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序、二人の死神

あまりホラーっぽくありません。これでよいのでしょうか……

死神――

鎌を携え死者の魂を導きし者。

神に与えられし命を自らの手で絶った罪人でもある。

少女は定めによって死したにもかかわらず死神になることを請い、神は一人の死神を同行させることでそれを許した。

黒衣を纏いし二人は今日も死せる者の元へ往く。

その場所は――




ある山の中、たった一点のみ静寂に包まれたところがあった。

欝蒼と茂った木々の間からわずかに漏れる日の光がただ静かにそこにあるものを照らす。二階建てのかろうじて屋根の色が赤であったことが分かる程度の朽ちた洋風家屋。

過去に何者が住み如何にして居なくなったのか、様々な噂が流れていたが真実のところは不明である。


そこはいわゆる『本当に出る』心霊スポットであり、夏場になると若者たちが肝試しに来ては期待はずれと笑いながら帰り……あるいは死に物狂いで逃げ帰った。


そこには確かに何かがいて今までは侵入者に対しほんの少し驚かす程度であった。しかし。


廃屋の二階の部屋。

まず目につくのは扉の下から部屋の中程にまで広がる暗色の水溜り。

それは部屋の中央に転がるくまのぬいぐるみを赤く染め、鉄に似た臭気を放っていた。

その源は壁に取り付けられたクローゼットの扉の隙間。

不意にそのうちから音がし扉を押し分け黒い塊が転がり出た。

もしここに何者かがいたのなら悲鳴を上げずにいられなかっただろう。

それはかろうじて人間であることが分かる程度のあちらこちらが欠損し、いくつもの部分に引きちぎられた肉塊。

開け放たれたクローゼットには量からして全部で二、三人分であろうか、人間の仕業とは思えぬほどに変形し損傷した肉塊がうずたかく積まれていた。




そこには明確で異常な死のみがあった。



静寂の中、不意に天井のあたりで黒い靄漂い、収束して一対の目玉を形作る。

それはしばし肉塊を見下ろした後外にその視線を移し、視界にカーテンの隙間から見える新たなる侵入者をしかと捉えた。





――それより十分ほど前。


「やっぱ止めようよ」

廃屋に続く山道を登りつつ少年は先行する友人におびえた様子で言葉をかける。

「大丈夫だってちょっち探険するだけだから」

そんな様子の彼に友人はつり目がちの瞳を笑みの形に細め、先に行く。

探険の為の荷物か、はたまたおやつを詰めているのか、その背には膨らんだ子供用のリュックが揺れた。

「でも……」

彼の脳裏では今まで散々振り回されては酷い目に会ってきた彼の勘が警鐘を鳴らしていた。

友人は呆れたように息を吐きぶっきらぼうに彼に言い放つ。

「ビビりって言われたいのかよ」

「そうじゃないけど」

ぐだぐだと言葉の応酬を続ける二人、もう目的地の廃屋は木々の間から見え始めている。

彼らにとってこの廃屋を探険することは英雄的行為といえて、廃屋に行った証拠でも持って帰ればクラスメイトから賞賛を得ることは間違いない。二人の決意が固まり始めたとき、彼等は視界の先に黒い靄を見た。

「なんだあれ」

靄は見る間に形を変え、色彩を帯びていく。

その正体を理解し少年達の表情が驚きと未知の物体に対する恐怖に染まった。


「な、生首」

彼らの視界で靄は逆さまに浮かぶ少女の首に変化していた。

やばい。


顔を見合せ意見を一致させる。

その瞬間少女の首は少年達の目と鼻の先に移動し、にいっと笑った。


「出たー! 」

次の瞬間少年たちは叫びを上げ一目散に山を転げ落ちるように逃げて行った。



少女の首はぱちぱちと眼を瞬かせ彼らの驚きようにけらけらと笑いひとしきり笑った後、彼女は沈黙し目を閉じた。

それと前後するように彼女の首の付け根の部分に再び黒い靄が現われ収束し首から下の身体を形作る。黒いワンピースに背中の中程の長さの癖の無い黒髪が重力に逆らってゆっくりとかかる。その肌は血の気が全く宿らず、その唇のみが紅い。

彼女はそのまま体をくるりと回転させて着地し、閉じていた目を開き何かを探すようにきょろきょろとあたりを見回した。


真白(ましろ) 」

彼女の背後から抑揚のない声がかかる。

不意に名を呼ばれ少女は先ほど年下の少年たちを驚かせた時の様子とうって変わって心底驚いた様子で肩を震わせる。

「何故あの子供らを助けた? 」

続けてかけられたぎこちない動作で後ろに首を回すと、背後の木の幹が一瞬黒く染まったのち、そこから黒い影が生え出てきた。

そして黒いローブを身に纏った影は顔にかかったフードをはぎ取り、少女はその顔を見て安堵の息を吐く。

「黒! 」

彼女の背後にいたのは彼女より一回りほど年上に見える青年。

彼は顔の右半分を長い前髪で隠した能面のような顔をゆっくりと少女の方に向ける。

「おどかすなんて趣味が悪い」

自分のことは棚に上げて彼女は彼に非難めいた視線を送った。

「もう一度問う。何故そうした」

黒、と呼ばれた彼は彼女の言葉を無視し再び機械的に問いかけた。

「だって、あの子たち行かせたら仕事が増えるじゃない」

「だが生者の行動に手出しするのは……」

そう言いながら二人は歩き出す。

歩くといっても僅かに地面から足が浮いており地面に影は映っていない。

それは二人が少なくとも生者でないことを示していた。

「でもさ、ほっといてあとからいやな思いしたくないし」

もう済んだことだし、と彼女は全く悪びれる様子がない。彼の方は沈黙した後、小言を言っても無駄と小さくため息を吐き首を振った。

「……それも一つの回答だな」

「でしょ」

よく言えば無邪気。

悪く言えば無自覚。

彼女はそう言って木漏れ日を全身を浴びるようにくるくると回る。

途中木の幹にぶつかりそうになりそのまますり抜けるが二人とも気にする様子は無い。

夏の深緑に包まれた中で二人の纏う色は非常に目立ちどこか浮いて見えた。




長い文章を読んでいただきありがとうございます。読んでいて気が付いた方もいるかもしれませんが一応この作品は短編「死神は六花に唄う」の続編です。なるべくこの単体で読んでも大丈夫にしましたが……一応真白の相方の名前もセンスゼロなりにつけてみました。なるべく早く後編はのせたいと思います。

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