第1話
「くそっ!一体なんなんだよっ朝っぱらから!」
宗也は女性の悲鳴を聞くや否や全力疾走で駆け出してい
た。
日本が宗教主義国家となってからとゆうもの街中で
事件が起きるなどとゆう事は滅多になかった。
人が神を崇めその教えを説くことで他者を
傷つけるとゆう感情がどれだけ愚かであることを理解
したからだ。
誰かを傷つけるために力を使うのであればその力を誰
かを救うために使いなさい、とゆうのはこの街に教会
本部を置いている《リリアン教》の教えである。
この街に住んでいるリリアン教徒たちならばそんな事
は承知しているはずだ、だから余程の事だと思い宗也
はかなり焦っていた。
街の人達が慌てた様子の宗也を見て何か言葉を投げか
けてくるがそれどころではない。
(どんどんと人気のない方に入っていくな。)
胸の動悸が激しくなる。
そして何度目かの角を曲がった時、足元の違和感に
気付いた。
(なんだ?石畳みの溝のところに何か流れている)
不審に思い足元を手でなぞると指先に赤黒い液体が
ついていた。
「っ!?なんだよこれ……」
足元から流れる赤い水の先をおそるおそる視線で追っ
ていくと、女性が血を流し横たわっていた。
長い髪は血で濡れ真っ赤に染まっており、首を切られ
たのか首元からは大量の血が吹き出していた。
足元を流れていた液体はその女性の血だったのだ。
(なんで?)
(どうして?)
(死んでいるのか?)
頭の中でいろんな感情がない交ぜとなり状況を理解す
ることができない。
無理も無い、死体を見るなんて経験17年生きてきたな
かでも初めての経験なのだ。
宗也は混乱して野次馬が集まり辺りが喧騒につつまれ
るまでただその場に立ち尽くしている事しか出来なか
った。
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「で、あなたが礼拝堂に向かっている最中に女性の悲
鳴が聞こえ駆けつけたときには亡くなっていたと」
「はい……」
宗也が我にかえると辺りには人だかりができていた。
その後、駆けつけた憲兵に事情徴収とゆうことで今そ
の時の状況を説明していた。
「わかりました。あなたは教会の聖職者の方ですよね?」
「そうですが、それがなにか?」
憲兵は一瞬迷ったような顔をしながら顎に指をあてて
歯切れの悪い物言いで
「いやぁ……さっきの女性もそうなんですが、最近
教会の聖職者が殺される事件が起きてまして……万 が一とゆうこともあるので一応注意しておいてくださ
い」
(聖職者が殺されてるだって!?そんな話聞いたことないぞ。)
「わかりました。ただ、その聖職者を狙った事件とゆうのは初めてきいたのですが」
「一応、民間人を不安にさせないために緘口令がしかれているんですよ」
「はは、だったら俺に話たらだめじゃないですか。」
宗也はさっきの事件の事を忘れようと無理に明るく振
る舞い冗談交じりにおどけてみせた。
「でもまぁ、あなたは教会の聖職者なので用心のためにも伝えておいた方がいいと思いまして」
といささかバツの悪そうに憲兵は言った。
そこで憲兵は「あっ!」と声を上げ
「そいえば礼拝堂に向かわれている途中でしたよね?お時間とらせて申し訳ありませんでした!」
「いえいえ。でもこの時間じゃ祈りには間に合いそうにありませんがね」
宗也は苦笑いで頭かき祈りを捧げられないことを内心
で反省し
「では私はこれで。神のご加護があらんことを」
と両手の指を抱き合わせるよう胸の前で組み頭を下げ
た。これはリリアン教徒での挨拶のようなものでその
際にはこのポーズをとるのだ。
「神のご加護があらんことを」
憲兵も同じポーズを取り頭を下げるのを確認して宗也
は急いでその場を後にした。
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礼拝堂に着くと信徒達が教義を聞きながら祈りを捧
げている最中だった。
信徒達は皆、両手を合わせ俯き加減に目を閉じていて
その光景はいくらか現実感が無くとても神聖なものに
見える。
(やっぱり間に合わなかったか)
宗也はその神聖な時間の邪魔をしないよう、こっそり
と礼拝堂の一番端の目立たない所に立ち祈りを捧げ
た。
しばらくして教義が終わり皆がそれぞれ解散してゆ
く、それを見送っていると先ほど教義を唱えていた司
教が宗也に近づいてきた。
「真面目なお前が遅刻するなんて珍しいな。なにかあったのか?」
「いえ……それは……」
宗也の階位は司祭だ。
司教は序列のうえでは司祭の上であり、本来ならば嘘
偽りなき真実を語らなければならない。
しかし、先ほどのことは緘口令が
しかれていると言っていた。
宗也はどうしたものかと一瞬考えた後
「恥ずかしながら寝坊しまして……」
と、苦笑いで答えた。
(緘口令がしかれてるってことは、多分司教より上の大司教達がきめたことだ。ここで話すべきではないな)
「そうか。まぁたまにはそんなこともあるだろう。それより獅童大司教から伝言を頼まれてたんだ。」
「伝言?」
「ああ。礼拝堂での祈りが済んだら教会本部に顔を出すようにだとさ。」
(教会本部に?なにか用事でもあるのか?)
「伝言確かに受け取りました。では、私はこれで失礼させていただきます。」
「ああ。気をつけてな!」
とゆう司教の言葉へ返事をして鈍色に染まる空の下い
つもよりは幾分重い足取りで教会本部へ向かった。