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総本山

第2章の幕開け。

──悲しいことに、鷹宮家の生活にもだいぶ慣れてしまった。

執事という名目で家事をさせられたり、彩乃の要望を聞いてやったり。無給料だけど。まぁ、俺も了承しちゃったからな。しょうがない。



「これで良し、と」



自室の一角、オーク材のテーブルの上に置かれている書類の数々を手提げ鞄に入れ終えた俺は、誰にともなく呟く。

それらはかなりの量であり、万が一鞄を落としたら悶絶するレベル──で痛いだろう。


チェーンに繋がれている懐中時計を見れば、約束の時刻まであと三十分。かなりの余裕がある。

ここでボケーッとしていても時間の浪費になるだけだし、準備が終わっているであろう彩乃の元へでも馳せ参じようか。


そう思いつつ、俺はリビングまでの長い廊下を歩いていった。







「彩乃ー、準備は出来てるか?」

「バッチリよ。……この際、キチンとした服にしないとね。《鷹宮》の《姫》を名乗って行くんだから」



そう言って、彩乃は自分の身だしなみを確認し出す。

季節も初夏に差し掛かった頃。半袖の純白キャミソールワンピに身を包んだ彼女は、やはりお嬢様感が満々だ。元からの素質というか、何かがあるのだろう。こういう人らには。


俺はそれをざっと眺めてから、率直な感想を告げる。



「ん、似合ってるじゃないか。……といっても、《仙藤》の本部の制服は、基本的に和服なんだがな。逆に目立つぞ」



そう苦笑しながら告げてやると、



「え、和服? 何で?」

「《仙藤》は古来よりの伝統に重きを置く組織なんだよ。だから男女関係なく、制服は和服。武器も日本刀や薙刀、和弓が一般的だ。で、それに異能を組み合わせてな」

「へぇ……。私のところの本部はガチガチのフォーマルスーツなのに。面白いわね」

「本来ならスーツが一般的なんだがな」



伝統と言われると、やはり格調高いモノと思いがちであり。高い敷居というか何たるかを感じる。

《長》である俺もそのことに否定はしないが、職員らの間では賛否両論なようだ。


まぁ、どちらを着ても似合うであろう彩乃は、壁掛け時計を一瞥して、



「それより、もう行くの? まだ時間が空いてるでしょ」

「そうだな……。仮眠でもとるか? 昨夜はあまり良く寝れなくてさ」

「あれ、珍しいわね。何で?」



不思議そうに聞いてくる彩乃に、俺は一瞬どう返していいか分からなくなった。

というのも、先日に行われた中間テスト。新学期1発目のそのテストの点数が、あまり宜しくないのである。


武警高は、将来のためになる人材を育成するための教育機関。故に学力のレベルもそれなりに高い──と思われがちだが。違う、そうじゃない。



「順位とかはどうだったの?」

「……約330人中の300位だった」

「……深刻ね」



武警高の偏差値は、約40。底辺に近いこの数字の中でも下位に位置する俺の学力は、相当なモノなのだ。彩乃の言う通り、深刻な状況である。

勉強しなくてはならないとは分かっているが、如何せん……ねぇ?



「ま、まぁ……というワケで、少し仮眠をとる。いいな?」



そう前置きした上で、現実逃避気味に、俺は顔を伏せた。





──ブブッ。


スマホのバイブレーションの音で、俺は目を覚ます。というか……寝てたのか。余程疲れてたのかもな。

そう思いながら、スマホの画面を見ると──どうやら、メールらしい。宛先は……桔梗か。


……うん? 桔梗?

