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お嬢様はツンデレだった

お嬢様は胸が無い。

「──《仙藤》に、泊まり込み?」

「そうだ」



武警校も昼休み時、俺と彩乃は教室の端で、2人で話していた。時折クラスメートの何人かがこちらを指さして何かを言い合っているが、そこは俺の関するところではない。


彩乃もそれに気付いており、幾度か怪訝そうな表情を浮かべる。



「少し、場所を変えることにしよう」



屋上にするか、と付け加えて、俺は廊下へと出ていく。それに彩乃もちょこちょことついて来た。

……まただ。周りの視線が集まる。いや、俺と彩乃が一緒にいると視線が集まるのはいつものことなのだが、最近、その『数』が増えてきたような気さえする。


ニヤニヤしている女子もいれば、こっそりと銃を向けてくる男子もいる。いったい何がそんなに不服なのだろうか。教えて頂きたいよ。男子諸君。







ガチャリ、と重い鉄の扉を開く。すうっと風が耳の隣を通り抜け、同時に太陽が強く照りつけてきた。

どうやら人は1人としていないらしく、閑散としている。俺としては、そっちの方が好都合なのだが。


……わざわざと場所を変えた理由は、俺たちが異能者組織の本部に関する人間だと悟られないようにするため。それが教務課の耳に入れば、後々の対応が面倒なことになる。そもそも、それは秘匿事項だからな。

とまぁ、それは置いておいて。



「さっきの続きだ。泊まり込みの理由だが……簡単に言えば、俺の都合だな」

「志津二の都合? って……何──わきゃっ!」



腕を組んで肘をついた俺の真似をして、落下防止の柵に寄りかかろうとした彩乃は、突然前のめりに倒れてしまう。

俺も初めは理解が追い付かなかったのだが、「痛てて……」と制服の砂をポンポンと払う彩乃を見て、気が付いた。



「……胸、か」



彩乃に気付かれないように、そっと呟く。

あまりにも胸が無さすぎて、ストッパーの役割を果たしてくれなかったのだろう。大きすぎても肩が凝るとは聞くが、無くても不便なモノなのか。



「……ふっ、ふふっ」



思わず、笑いが込み上げてくる。必死に堪えようとするが、なかなか上手くいかない。


それを聞いた彩乃も、自分の胸が原因だと分かっているのだろう。顔を真っ赤にし、目を釣り上げてこっちを睨み付けてくる。

しかし身長差がありすぎるために、子供が父親を睨んでいるような構図になってしまっているのがまた面白い。


そして──ぱかぽこぱかぽこ! と力の入っていないパンチで俺に殴り掛かってきた。



「いいの! そのうち大きくなるの! まだ成長期が来てないのっ!!」

「あぁ、そうかいそうかい。分かった分かった」

「心が篭もってない!」



ビシッ! と人差し指を鼻先に向けられる。珍しく頬が紅潮しており、犬歯も剥き出しで、まるで威嚇している犬のようだ。

俺はそれを軽くあしらいながら、話を続ける。



「……で、だ。こっちはこっちで《仙藤》の仕事があるんだよ。この間の一件──伊納に対する取り調べもしなきゃならない」

「ふーん……。それはいいんだけどさ、学校はどうするの? 結構距離があったよね?」

「そこは問題ない。行きは転送系の異能者がいるし、帰りは迎えに来てもらうだけだ」

「なら、志津二の好きなようにしなさい。どっちにしろ、私は《鷹宮》に何をしろと言われてないし、仕事も結衣に任せっきりだから。問題ないわ」



腕組みして結論を出すお嬢様は、まさかの放任主義。……俺より酷かった。



「ってワケだから、お前も必要なモノはトランクにでも詰めて持ってこい。数日は向こうに行きっぱなしだからな」

「じゃあ、私は帰ってもいいよね? あとは履修科目だけだけど、進級に必要な単位は取れてるから」



にやぁー、と俺を見下すような笑みを浮かべてピースする彩乃。心底腹が立つが、現にコイツは特攻科の中でも取得単位は多い方だ。

俺はというと、進級出来るのかも怪しいレベル。テストの点は低いやら何やらで人生オワタレベル。死にたい。


ガックシと肩を落とす俺を見た彩乃は、流石に可哀想に思えたのか、暫し考えてから、



「じゃ、じゃあさ……民間依頼(クエスト)でも受ければ?」

「……依頼、って──特攻科の依頼なんて、ロクなモノがないだろ」



武警は、民間からの依頼も受け持っている。それは学科別でジャンルが異なり、特攻科なら『護衛』、情報科なら『情報捜索』、装備科なら『共同開発』などと、幅広い仕事をこなしているのだ。


SからDランクの武警に見合う度合いの依頼を受け、それが無事に完遂できれば、依頼主から報酬金が貰え、武警校からは単位が貰える。

勿論、ランクが大きくなるにつれて難易度も高くなる。


俺もSランクの時に何回か特攻科の依頼を受けてみたのだが、違法賭博のカジノへ潜入捜査をしたり、突如起きた銀行強盗を解決したりと命が幾つあっても足りないようなモノばかりだ。


それがトラウマで、もう依頼は受けないようにしている。それが、勉強同様に単位が右肩下がりの理由の1つなのだが。



「ロクなモノがないって言ってもさ……それが武警の仕事よ? やらなきゃダメ。機会が来れば、私にでも言いなさい。検討するから」



得意げに(ありもしない)胸を張る彩乃を見て……俺は安堵すると同時に違和感を覚えた。というのも、



「……お前、最近変わったか?」



少し前──俺がコイツと知り合い始めた1ヶ月ほど前──は、こんなに俺のことを想っていなかったような気がする。執事という肩書きを利用されて、家事やら何やらを強制的にやらされ、武警校でもパシられることも多々あった。


しかし、あの一件からは、少しばかり俺に優しくなったような気もする。気のせいかもしれないが。

家事の頻度は変わらないが、近頃は手伝ってくれることが増えたな。率先して「私もやろうか?」とか、「私もやりたいっ!」とか。

まぁ、いいことだ。婿に嫁ぐにはそれ相応の家事スキルも必要だからな。


彩乃はそれを聞くと、ドキッとしたように軽く飛び跳ねてから、



「べっ、別に、アンタが大変そうだからとかそういう理由じゃなくて! 私の単位も多いに越したことはないかなって話よっ」



顔を更に紅潮させて腕をブンブン振り回す彩乃は──



「と、とにかくっ! 何かあったら私に言うこと! 良いわね!?」



ツンデレお嬢様らしい。







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