《雪月花》会談──後日談
「《雪月花》の、《姫》。会談の前に……《仙藤》の《長》より、言伝を預かっております」
「へぇ、何て?」
「只今より代読させて頂きます」
『月ヶ瀬美雪、《雪月花》の──《姫》。単刀直入に言わせてもらう。今回の一連の騒動について、我々は何も言わない。賠償金も、最高責任者による謝罪も、処分も。そんな事をするつもりは無い。
だが、その代わりに1つ。提案といこう。我々に協力する気はないかな?
あぁ、勿論、強制はしない。そこは己の判断に任せよう。だが、断った場合……上には我々が居るのをお忘れなく。
いくらその存在が廃れしモノだとしても、わざわざ名を改め、最古の起を否定し続けるのなら。当然、無視は出来まい?
その存在を無視したとなれば、己の拠り所たるそれさえも無意味となるのだからね。
さて、2度目の問いかけだ。……どうする?
言っておくが、我々は併合しようなどという考えは一切持ち合わせていない。ただ、こちらに手を貸してほしいだけだ』
「……以上となります。如何致しましょう?」
◇
「あー……もうムリ」
「……分かりみ」
万年筆を胸ポケットに仕舞い、机に突っ伏して呟けば──正面から聞こえてくるは、呑気な彩乃の声。
隠蔽班と協力して現場の後片付けをし、《雪月花》との会談に出かける桔梗を見送り、部屋に帰ってからも書類仕事に追われる始末。
おかげで夜の6時を回ってしまった。
「ホンットにもうムリ。動きたくない。学校も行きたくない」
「それな」
そうこうしていると、ガチャっ……という扉の開閉音が部屋に響く。
そして現れたのは、お盆の上に湯呑みと急須を載せた和風ロリ。
「お疲れ、だから。……お茶」
「ありがとね、彩。今ほど側近の素晴らしさを思い改めた事はなかったよ」
「……どう、も?」
背伸びをしつつ湯呑みを渡してくる彩にお礼を言いつつ、椅子に深く腰掛けて湯呑みの縁を口へと持っていく。
いつものように芳醇な香りがし、程よい苦味が口の中に広がる──ハズ、だった。
「……ぶっ!?」
「きゃっ!?」
やべぇ、冗談抜きで吹いた。
即座に彩が『開かずの小部屋』で防御してくれたから本人に火傷もなく、床も濡れることがなかったが……。
「彩、ゲホッ……! ゲホッ、何を……入れ、た……!?」
「センブリ、茶……ですが」
「「…………」」
咳き込みつつ問う俺に彩は1つの答えを出したのだが、今度は彩を除いた全ての人が凍り付いた。
え、何。センブリ茶? そんなモノ食堂にあったっけ?
「《長》が疲労困憊で、可哀想……と言ったら──コック長が笑顔で、くれ……ました」
「あの野郎……完全に嫌がらせだろうが!」
まぁいい。彩のその気遣いは嬉しい。凄く嬉しい。
だが問題は、そこでセンブリ茶を渡すコック長だ。普通センブリ茶渡す? 渡さないよね?
「あー、2人とも少し待っててくれる? 厨房行ってくるから」
「コック長逃げて! 超逃げてー!!」
相も変わらず、我が周辺は騒がしい。
~to be continued.
これにて2章はお終い。3章もお楽しみに。
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