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パートナー宣言

(やっちまったなー、俺……)


結局始業式に出られぬまま、俺は憂鬱な気分で新たなクラスへと歩いていた。


──『魔弾の射手(デア・フライシュッツ)』。これが、俺が持つ異能名である。


自身で照準を合わせ、定義した場所へと対象物は寸分違わず飛来していく。それが銃弾だろうが、ナイフだろうが、石だろうが同じことが言えるのだ。


だから──俺を半円状に囲むようにしたあの弾幕でさえも、対処することが出来たのである。


それと同時に、手にした武器を最高性能で使用出来るという一面も持ち合わせているのだ。これは俺の場合、銃に当たる。


銃を持ちさえすれば、何をせずとも最適な使用方法と体勢を身体はとり、最高性能の一撃を以て標的を仕留める。視界がスローモーションになったのも、異能による効果だ。


──百発百中、絶対に外さない。狙った獲物は仕留める。

照準でさえも無視し、対象を貫通させてしまうその様を見た人々は口々に言った。


照準貫通(ヴィセオペントラー)の銃使い』と。


その名は瞬く間に学園都市中の異能者に広まり、一躍有名人と相成った俺であるが、現状は総合ランクDの落ちこぼれだ。


その理由は幾つかあるのだが、思い出したくない黒歴史はクリーナーにぶち込んで、と。


……武警高のシステムの中には『ランク制度』と『異能力レベル制度』といった制度がある。


前者は個々の身体能力と入試時の学力で総合され、後者は異能の強さ、凡庸性を測ってから一人一人に与えられるのだ。


ランクは上からS、A、B、C、D、となっており、学園内での平均はBランク。


Aをとれれば十分な優等生とされているが、千人近くの生徒がいる中、Sは学園内でも十人いないのが現状である。


異能力レベル制度も同じく上からⅤ、IV、Ⅲ、Ⅱ、Ⅰ、と割り振られ、平均はレベルⅢ。レベルⅤの異能者はやはり十人もいないが、その分、前者と同じくその知名度は高い。


因みにさっきのロリ、鷹宮彩乃は──俺が知る限りだと、入学してから今まで不動のSランク。しかもレベルⅤときた。


これらの制度は感覚的には私立高校での金銭免除と似たようなモノで、例えば……機材や銃などの武器の購入の際に学生手帳を提示すれば、何割を学園が負担してくれるとかいった便利な代物だ。勿論、ランクに応じて学園の負担額が多くなるのだという。


……まぁ、俺には関係ないことだがな。


そんなことを脳内で思い返しながら、俺は軽く会釈しつつ、教室へと入っていった。





「なっ──!」



新クラス、朝の会の途中である二年C組に入った途端に、俺は絶句した。

 その原因としては三十人余りのクラスメートが一斉に向けてきた視線、というのもあるが、やはり一番は──



「あら、強猥m……志津二じゃない。おはよう」



あろうことか、彩乃と同じクラスで、隣の席なのだ。


っていうか今、強猥魔って言いかけたろ、おい。しかもタメ口だし。

 

それにしても……どんだけツイてないんだよ。俺。

 

いつの間にか朝から変な影に付きまとわれてたし、彩乃に弾幕ぶっぱなされるし。挙句同じクラスで隣の席、だと? ありえん。


彩乃は隣の席のイス──もとい、俺の席のイスをポンポンと叩きながら『こっちに来なさい』とでも言うように、流し目した。


……何だ? コイツの意図が分からない。


単に座るよう促しているのか、来た瞬間に銃でも突き付けるのか。バッドエンドだな、それ。



「まぁ、仙藤くん。お座りなさいな。朝の会を進めなきゃいけないからねぇ」



「あ、はい……」



教壇から俺を呼んだおっとりした声の彼女は、九十九(つくも)ゆとり先生。


とにかくおっとりしており、のんびりゆったりマイペースなのだ。しかも二十代という異例の若さ故、目を付けている男子共は大勢いる。


校則通り帯銃はしているようだが、彼女が銃を抜いたのは見たことがない。


俺は仕方なしにイスに腰掛け、淡々と進められていく朝の会を聞きながら、隣に座っている彩乃の動向を終始観察していた。


……肩まで伸びているセミロングの金髪ヘアと、空と同化したような群青色の瞳。


座高はそこまで高くなく、俺の肩との差が十五センチ近くはありそうだ。

華奢な体系なのも相まって余計にロリに思われそうだが、そこは俺の関すべきところじゃないだろう。



「……何よ?」



「……何でもない」



女は視線に鋭いというが、彩乃もその内に入るのか。


俺が観察していることに直ぐに気が付き、不服そうに言葉を漏らす。


正直に言ったところで「変態」とか言われるのがオチだ。だから、適当にあしらってから前を向いた。……何を想像しているかは置いとけ。



「──じゃ、お知らせはこれでおしまいですねぇ。一時間目の準備、始めてくださいな~」



そう言い残した九十九先生が教室を出ていったところで、再びクラス中の視線が俺と彩乃へと移る。



「おい、志津二。鷹宮さんと何があった!?」

「何もないよ。俺が遅刻しただけだ」

「嘘でしょ!?」

「生憎、本当だ」



降り掛かる声に答えつつ、一時間目の準備を同時進行で進めていく。


恐らくコイツらは、俺と彩乃が始業式に出ず、揃って遅れてきたことを疑問に思っているのだろう。


だがそれは変な釈明をせず、事実をありのままに伝えればいいだけのこと──



「違うわ。嘘つくんじゃないわよ、志津二のバカ」



なのだが、どうやらこのロリは思考能力の欠片もないらしい。



「いや、嘘もなにも──」



事実だろうが、と俺が彩乃と、そして同時にクラスへと弁明しようとした、直後。


彼女は自分が立つと同時に俺の手も掴んで立ち上がらせ、満面の笑みでこう言い放ったのだ。



「──仙藤志津二は、今日から私のパートナーにすることにしたわ! みんな覚えておきなさい! コイツは誰にも渡さないわよっ!」

「「「……パートナー?」」」



クラス中が彩乃の発言にキョトンとしているが、一番驚いているのは俺だろう。……え、何? パートナー? 俺が? と動揺していると、絶句による沈黙の後、



「「「へゎーっ!!!」」」



状況を理解したらしいクラス中から歓声が沸き起こった。


恐らく『へゎー』とは『へぇ』と『わぁ』が混ざったモノだろう。クッソどうでもいいな。



「良かったじゃないか、志津二! 告白されたぞ!」

「いや、そういうのじゃないだろ。それ」

「彩乃ちゃん、とうとう彼氏さん作ったの!? おめでとうっ!」



一瞬にしてクラス中はお祭り騒ぎである。

そりゃそうだ。目の前で女子が男子にパートナー宣言したのだ。告白に見て取れてもおかしくない。


……だが。コイツは。さっきまで俺に『確かめさせてもらう』とか言って弾幕をぶっぱなした凶暴ロリだぞ。


その一面が知れ渡っているのかは知らないが、とにかく俺が『可愛いロリ』に告白されたことを祝福しているのであろう。彼ら彼女らは。


愕然とする俺とは対称に、彩乃は未だ笑みを振り撒いている。


……何か釈然としない。コイツが初対面の人間に告るか否かは置いといて、“裏”がありそうだ。


俺をパートナーにさせる以外の、もう一つの理由が……な。



~to be continued.

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