物語のお終いは
今回で最終回となります。後書きにて幾つか話したいことがありますので、是非とも後書きをご覧下さい。
《紫苑》での決戦から、数日が経ったある日。鷹宮邸の応接間にて、俺たちは顔を合わせていた。
この部屋に居るのは、たったの、3人。それでいて、主要な役割を担う人物。
「……曾祖父さま。幾つか聞きたいことがあるのだけれど──一番気になったことに関して、質問をするわ」
「何なりと聞きたまえ。隠すつもりは、僕は一切無いからね」
ソファーに合い向かうようにして座る、彩乃と清光。
俺は終始彩乃の隣には居るが、今回の主導権は、主に彼女にある。
彩乃は小さく瞬きをすると、その一番気になっていた問いを、投げかけた。
「お父様──鷹宮清十郎について。……避けられぬことって、なんだったの?」
「…………ふむ」
手を白髭だらけの顎に添え、暫し考える仕草を見せた清光。
僅かばかり唸ってから、「話せば長いが──」と付け加えた。
「2人とも知っているとは思うが、僕は既に齢100へと差し掛かっている。それは今の日本では何ら珍しいことではないが、僕はわざわざ延命治療を行っていたのだよ」
「延命治療……って、何の為に?」
「うむ。その理由を、今から話そう」
そう言って1拍おいた清光は、昔話をするかのように語り始めた。
──まずは、清十郎の話だな。何故、避けられぬことなのか。
……君たちは事故を引き起こした張本人である、堂本充には会ったハズだ。彼と僕とは親友だが、何故、彼が彩乃くんの父親である清十郎を殺めるまでに至ったのか。
その理由は、僕の側近にある。僕にも側近が居たのだよ。かなり昔の話だがね。
その側近は所謂、『死霊使い』と呼ばれていて、その子には《死線》という能力があった。他人の死期を読む力だ。
それだけなら何ら問題はないのだけれど、その子は何故か、清十郎の死期を読んでしまってね。あまつさえ、僕に告げてきたのだよ。
……昔から空気が読めない子だった。それが災いしたね。
《死線》によれば、清十郎は事故死するとあった。皮肉なことに、堂本充によってね。それが、《死線》の内容だ。
僕が延命治療を始めたのは、丁度そんな時だった。
君たちが──特に彩乃くんが行動を起こすと読んだ僕は、彩乃くんと志津二くんが手を組み、堂本の素性を調べようとしたことも推理した。
それを前提で、僕は彼の情報を全て消しておいた。そして、ある男に手を回したのだよ。……井納欽蔵だ。
井納は、学園都市の学者だったか。それでいて、《仙藤》の分家筋である。
志津二くんへと刺客を向け、僕の元へと来るように仕向けることは、何ら困難なことではなかった。
だから、君は気が付いてはいないと思うが……少しばかり、井納欽蔵へと情報を送らせてもらったよ。井納が君の素性を知っていたのは、その為だ。
そして彼は殺し屋である久世颯へと依頼をし、志津二くんを捕らえるように命令した。それも、呆気なく終わってしまったがね。
しかしこれで、君たちは堂本の素性を本格的に調べ始めた。
そこで僕は、次なる人物へと手を回した。以前から情報提供を依頼されていた、《雪月花》の月ヶ瀬美雪だね。
僕は彼女に情報提供を依頼された時、こう伝えた。『君たちの求めるいい情報が、《鷹宮》と《仙藤》に眠っている』とね。
《雪月花》が欲していたのは、自分たちが《鷹宮》・《仙藤》よりも上の存在だと知らしめる──言わば、異能者の系譜。マスターデータだ。
それを手にするために君たちの支部を襲わせ、本部にも人員を総動員させた。
しかし、彼女らとしては結果は敗戦に終わったが──志津二くん。君は、井納と月ヶ瀬の2人を軟禁し、聴取を行ったハズだ。
その上で僕と堂本の情報を得て、彩乃くんからも情報を得て、パズルを完成させた。
そして、僕の素性を暴くために、必然的に《紫苑》に招かれた。その結果として、僕は君たちに捕まり、今こうやって、説明をするまでに至っている。
……しかしここまでが、僕の推理通りでね。きっと君たちが僕を逮捕することを読んで、延命治療をした。せめてもと、曾孫に捕えられるならば本望だと、ね。
これが、一連の騒動の──真相だ。分かったかな。
全てを話し終えた清光は小さく息を吐くと、「何か言いたいことは?」とでも言うかのように、彩乃に視線を向けた。
「つまり、お父様はそういう運命で──堂本充がお父様相手に事故を起こしたのも全部、偶然だったってこと…………?」
「うん、そうなる。だから僕は君たちに『早計だよ』と言ったのさ。言い方は悪いけれど、これは彩乃くんが勝手に引き起こした事件になってしまう」
この数ヶ月、俺たちは鷹宮清光を逮捕するために、持てるべく力を総動員して、ここまでやってきた。現に、清光を捕らえた。
しかし、彼の口から出されたのは──『勝手に』という単語。
彩乃の早計により、引き起こされた事件。これに清光は少なからず関与しているとはいえ、狙って起こしたモノではない……と。
