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第三話
「ホットケーキっ」
焼きあがった、こんがりきつね色のホットケーキを、フライパンの上で踊らせる部長を、シッカリと深谷が見ていた。
まさに涎でもたらしそうな顔をしているのを、俺は見ないふりをしつつ、部長がつくるホットケーキの数々を見ていた。
「惚れたかい?」
視線に気づいたのだろう。
部長がにやけて俺に言った。
「っ、いえ。きっと違います」
「残念だなぁ。君があと2年早く入学していたら、私と付き合うことができたかもな」
そういって、そばにいた及川先輩に、さっきまで使っていたヘラを向けた。
「私は及川と付き合っているんだ」
「あ、それは知ってました」
深谷がさらっと言った。
俺も知っている。
というのも、その話は岩嶋先輩から聞いていたからだ。
驚かせるのに失敗して残念そうにしている部長をよそに、ホットケーキは人数分積み上げられた。