日常でも戦闘回
武装警察こと、武警。そのライセンスを取るだけで、将来は大きく変化する。
元来、武警はSITやSATが対応しきれなくなった凶悪犯罪に対抗すべく作られた機関だ。それ故に、武警を始めとする様々な法的機関が新設された。
武装警察に次ぐ武装シリーズ──例えば、武装検事や武装弁護士、武装探偵などといった職も存在する。これらが従来のモノと異なるのは、やはり荒事任せということだろうか。
依頼するのはお偉いさんたちで、その分依頼内容も熾烈を極める。そこも含めて成し遂げるのが、武警の凄みだろう。
仮に一般職に就いたとしても、武警というライセンスは残り、優遇される。どちらにしろ、将来バラ色は間違いない。
……まぁ、そこに至るまでが大変なんだがな。
◇
武警は荒事任せの仕事。故に、武術や銃の扱い、剣術の扱いには長けていなければならない。そこを個々の異能も含めて後押ししてくれるのが、俺が在籍する特攻科である。
現在、俺はその特攻科棟で模擬戦をしているのだが──
「おらー、二人とも本気出してやれー。それでも異能ランクⅤかぁー?」
模擬戦用のフィールドから少し離れた場所で、対戦相手である彩乃と俺にやる気が無いような声で命令するのは、特攻科顧問の四宮那月。
腰ほどまである長髪と、レッグホルスターに携えたコルト・SAA。そして斬馬刀を担ぐその姿は、狂戦士を彷彿とさせる。
それもそのハズ。武警高の教師は元々ロクな人間がいなく、元ヤクザなりマフィアの息子娘なり、傭兵なり、経歴がヤバいのが多い。
四宮も例外ではなく、何処かの国の傭兵を勤めていたらしい。クビになったから武警高に転職したって噂だ。
「本気、って……これ以上本気出しても私が疲れるだけよ!」
「お前が疲れるかどうかは知らねぇよ。問題は、コイツらの教育だ」
反抗する彩乃を飄々と受け流した四宮は、背後にいるギャラリー──特攻科の生徒らを指さして、口の端を歪めながら言った。
……そう。俺たちは今、Sランクと元Sランクという肩書きをいいことに、特攻科の教育材料として使われているのだ。
「いいから、ほら。やれやれー。レディー……ファイトッ!!」
コルト・SAAの発砲音を合図として、模擬戦は再び開戦された。
数メートルと距離を置いた俺たちは視線を合わせ、「始めるぞ」とアイコンタクトを送る。
次の瞬間、彩乃はホルスターから抜いた自分の銃──グロック19、模擬戦用銃弾搭載──の照準を、俺の腕と腹部に合わせてフルオートで発砲した。
彩乃が頭部を狙わなかったのには理由があり、それは、武装警察独自の武警法という法律に倣ったからだ。
──武装警察法・第九条。武装警察は、人を殺めるべからず。
仮にでも殺した場合、武装検事によって法に裁かれる。国家公務員が人を殺めたとなれば、重刑は免れないだろう。
迫ってくる計六発の銃弾に対抗すべく、俺もベレッタをフルオートにして、同じく六発の銃弾で去なす。
俺が手にしているのは、銃。つまり、異能である『魔弾の射手』も適応されているということだ。それに加え、最高性能での使用が可能。
今の俺は、銃弾を避けずに去なすことなど簡単なのだ。その軌道が全て見えているのだから。
意図せずスローモーションと変化した視界の中で、俺が放ったパラベラム弾が、彩乃の放ったパラベラム弾に掠めるようにして当たる。
火花を散らして軌道が変化したのを確認してから、俺は追撃として、マガジン内に残っていた全弾を発砲する。
「くそぅ……!」
安心したのも束の間、追撃を受けた彩乃は軽く舌打ちをしてから、始業式の朝にも見せた弾幕を次々と放っていき、銃弾と相殺させる。
──言わば、銃弾と弾幕の交錯戦。硝煙の匂いと霧散した弾幕の煙がフィールドに立ち込める中、四宮含むギャラリーらはそれを食い入るようにじっと見ていた。
弾幕では勝てないと感じたのか、弾幕をレーザー弾に変えた彩乃は、銃をホルスターに仕舞ってから両手をフリーにした。
……これは恐らく、レーザー弾の生み出す効率を良くするためだろう。単純な計算として、二倍になるワケだ。しかも、貫通力が高いレーザー弾を使用するあたり、模擬戦だということを忘れてるんじゃなかろうか。
俺も付け焼き刃程度にしかならないバタフライナイフを取り出し、銃と刀剣類の構え、ガン・エッジという構えに変えた。攻撃的な構えというのが特徴だ。
「これ全て──全部避けられるかなっ?」
「やってみなきゃ分かんねぇだろうが。……来な」
嘲笑するように言った彩乃に、俺も攻撃的な口調で返す。
刹那、視界内に数多のレーザー弾が生み出された。それらは全て俺と、その周囲を囲っているモノであり、「動くな」ということを示唆している。
あまつさえ、俺の腹部を抉るような軌道で、それらとレーザー弾の一つが猛スピードで飛来してきた。
────どうする。どうする、俺よ。
再びスローモーションと化した俺だけの世界の中で、思考を巡らせる。
どうすれば、このレーザー弾を避けられるのか。動かずして、防ぐことが出来るのか。
刹那、俺の脳内にフラッシュバックしたのは、アクション映画でよく見た銃弾を切る光景。これは銃弾ではなくレーザー弾だが──やってやろうじゃねぇか。僅かでも確率があるのなら、それに賭けてやる。
俺は迫り来るレーザー弾へと向けて、バタフライナイフの刀身を交差させるように軽く当てる。
そして下から勢いよく振りかぶられたバタフライナイフは、俺の予想を遥かに超えた働きをしてくれた。
ジュっ、という音と共に気体を放出して霧散していくそれを見届けたギャラリーらは、感嘆の声を漏らしていた。
しかし一番驚いているのは、術者本人である彩乃だろう。
この一連の流れに名称を付けるならば──銃弾切り、か。今回は銃弾ではないが、この理屈だと銃弾でも出来そうだ。出来ればやりたくないけど。
俺の中での、時が戻った刹那、ヒュンっ、という音が耳元で連なる。
それは俺の周囲を囲んでいた数多のレーザー弾。今では、無用になってしまったただの弾幕。
彩乃は「嘘でしょ……!?」みたいな顔をしてから、力なくへにゃりと地に座り込むと、直後、俺を睨みつけてからスタスタと歩み寄ってくる。
「……別に、負けたワケじゃないから。あんたの力を試したかっただけよ。これは本当。本当の本当だから」
「典型的ツンデレのパターンだな。顔が赤いぞ」
赤くなりながらもそっぽを向いて、ツンデレ的言い逃れをする彩乃。
しかもサラッと『あなた』から『あんた』に格下げなのね。そこは触れないのね。
そうツッコミながらチラリとギャラリーらを見れば、唖然としている者や拍手などなど、リアクションは様々だ。そうしているうちに俺と目が合った四宮は面倒臭そうに立ち上がると、
「……流石、特攻科きっての麒麟児だな。武警での功績は鷹宮は良しとして……仙藤。お前はどういうことだ? 特攻科所属というのに最近は情報科なんかに出入りして──」
顧問による、有難くもないお小言が始まりましたとさ。めでたしめでたし。強制終了。
~to be continued.
戦闘描写増し増し。書いてて楽しい。