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《鷹宮》・《仙藤》VS《雪月花》

「……水無月彩。お前が必要だ」



ソファーに座って茶を啜っている彩を視界に入れ、俺は口を開いた。

──これで、必要なモノはすべて揃った。あとは、実行するだけ。

おかしなことに、負けるビジョンが想定出来ない。それほどなまでに、欠点が無いということなのか。



「さ、そろそろ話そうか。常軌を逸した作成案(パズル)……その、全貌をね」







カン、カンと金属がなる音が響き、それに合わせるようにして幾つもの靴音が重なっていく。

今回の人員は、作成に必要な者だけ。それ以外は連れてきていない。


《長》と《姫》である俺と彩乃を筆頭とした、その他の人員。《仙藤》は桔梗と彩、《鷹宮》は鷹宮結衣さんを。

《鷹宮》も一応は被害者なのだし、顔を合わせて口喧嘩をするくらいは出来るだろう。


……さて、そんな俺たちが向かっている場所は、とあるビルの屋上。それは、今回の作戦に大きく影響する。



「志津二、本当にやっちゃうの?」

「今更も今更な質問だな。……っと、着いたぞ」



そう言い終えるやいやな、突如として強風が吹き荒れる。

まぁ、それも仕方がない。敢えて、他のビルよりも高い方を選んだのだ。これくらいは許容範囲内である。


縦10、横15mほどのここは、緑化計画に力を入れているのか、ちょっとした公園のようになっている。

芝生広場や簡易的な噴水もあり、まさに憩いの場とも言える場所だ。

といっても、憩いとは正反対なことをこれからするのだが。



「……さて、彩。()()を頼む」



俺の声掛けに小さく頷いた彩は、俺たちより1歩前に出て──しゃりん。和服の袂から取り出した祭祀用の鈴を取り出した。

そして、その音を響かせながら──軽やかに、優雅に、舞を舞う。

それは言わば、一種の儀式。これから行う事態への、下準備。


──しゃらん。


鈴の音が止み、彼女の動きもピタリと止まった刹那。辺りには静寂が訪れた。

……否。静寂というのには、少しばかり語弊があるな。



「風が……止んだ?」

「……ホントだ」



この現象を初めて見る《鷹宮》の面々は、即座に異変に気が付いた様子。

そんな彼女らに説明すべく、俺は口を開く。



「……気が付いたろう? これが、彩の持つ異能だ。『開かずの小部屋(ロックド・ルーム)』」



この異能は、とある一面に置いて秀でた能力を有する。……曰く、防御。



「その名の通り、如何なる物質も遮断する。紫外線といった不可視光線も、酸素といった大気ですらも。そして何より──外部から、その存在を視認出来ない。故に、世界から取り残された空間。だから、彩が指定したこの屋上。ここのみは──」

「──ある種の異世界と、同等の……存在」



故に、



「ここでどんな事をしようと、話そうと、美雪側には一切分からない。それを逆手に取ったのさ」

「……《仙藤》にも優秀な人材が居たのね。是非ともこちらに欲しいモノだわ」

「おや、結衣さん。それはいただけないな。だが、お褒めの言葉として受け取っておこう」



とまぁ、ここまでは……この作戦の、一部に過ぎない。これを完成させるのには、あともう1つだけ必要なのである。



「……彩乃。用意は出来てるだろうな?」

「勿論。でも、かなり苦労したんだからね? これを創るのには」



そのキーマンとなるのが、彼女。

ボヤきながら創られたそれは──強い日差しを浴びて鈍色に光り、大きな威圧感と存在感を与える代物。

そして、俺だから用意に扱えるであろうモノ。


一方向に向けられた銃口、既に立てられていた銃身を支えるためのパイポッドを使って鎮座させられたそれは、バレットM82A1。

12.7×99mm弾を射出する、対物ライフルだ。

一口に大口径と呼ばれるスナイパーライフルであり、それ故に、反動は途轍もなく大きい。


──これが、作戦のピース。最後の要だ。

そして、あとはそれを実行するだけ。ここに居る全員も、それを感じとったのか、少なからず緊張感を持っていた。


勿論、俺も例外ではない。ただ、この先を見据えても、これはやっておかねばならない。

そう決意して、再び彩へと視線を向けた。



「……彩。俺が指定した直後に、『開かずの小部屋』を解除し、狙撃したあとに再度閉じ直して欲しい。出来るか?」

「……勿論、です」

「よし、やるぞ」



呟き、バレットのトリガーガードに指をかける。その瞬間、『魔弾の射手』を適応させた俺は──それを扱うのに最適な姿勢をとりつつ、高倍率スコープを覗き込んだ。

そこに見えたのは、開けたグラウンド。その中央に立っている、月ヶ瀬美雪である。



「これから狙撃されることも知らないで……呑気な女だ」



ここから向こうの距離は、目測1km弱といったところか。更に、この高さでは偏差撃ちをしないと当たらないような距離だが……この異能の前では、それすらも無意味。

だから俺は、レティクルを美雪の頭──から、少しばかりズラした場所に定める。

武警法9条は破りたくないからな。


「……彩。解除」



直後。大気の流れが一瞬だけ戻り、強風が吹き荒れる。

そんな中、俺は呟きつつ引き金に指をかけ──



「誰が直接決闘なんて時代錯誤なことするか。俺がするのは、自己の絶対半径(キリングレンジ)からの……長距離狙撃、だ」



──引き金を、引いた。



~to be continued.

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