その名に何か思い当たる節があるが、寝起きのために頭も回らない。出来る限りの思考力を以て、俺はメールを開く。



「『車のクラクションがうるさいと近隣から苦情が来ましたよ。早々に来て下さい』、と」



苦情か。それはいただけないな。ただでさえこちらは疲れているというのに。

俺たちがクラクションに気付かなかった理由は言うまでもないが、『早々に来て下さい』……? 何かあったっけ。



「あ、彩乃……今、何時だ?」



出かかった答えが限りなく正解に近いと分かっていながらも、身体がそれを受け入れることを拒む。

俺に肩を揺さぶられて起きた彩乃は、寝ぼけ眼を擦って時計を見て。



「……12時。それが何?」



彩乃が言い終えた瞬間、またもや外からのイラついたようなクラクションが1発。……ううむ。これに気が付いていないのもどうかと思うが。

まぁ、疲れていたのが悪いんだろう。それこそ──



「あ、彩乃! 早く支度しろ! 行くぞ!」

「……うぇ?」



──約束の時刻を、30分も過ぎるほどには、な。

ふあぁ、と呑気そうに欠伸をしている彩乃へ、懐中時計の文字盤を見せる。しばらくはキョトンとしていたが、



「時間が……飛んでる……!?」



何はともあれ、分かってくれたのなら良い。

俺は必死の形相で跳ね起き、館内の鍵を全て施錠、ガス諸々の確認を済ませ、先に玄関から出ていた彩乃の元へとダッシュで向かう。

キチンと鞄も持ったし、忘れ物はない……ハズ!



「歩いてないで走れ! アイツ(桔梗)は怒ると怖いからな。特に時間には厳しいし、怒りは遅刻時間の2乗に比例するぞッ」



ヤバい! とにかくヤバい!

……ったく、起きてこないなら電話でもすれば──と思い、リダイヤルを見る。

……不在着信が30件!? しかもメールはその2倍って。もうやだ。


どんなものかと一件目を見てみれば、

『早く来て下さい。待つの疲れました。駐禁切られたくないです』

……うん、これは普通だわな。許容範囲内。


しかし最後になると、

『(黄泉への)ドライブって楽しそうですよねー?』

だってさ。地味に顔文字も付けてある辺り、近いうちに俺の死は訪れるかもしれない。




──はい。黒塗りの高級車(ロールスロイス)に追突事故を()()()()()仙藤志津二です。

桔梗の運転する車は学園都市を抜け、既に車もまばらな田舎道へと差し掛かっております。


で、俺は先程から桔梗に遅刻した件についての弁明をしているのだが、



「それはどう考えても勉強不足なのが悪いです。標準の学生なら、武警高に入れば学年上位くらい簡単ですよ」

「なら、そういうお前は何位なんだよ」

「私が学校に行っていないのを知ってての発言。見損ないましたよ」

「……悪かった。遅刻した件は素直に謝る」



心が折れた俺は、仕方なく頭を下げる。

桔梗はバックミラーでそれを見ると、ハンドルを人差し指でコンコン、と叩きながら、



「なら、焼肉でも連れてって下さいよ。職員全員連れて。……あ、経費はダメですからね」

「待って!? 1000人余りを俺1人が出すの!?」

「……はい。そうですが」



躊躇い無く言い切りやがった。コイツは冷酷だ。


はぁ……と溜息をついた俺は、渋々と窓の外を見る。大通りもとうに逸れ、塗装が不完全な脇道を、桔梗は運転していく。


この車が何処に行くのかというのは、じき分かる。だから俺は、桔梗に殺されないための策を練っておかねば。

そうこうしているうち、車がブレーキ音を響かせて止まる。


窓の外に見えるのは、ホテルとも見間違えそうなほどに豪華な建物と、ロータリー。少し先には、全面ガラス張りの自動ドアがあった。


そこを彩乃を後ろに控えて通れば、俺の数歩前に立っていた桔梗と数人の職員が、恭しく頭を垂れた。



「お帰りなさいませ、《長》。……そして、ようこそいらっしゃいました。鷹宮彩乃様」



──古来より代々と続く、異能者組織《仙藤》の総本山。その、本部へと。



~to be continued.




第2章の幕開けとなりました。彩です。


ところで、ブクマが100件超えてましたね。これで私も脱低だ。いぇい! 中流作家。()

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