!」
必死で霧人の肩を揺する。この人はサクさんなんかじゃない!今だからわかる。あの鈴がなるような凛とした美しい声の持ち主が、サクさんだ!…とすればこの人はニセモノ…騙されてる!
…声がでない、声にならない。
はっとして上を見上げる。
「滑稽よのぉ、忍とやら。もう声が出ないか。あっはははははははははははっ!!」
「サク…君は…そんな人だったかい?」
「何を言うておる、霧人。妾はサクじゃ、他の誰でもない!」
(嘘よっ!!偽物、サクさんじゃないくせに!)
「そうだね、サク。君は唯一無二のボクの想い人だ…」
騙されてる、完全に。恋い焦がれ続けた故の、盲目。多分そうだ。霧人の目は完全に光を失った目だ。
…あっ!そうだ!声が出ないのなら、筆談すればいい!
急いでノートとペンを取る…いや、みつからないようにしないと。手もとめられてしまうかもしれない。
「そなたが殺した人達のおかげで妾はまた生きることができるのじゃ…」
…ころした?ころしたって、殺した?もしかして行方不明の人たちって…霧人に…
「それは良かった…忍、ボクが人殺しって聞いて…嫌いになった?」
全力で首を横に振る。霧人はこの人に騙されてるだけなんだから!
「何故其の女子を気にかける?気に入らぬ、退場じゃ」
「しの…ぶ!!?」
刹那、暗闇に飲み込まれた。
あの声が響く。
「そなたも霧人に殺してもらおう…そこで指をくわえて待っているがよい…」
それなら…最後に手紙を渡したって不思議じゃない。
「その前に聞いてもいい?」
「なんじゃ?」
「あなたは?」
「妾か?妾は木花咲耶姫。このはなのさくやびめじゃ、冥土の土産にするといい。」
手紙は必ず確認されるだろう。そういえばあの石碑は霧人が書いたものだろうか。そうなら…同じ方法を使おう。
【この手紙はきっと私から
の最後の言葉です。 一
人でここに来て死ぬ覚悟
はできてたけど、貴方の
木を見て、美しく可憐な
花を見て、 そんな花を
咲かせたいな、なんて。
やだなんて言わない。び
びってもない。だから決
めて、貴方も覚悟を。
ありがとう、死んだとし
てもあなたに会えてよか
った】
…大分お粗末な手紙になったが、私の思いはこもったはずだ。霧人なら気づいてくれるだろう。
「時間じゃ!はよう来い!」
木花咲耶姫に急かされ、腰を上げた。