──成程。確かに彩乃の早計となる。清光に非は無いのだ。
「……申し訳なかった、清光。仮にも俺は彩乃に頼まれたが、そこまでは読めていなかった。この場を借りて、《仙藤》の統率者として謝らせてもらう」
「曾祖父さま。私からも言わせてもらうね。……ごめんなさい」
深く頭を下げる俺たちに、清光は「気にするな。これは僕が望んだ結果だからね」と俺たちの非を無かったことにしてくれた。
……だとすると、俺たちが清光を捕らえる必要性も無くなったな。
「……清光、アンタはどうするんだ。俺としては、もうアンタの身柄を拘束するつもりはない。《紫苑》に戻るのか?」
「いや、僕はもう彼処に戻るつもりは一切無いよ。《紫苑》には僕以外に人は居ないし、この時の為に、機密情報は全て消去しておいた。近々、『東京湾付近に戦時中の《伊400》発見!』とでも報じられるんじゃないのかな。面白そうだ」
笑い事かよ、それ。いいのか。
「まぁ、一旦僕はお暇するよ。『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』だからね」
「何処か……行く宛でもあるのか」
俺の問いに小さく笑いかけ、そのまま音も無く席を立った清光は──
「それじゃあ、いつかまた会おう。その時まで、君たちの関係が発展していることを願っている」
──例の境界へと、自身の姿を消していった。
俺たちだけが残された応接間には何の物音もせず、ただ静寂のみがある。
何ともとれぬ表情をしている彩乃は、ふと、俺へと向かって言葉を発した。
「……話があるから。ちゃんとこっち見て」
言われるがままに身体を彩乃の座っている方向へと向け、何を言われるのかと脳内で思案する。
何か怒らせるようなことでもあったか。またはその逆か。そう考えると、僅かに冷や汗が滲み出てきた気がする。
しかし彼女はそんなことも気にせず、口を開いた。
「志津二と私が出会って3ヶ月……4ヶ月くらいかな。それからずっと、主と従者って関係だったでしょ?」
「……そうだな。執事服に至っては強制的に着させられたしな」
「それは今は関係ないのっ。それとは別の話よ」
ぺちん、と膝を叩かれた。……素直にごめんなさい。はい。
そして、何度か小さく深呼吸をした彩乃は、1拍おいてから──さも重要なことであるかのように、それを告げた。
「この数ヶ月間。従者としての務め、ご苦労さまでした」
ぺこり、と小さく頭を下げる彩乃を見て、俺はただ戸惑うしかない。
……え、なにこれ。解雇? 解雇されるの? 本当に。
といった俺の心の叫びが聞こえたのか、彩乃は満面の笑みで、悪魔と形容してもおかしくないほどに、軽い勢いで告げた。
「今日をもちまして、仙藤志津二には解雇要求を致しますっ!」
「いやいやいや、待て。どういうことだっ」
「まぁ、落ち着きたまえ。志津二くん。この話には続きがあるのだよ」
ウザったらしいほどに可愛い仕草と清光ボイスでそう言い放ったお嬢様は、しばらく黙り込んでから──「契約形態を変えようか」と提案してきた。
「形態、って……どう変えるんだ。変えようがないだろ。……あれか? 昇給か?」
「んー、あながち間違ってはいないかも」
口の端を僅かに歪ませた彩乃は、唐突にその小さな身体ごと俺に覆い被さってきた。対応が遅れた俺は成されるがままにソファーに背をつく。
それと同時に、彩乃は一点の汚れすら見つからないほどに純白の腕を俺の首に回してから──一目見ても火照っていると分かるほどに紅潮した顔を、こちらに近付けてきて。
「──アンタのことが……好き」
静寂の残る部屋に、高鳴る鼓動と小さなリップ音が響き渡った。
〜The end.
──如何でしたでしょうか。私自身、こうやって1つの物語を完結させることは初めてですので、如何せん終わり方が分からないのです。試行錯誤した結果があれでした。(笑)
今日で、今作は連載終了となります。それと同時に、私がなろうデビューして1周年ともなります。
この節目に1つの物語の幕を閉じられたことを、大変嬉しく思っております。
今まで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。紆余曲折ありましたが、ここまで来れたのは、ひとえに読者の皆様の御力があってこそです。改めて、感謝申し上げます。
また、突然ですが──今作はこれで完璧なお終いというワケではありません。後日談も気が向いたら書いていこうと思っております。何かお題等あれば、感想にて御気軽にご相談下さい。こちらも検討致します。
今後は既存投稿作品の改稿及び更新をメインにしていこうと思っております。気が向いたら、是非、そちらの方も読んでやってください。
──それでは、また何処かでお会いしましょう。評価や感想等、お待ちしております。




