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二度目のエンカウント

「やはりパンケーキにはチョコソースだと思うんだが」

「え、シロップじゃないの? そこは」



大通りにも差し掛からない路地。そこで俺たちは話していた。

彩乃が夕食にスイーツを食べに行きたいと駄々を捏ねたため、俺たちは大通りにオープンしたパンケーキ屋へと向かっている。夕食にスイーツという点はツッコまないでほしい。


そのまま進むと、右手に公園が見えてきた。この公園は大通りへと向かう近道となるから、俺もよく通る経路だ。

いつもは幼児が和気あいあいと遊んでいるのだが、まぁ、この時間帯だ。いる方が珍しいだろう。


そうこうして、公園の中央部まで歩いていた時だ。あの時のように、声が掛かったのは。



「…………少年。貴様は何者だ」

「──ッ!?」



油断していたといえば、そうなのだろうな。あの一件から音沙汰はなかったし、何より一切の気配すら感じなかったのだから。


俺たちから数メートル離れた遊具の陰。そこに背を預けつつ俺をしっかりと見据えてくる、その男。

見間違えもしない。忘れるハズもない。コイツは、あの時の──!


逃げようにも、入口からだいぶ離れてしまった。左右は木々とフェンスに囲まれており、あれを飛び越えるのは苦ではないにしても、大幅なタイムロスだろう。今以上に、アレを恨めしく思った事はないぞ。


そう毒吐きつつ彩乃を庇うようにして立ち、少しでも会話を伸ばしながら男の情報を得ようと試みる。ダメ元の策だが、これが吉と出るか凶と出るか……。



「……俺、か? 普通の武警高生だが」

「武警高の生徒にしても、照準を定めていないにも関わらず、此方の足元に、的確に威嚇射撃をする、という芸当が出来るのか? アレは異能と断定して問題ない。そして貴様は──異能者だと、結論付けられる」



バカが、墓穴を掘ったな。異能者などという言葉、一般人が使うような言葉じゃない。やはりコイツは、()()()()()()()だ。


いつになく不安そうに俺の手を握ってくる彩乃に大丈夫だ、と小声で囁き、未だ身体を隠している男へと意識を集中させる。

確かにコイツの言っていることは真っ当な考えだ。だが、



「はい。そうですよ、って素直に認めると思うか?仮に、認めたとして──」

「否。それだけでは、(いささ)か足りない」



じゃあ、どうすれば──と俺は訝しむ。

だが男は一向に気にする素振りは見せず、それを告げてきた。それは、常人では知り得ないモノ。それを、コイツが知っていたのだ。



「貴様、仙藤志津二は確かに《仙藤》という組織に属する。しかし、学生と記されていた。それも──」

「だから、そう言ってるだろうが……」

「──個々の異能すら記されている、《マスターデータ》に」



……あぁ、成程。そういう話か。そこまで調べがついてたか。



「事実、俺は異能者だと判断出来るって事か。だが、そこに食い違いが生じている、と」



コイツが知りたいのは、これだ。

マスターデータに記されている仙藤志津二という人間は、ただの高校生に過ぎない。だが、照準を合わせることなく的確に威嚇射撃をするという芸当は……異能者にしか、成し得ないモノ。


──その矛盾を成立させている俺は、一体何者なのか。


そもそもマスターデータが簡単に閲覧出来るモノでもなければ、弄れるモノでもない。異能者組織に関する人間なら誰もが知っている事だ。



「わざわざそれを聞きに来たのか。ご苦労だな」

「これも仕事の内。──再度、問う。貴様は何者だ」

「……さあね?」



コイツは──危険だ。何処までを知り、情報として取り入れているのかは定かではないが……本家筋という立場上、こちらとて看過は出来ない。

小さく恍ける俺を見たその男は、懐から何かを取り出した。木鞘に収められたそれは、短刀。所謂、ドスというヤツだ。


カラン、と音を立てて落ちる木鞘を見て、俺もバタフライナイフを抜いて身構える。今回は、銃は無しだ。消音器を装着してないため、発砲音で射撃したことが周りにバレる。


対する男は、前回とは打って変わって短刀。これは隠蔽も容易ではない。それ程なまでに本気なのか、はたまた焦燥しているのか。


短刀を構えた事によりやっと全身を現したその男。前回同様、ソイツから目を離さず、俺は即座に足元にあるビー玉程度の小石を手にした。

男は訝しげに俺を見たが、すぐさま元の鉄面被へと戻った。恐らく、俺がそれを手にした時点で投じられるとは予測済み。


だが、それが()()()()()()()()()()()()()()()()()()、見抜けていなかったろう。


──身体を出した事が運の尽きだ。

そう呟きつつ手にした小石は、俺の『魔弾の射手』によって投擲された。

ライフル弾が如き速度で飛来するそれは、男の眉間に一発。胴体と足にそれぞれ一発ずつ。


避けられない。そう確信して、俺は投擲したのだ。そして隙が生じた頃合いを見計らって、逃げる──ハズだった。



「……ッ」



だが、その三発の小石(銃弾)は、消えたのだ。文字通り。

男に当たる寸前。音も無く、最初から存在しなかったかのように消え去ったのだ。



「こりゃ……マズイな」



それを理解すると同時、俺の頬に冷や汗が一筋垂れる。

コイツは、異能者だ。それは確定している。だが、肝心の異能が解らない。

俺が脳内で可能性を模索している中、男は短刀を手にして駆けてきた。それを察知した俺は咄嗟にバックステップし、開いたバタフライナイフを構える。


振りかぶられる短刀に反抗するように逆袈裟に振り上げられたそれは、男に当たれば御の字。引いて距離を取ってくれてもこのまま走り抜け、逃げる事は可能だ。


だがそれが男の腕に当たろうかという刹那の時、俺の手中から、ナイフの持ち手である金属の感覚が消えた。



「……はっ?」



突然の事に対応出来ず、俺に一瞬の隙が生じてしまった。だが、男にはそれだけで好機。一瞬の気の乱れが、勝敗を決する。

直後、聞こえるは風切り音。勢いよく振りかぶった左腕はそう簡単に戻るモノではなく、既に短刀の間合いにあった。



「ッ!」



紅い鮮血が散り、地面を染める。

耐えきれずに彩乃諸共後退した俺の頭で、一つの結論が浮かんだ。

……この一連の流れで理解した。最早、人が云々の状況ではない。 アイツと俺の異能は相性が悪過ぎる。恐らく、だが──



「『消失』、か……!」



物がある事を前提とした俺の異能とは相容れない。天敵とも呼べる異能。

腕を押さえて元来た道を走りながら後ろを振り返れば、どうやら追ってくる気配はないらしい。流石に人目に付くのは、依頼完遂への支障を来されるという事か。


──これは……面倒なことになったな。



~to be continued.

あと3件でブクマが100になるッ……! カモン! カモォォォンッ!!()

……いつもご愛読、ありがとうございます。感謝の極み。嬉しみ。

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